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「時代にあった変化を」“年収の壁“  女性たちの葛藤【報道特集】

総合
2024-11-23 21:09

働き控えを招く年収の壁。専業主婦の世帯が多数をしめていた時代にできた制度に悩まされてきたのが女性たちです。中にはこの制度に対し20年以上前から「時代にあわせて変えるべき」と声をあげてきた女性もいます。彼女たちの葛藤を取材しました。


【図で見る】パートタイマー「就業調整している」59.7%


キャリアアップに踏み出せない…女性が直面する“年収の壁”

年収の壁に直面し、働き控えをする女性がいる。


不動産会社でパート職員として勤務する平田賄子さん(32)。週3日、年収が103万円以内に収まるよう働いている。1児の母でもある平田さんは、午後5時には退勤し4歳の娘を迎えに幼稚園へ向かう。


夫と3人で暮らす平田さんは子供が2歳の時にストレスを減らそうと再び働き始めたが、働いたことで貯蓄もできるようになった。学費など子供の将来を考えると、もっとお金を貯めたい気持ちもある。


平田賄子さん
「何かあったときにまとまったお金がいるときが多分出てくるとおもうので、そういうときのために『貯めておかないと』とは思っている感じです」


しかし、そんな平田さんに立ちはだかっているのが「年収の壁」だ。


年収が100万円を超えると住民税を、103万円を超えると所得税を納めることになり、さらに106万円、または130万円に達すると社会保険料の負担が生じる。


年収を100万円以下に収めれば、住民税、所得税、社会保険料を負担する必要はない。これが女性の働く意欲を抑制させる要因になってきたという指摘がある。


平田賄子さん
「(制度が)わからないから103万円にしているところもあります」


「1円も引かれたくない」という平田さん。将来的にはキャリアアップをしたい気持ちもあるが簡単には踏み出すことができない。


平田賄子さん
「もうちょっと長い時間働けるのであれば、ちょっとキャリアアップはしていきたいなとは思いますけど。迷うかもしれない。(引かれて)もったいなくなるんだったら、もうちょっと今の状態でいるかもしれないですし」


“年収の壁”のしわ寄せ 「雇う側」にも

年収の壁は労働者だけではなく、雇う側にもしわ寄せが及んでいる。


近畿や首都圏で300店舗以上を展開するスーパーマーケットチェーン「ライフ」。東京・世田谷区にある桜新町店は、従業員270人のうち150人がパートタイマーだ。


ライフ桜新町店 杉秀彦 副店長
「実際のところ(自分の)明細を見てみると、まずい、103万円を超えちゃうから今月働けませんとか、そういったところが急に降ってくるので」


年末が近づくこの時期、働き控えが増えシフトの調整がより大変になるという。


杉秀彦 副店長
「本来4時間なんですが働けない.。この日は1時間で帰っているんですよね。本来だったらここまでいてくれるので。ここの午前中、お客様が一番入る時間帯ですね。レジが慢性的に不足しちゃうとか」


11月15日のレジ作業のシフト表を見ると、必要とされるレジの台数より実際はほとんどの時間帯で1台から2台、レジの稼働が少なくなっている。


しかもライフでは能力に応じて、時給を5円単位で上げているので、出勤を控える人はおのずと増えていくという。


杉秀彦 副店長
「管理職としてはパートさんが時給上がるのは嬉しいんですよ、頑張ってくれた結果なんで。そうなんですけど今の時期が近づいてくるにつれて、時給があと20円低ければなとか、その分103万円を気にしてない方たちに、労働がいっちゃうんですよね」


パートを始めて5年半になる40代の女性は、年収の壁には常にジレンマを感じているという。


パートの女性(40代)
「(壁が)なければもっと働けるのになっていうのと、働いている仲間に迷惑をかけなくていいのが一番のジレンマですね」


夫と子供2人の4人家族。家事をしながら働くのには、パートのほうが都合がいい。だが年収の壁を超えると、途端に税金や保険料の負担が生じてくるため、毎年、働き控えをしているのが現状だ。


パートの女性(40代)
「働けるならもうちょっと働いてもいいんじゃないと思うんですけど、やっぱり扶養内っていう大きな壁がどうしても103万円を超えたら、また次の壁がどんどんどんどん出てきちゃうので、本当に割り切って、振り切って正社員とかにならないと手取りが増えなくなっちゃうので。だからそうするんだったら、もう今のままの状況がいいんじゃないのっていう家族の話で」


全国のスーパーで働くパートタイマーのアンケートでは、配偶者がいる人のおよそ6割が年収の壁を意識して就業調整していると回答。そのうちの8割が、100万円、または103万円の壁を意識している。


