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「困難な船出」から1か月 高市政権の行方を占う~高支持率の一方、外交姿勢では危うさも~【調査情報デジタル】

国内
2025-11-29 14:55

衆参両院で少数与党に置かれた状況を踏まえ、就任会見(冒頭の写真)で「困難な船出」と語った高市早苗内閣総理大臣。その船出からの1か月を振り帰りつつ、高市政権がこれからどこへ向かおうとするのかを、永年にわたって日本政治をウォッチしてきた星浩氏(TBSスペシャルコメンテーター)が占う。


【写真でイッキ見】高市総理 就任からの主な動き


高市早苗政権の誕生(10月21日)から1か月が過ぎた。初の女性宰相の誕生に世論は好意的な反応を見せ、外交デビューではトランプ米大統領と友好的な関係をアピール。中国や韓国との首脳会談ではタカ派色を封印し、現実路線を前面に出した。


だが、台湾有事をめぐる国会答弁で自衛隊が出動する可能性を示唆、中国側の反発を招いた。一方で物価高や格差拡大など深刻な内政問題は解決の方向が見えてこない。


政権の先行きには多くの難題が待ち受けている。政治、外交、経済の視点から高市政権の行方を占ってみよう。


自民・維新に連立組み替え

高市政権の発足では大きな波乱があった。自民、公明両党は1999年から26年間、連立を維持してきた(2009~12年は野党に)が、高市政権の発足に当たって公明党側が連立からの離脱を決定したのだ。


公明党の斉藤鉄夫代表は、自民党総裁に就いた高市氏が政治資金の規制強化に具体策を示さなかったことが連立離脱の理由だと説明。高市総裁が自民党の幹事長代行に裏金事件に関与した萩生田光一元経済産業大臣を起用したことなども、離脱判断の一因となったという。


もっとも、離脱の背景は単純ではない。自民党派閥の裏金事件が23年秋に発覚して以来、自民、公明両党は24年秋の衆院選、25年春の東京都議選、同夏の参院選と立て続けに敗北。公明党とその支持母体の創価学会では「自民党の不祥事のせいで公明党が大きな被害をこうむった」との不満が募っていた。


さらに、創価学会の池田大作名誉会長が23年11月に死去したことも、公明党の政局判断に影響を及ぼしている。公明党の国会議員は「池田先生を国会で証人喚問するといった自民党の攻撃から守るのが我々の使命だ」と語っていた。自民党との連立も「池田氏を守る」手段だったのである。


その池田氏が亡くなって、公明党からは「自民党に気兼ねせず、平和や福祉など公明党の独自路線を打ち出すことが出来る」という反応が出るようになった。自民党との連立離脱には、そうした事情も絡んでいる。


公明党に代わって自民党との連立に加わったのが日本維新の会だ。


高市総裁から連立入りの打診を受けた維新は、政治資金改革の目玉として企業・団体献金の廃止と社会保険料の引き下げの実現を要求。自民党は社会保険料の引き下げは検討するものの、企業・団体献金の廃止には応じられないという姿勢を見せた。


その結果、維新側は要求の内容を変更。国会議員の「身を切る改革」として、衆院議員の定数(465)の1割程度を削減することを求めた。自民党は維新側の要求を受け入れ、衆院議員の定数を削減するための関連法案を臨時国会に提出し、成立をめざすことなどで合意した。


自民、維新の連立政権が誕生したが、維新は閣僚を出さない「閣外協力」にとどまった。維新の衆参両院議員は10月21日の総理大臣指名選挙で「高市早苗」と書き、一部の無所属議員も同調して高市氏は衆院の第1回投票で過半数を獲得。初の女性総理が誕生した。


表向きの政策協議とは別に、自民党との連立に傾いた維新側の事情も見逃せない。


24年の衆院選で、それまで大阪を拠点としてきた維新は全国展開を狙い、289の小選挙区で163人の候補者を擁立。ところが、140選挙区では敗退(15選挙区では比例復活で当選)した。落選した候補者のほとんどは自民党候補と競合している。


自民党と連立を組むことになれば、落選者は次の衆院選での立候補を見送らざるを得なくなる。維新の執行部にとっては、「連立」を理由に落選者を切り捨てるのかどうか、厳しい判断が迫られる。


維新がこだわる衆院議員の定数削減は、野党側だけでなく自民党内にも慎重論が強く、臨時国会での関連法案提出と可決、成立は見込めない。このため、自維両党の実務者が話し合った結果、定数削減は与野党間の協議を経て26年中に結論を出すことで合意し、早々に先送りが決まった。


さらに次期衆院選に向けた自維両党間の候補者調整は難航必至で、自維連立の足元を揺らしそうだ。


外交デビューで高支持率 

高市総理は政権発足早々から首脳外交を展開。マレーシアで開かれたASEAN(東南アジア諸国連合)の関連首脳会議に出席した後に帰国し、28日には訪日したトランプ大統領との首脳会談に臨んだ。


トランプ大統領が求める日本からの対米投資について、日本側はこれまでに約束していた5500億ドル(約80兆円)のうち60兆円分を「日本企業が関心を持つ事業」として公表。トランプ氏の歓心を得た。高市総理は日本の防衛費をめぐって、27年度までにGDP(国内総生産)の2%に増やすという計画を前倒しして、25年度中に達成すると表明、米側はこれも歓迎した。


高市総理はトランプ大統領とともに横須賀港を母港とする米原子力空母ジョージ・ワシントンの艦上で演説。高市総理は「世界で最も偉大な同盟」「日米の黄金時代」を強調した。高市総理が「安倍晋三元総理の後継者」とアピールしたことも、安倍氏と親密だったトランプ氏との距離を縮めた。


高市総理はさらにAPEC(アジア太平洋経済協力会議)の首脳会議が開催された韓国を訪問。李在明大統領との首脳会談では、日韓両国の首脳が頻繁に相互訪問する「シャトル外交」の継続などで合意した。


また、同会議に出席した中国の習近平国家主席とも会談。日中両国が戦略的互恵関係を推進することを確認した。高市氏を支持する自民党保守派の中には中国と韓国に強い姿勢で臨むべきだという主張が根強いが、高市氏は両国との初の首脳会談でタカ派色を封印。現実主義で対応した格好だ。


初の女性総理への期待や外交の舞台でのパフォーマンスは世論に好意的に受け止められ、内閣支持は高率となった。JNNが11月1~2日に実施した世論調査によると、高市内閣を「支持する」は82%、「支持しない」は14.3%だった。


ただ、国会での論戦が本格化する中で、高市総理の外交姿勢の危うさも浮かび上がった。


11月7日の衆院予算委員会で、立憲民主党の岡田克也元外務大臣は、安全保障法制の中で集団的自衛権の行使が容認される存立危機事態について追及。台湾有事に関連して、高市総理は「中国が戦艦を使って武力行使も伴うものなら存立危機事態になり得る」などと述べ、台湾有事での自衛隊の出動もあり得るとの考えを示した。


安保法制を制定した安倍総理以降の歴代総理は、自衛隊の武力行使の範囲については台湾を含めて具体的な地域への言及を避けてきた。


高市総理の答弁に中国側は強く反発。11月14日には中国外務省が中国から日本への渡航を自粛するよう求める声明を発表した。日本の観光業などへの影響も懸念されている。


中国は台湾問題を「核心的利益」と位置付けており、この問題で譲歩するのは難しい。高市総理も国会答弁を撤回する考えはなく、この問題で日中関係は厳しさを増すだろう。


高市総理は11月22、23両日に南アフリカで開かれた主要20カ国・地域(G20)首脳会議に出席。台湾有事発言に関連して中国の李強首相と意見交換するかどうかが注目されたが、中国側が「会談の予定はない」と明言して、両首相の接触は実現しなかった。


11月26日には党首討論が開催され、立憲民主党の野田佳彦代表が台湾有事をめぐる高市総理の発言についてただした。高市総理は存立危機事態の認定について「具体的なことに言及したいとは思わなかった」と述べた。中国との関係については「対話を通じて、より包括的な関係を作り、国益を最大化するのが私の責任」と答えた。


決め手欠く物価高対策

高市総理が「最優先課題」に掲げているのは物価高対策だ。


11月21日には21.3兆円にのぼる総合経済対策を閣議決定。そのうち17.7兆円を一般会計から支出し、関連する補正予算案を国会に提出する。与野党で合意したガソリンの暫定税率廃止のための関連費出や、自治体が「お米券」などを発行するための交付金の増額、子供のいる家庭に1人当たり2万円を給付することなどが含まれている。