さらに7割以上が「年収の壁」が解消されたら今より働く意欲があると答えている。


なぜ政治は“年収の壁”を変えられないのか

80年代までは、専業主婦の世帯が共働き世帯を大きく上回っていた。その後、女性の社会進出が進み共働きが主流になった。


こうした社会の変化をうけ、年収の壁について、歴代の総理も見直しに言及してきた。


安倍晋三 総理(2017年1月 当時)
「103万の壁を打ち破ります」


岸田文雄 総理(2023年1月 当時)
「女性の就労の壁となっている。いわゆる103万円の壁や130万円の壁といった制度の見直し。諸課題に対応していきます」


しかし、壁は崩れなかった。中でも、批判があったのは「130万円の壁」となっている社会保険料の支払いだ。


共働きやシングルマザーは自己負担にもかかわらず、サラリーマン世帯の専業主婦の保険料は社会全体で負担している点が問題だと指摘されていた。


民主党政権で厚労大臣を務めた小宮山洋子さんは…


元厚労大臣 小宮山洋子 氏
「共働きの人もシングルの人もみんなでサラリーマンの妻の保険料払ってるんですよ。これはどう考えてもおかしいでしょう」


この制度をめぐっては2000年代初頭、厚労省の有識者会議で「女性の就業を抑制」「制度が邪魔をして就業や賃金における男女格差が固定化」などと繰り返し批判され、見直しが提言されてきた。


2009年に、政権交代した民主党はマニフェストに「新しい年金制度」をつくることを盛り込んでいた。その後、大臣に就任した小宮山さんは、制度の見直しに取り組んだが、民主党政権が短命に終わり、年金改革の機会は訪れなかった。


日下部正樹キャスター
「政治の世界ではなかなか問題の解決っていうかな、解決の見通しがついてこなかった。これはなぜなんですか」


元厚労大臣 小宮山洋子 氏
「男が家族・家庭の大黒柱で、女はそれを補助すれば良いという考え方が根強いので、それを変えるような法案が政府提出の法案として出されない。野党が出してもそれを審議しないという、そういう形が続いてきたんだと思います」


「今も壁を意識しながら働く人は圧倒的に多い」

20年以上前に厚労省の有識者会議で、年収の壁の問題点を訴えた女性がいる。


横浜市で子育て支援のNPOを運営する原美紀さん(57)。結婚・出産を機に、勤めていた企業を退職し、2000年にこのNPOを立ち上げた。


当初は、夫の会社からの手当てが無くなるという理由で、“年収の壁”を意識して働いていたという原さん。NPOの職員や、施設を利用する女性たちも同じような葛藤を抱えていたと話す。


――スタッフの皆さんは専業主婦の皆さん?


認定NPO法人『びーのびーの』事務局長 原美紀さん
「そうですね。何年か働いて、出産や結婚で辞めた方々でしたね」


――もっとキャリアを積みたかった?


原美紀さん
「そういう人はいっぱいいたと思います。男女雇用機会均等法が出来て、それを導入したときぐらいにバリバリやり始めた人たちなので、多分すごい葛藤があったんじゃないですかね。利用者の方も、色々話を聞くと、やっぱり夫から『それ(=年収の壁を越えること)は控えてほしい』という発言もよく聞いていたので」


NPOを立ち上げた翌年の2001年。原さんは厚労省の有識者会議に出席し、“年収の壁は実態と合っていない”と制度の改善を訴えた。しかし、その後も20年以上、根本的な見直しには至らず、多くの女性がキャリアの断絶に悩む姿を目の当たりにしてきた。


原美紀さん
「企業で働いている方の妻である方が、被雇用者で活躍していただいていますけど、やっぱりそこの壁を意識しながら働いている方はまだ圧倒的に多い」


――今も?


原美紀さん
「今もそうです」


一方で、施設を利用する子育て中の女性の価値観は変わってきていると感じている。


――皆さんのなかで、結婚とか出産を機に会社を辞めるか迷われたことはある?


利用者の女性
「ないです」


利用者の女性
「キャリアを途切れさせたくないのと、自分が使えるお金も自分の力で稼ぎたいなという気持ちがあって」


利用者の女性
「子どもを産むまで仕事を頑張って来た自分を否定したくないというか、それを捨てちゃうのも勿体ないなと」


原美紀さん
「時代は変わっているよね、確実にね」


女性の働き方が多様化するなか、時代に合わない制度設計を早急に変えるべきだと、原さんは語る。


原美紀さん
「壁を無くすという議論は、いかにそれを高くしても、遠ざかっただけで、いずれまた壁は来るだろう。損得だけじゃなくて、何を将来的に大事にしていきたいのか、という本質的な議論をした中で、今はこれを選ぶということが出来るといいなと思います」


――そういう意味で、この年収の壁の制度面を変える時期には来ている?


原美紀さん
「もう、全然来ていると思います。もっと早くやってほしかったかもしれないですね」


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