高市総理の経済政策の基本は財政出動を含むインフレ容認政策だ。「物価高を上回る賃上げ」によって経済成長の好循環を促す姿勢だろう。


だが、現実の日本経済は物価高に賃上げが追いつかず、実質賃金のマイナスが続いてきた。大企業の正社員は大幅な賃上げを享受しているが、中小企業の従業員や非正規労働者らの賃上げは伸び悩んでいる。株などの金融資産を持つ富裕層と低所得層との格差は拡大し続けている。それが政治不信を生み、自民党の国政選挙敗退につながってきた。


高市総理が積極財政などのインフレ容認政策を続ければ、物価高はさらに続くだろう。賃上げがインフレを加速する可能性もある。


財政事情も厳しい。高市総理は安倍政権下の金融緩和を主導した若田部昌澄前日銀副総裁(早稲田大教授)を経済財政諮問会議の民間メンバーに起用するなど、金融緩和・積極財政を唱えるブレーンを重用している。


しかし、補正予算案では多額の赤字国債を発行する。国債増発が長期金利の上昇につながれば、市場の混乱要因となる。1000兆円を超える政府債務を抱える中で、経済政策の裁量の幅はきわめて狭くなっているのである。


年明けの通常国会は解散含みの展開に

今後の政治の展開を考えてみよう。


臨時国会はガソリンの暫定税率廃止の法律や補正予算を成立させて閉幕し、12月後半には26年度予算案が編成される。防衛費の増額や物価高対策の経費などが盛り込まれるが、税制や社会保障の抜本改革には時間的な余裕がないため一部の手直しだけとなる。物価高にあえぐ庶民にとっては暮らし向きが良くなる流れは見えてこない。


年明けの1月下旬には通常国会が召集され、150日間の審議が始まる。自民、維新の連立政権は、衆院では少数会派を取り込んでギリギリ過半数を確保。一方で、参院では少数与党のままだ。予算委員会での審議などは紛糾が予想される。閣僚の不祥事や失言などがあれば、さらに国会は混乱するだろう。


高市総理は自民党総裁選を勝ち抜き、国会での総理に指名されたが、衆院選での民意を受けて発足したわけではない。石破茂前総理、岸田文雄元総理がいずれも総裁選直後の衆院選を経て内閣を発足させたのとは大きな違いである。


野党側が「国民の信を問え」と迫ることは確実で、高市総理がどの段階で解散・総選挙に踏み切るかが焦点となる。


自民党にとっては、連立から離脱した公明党・創価学会との協力が見込めない選挙となる。25年の参院選で躍進した参政党は衆院選でも多くの候補を擁立する構えで、自民党を支持してきた保守地盤が切り崩される可能性がある。


自民党にとっては、裏金問題で失った信頼の回復や物価高対策を含む政策力の向上などが大きな課題だ。


メディアの役割

高市政権の発足を受けて、世論調査では「初の女性総理」を支持する声が多かった。トランプ大統領との日米首脳会談では、高市総理が「偉大な同盟」「黄金時代」などと自賛し、新聞やテレビも大きく報じた。


だが、米国が一方的に15%の関税を課し、米国への80兆円の投資を強要されるのが「偉大な同盟」とは言えないだろう。メディアは外交の実像を観察し、的確に評価しなければならないが、今回の日米首脳会談ではそうした構図を描く作業は十分ではなかった。


台湾有事にからむ高市総理の国会答弁をめぐっても、メディアは経緯を丁寧に解説し、問題点を指摘する必要があるのだが、中には総理を追及した野党議員を批判する論調も出ている。「権力を監視する」というメディアの役割を果たしているとは言えない。


初の女性総理の誕生で、メディアの真価も問われている。


〈執筆者略歴〉
星 浩(ほし・ひろし)
1955年、福島県生まれ。
79年に朝日新聞入社、85年から政治部。総理官邸、自民党、外務省などを担当。ワシントン特派員、特別編集委員などを歴任。
2004-06年、東京大学大学院特任教授。
16年に退社し、TBSへ。「NEWS23」キャスターやコメンテーターを務める。
著書に『自民党幹事長』(筑摩書房)、『官房長官 側近の政治学』『永田町政治の興亡』(いずれも朝日選書)など。


【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。


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