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「豆腐なのに大トロ」。その発想はどこから生まれたのか?老舗ヤシマ食品の挑戦

2026-02-05 12:00:33

神奈川県藤沢市の老舗豆腐メーカー・ヤシマ食品が、2025年4月に新商品「豆の甘みとろける まるで大トロ 濃厚とうふ」(以下、「大トロとうふ」)を発売した。「豆腐なのに大トロ?」と、思わず首をかしげる人もいるだろう。

だが一口食べれば、その意味がわかる。濃厚な大豆の甘みと、とろけるような口あたり。そこには、まるで大トロを味わうようなぜいたくな感動が広がる。「大トロとうふ」誕生の裏側にある開発ストーリーと、そこから見えるヤシマ食品の変革に迫る。

老舗の「伝統」とスタートアップの「スピード」が生んだ化学反応

湘南・藤沢の地で70年にわたり豆腐づくりを続けてきたヤシマ食品。地域に根ざした老舗として知られてきた同社が、新たなブランド「湘南豆富」を立ち上げた。その理念は“温故知新”だ。伝統の味と技術を受け継ぎながらも、現代のライフスタイルや価値観に寄り添う商品開発をコンセプトに掲げている。

その第一弾として誕生したのが「大トロとうふ」だ。就任からわずか半年で商品を完成させたのは、新社長の髙橋氏。投資ファンドと3つのスタートアップ経営で経験を積んだ彼がもたらしたのは、老舗にはなかったスピード感だった。

社長がデザイナーを兼務し、脳内イメージをダイレクトにパッケージや販促物のデザインへ落とし込むことで、着想から発売までの時間を大幅に短縮。老舗の職人たちが持つ確かな技術と、髙橋氏の新たな視点が融合し、伝統と革新が交わる瞬間が生まれた。

登山アプリ、デザインAI、ペットフード開発といった異分野で培われた経験が、豆腐づくりに不思議とつながった。点と点が線になるように、これまでの知識が「湘南豆富」という新しい挑戦の礎となったのだ。

伝統を守るために、変わり続ける覚悟

ヤシマ食品は長年、藤沢を中心に「地元の味」を守ってきた老舗だ。しかし髙橋氏は社長就任後、「このままでは次の世代へつなげられない」と危機感を抱いたという。「伝統は守るだけでは残らない。時代に合わせて変化し、挑戦しなければ続かない。」と語る。

スーパーの豆腐売り場を見渡せば、棚はどこもぎっしりと埋まっている。その中で新しいブランドが存在感を放つのは容易ではない。安さを競うのではなく、“なぜこの豆腐を選ぶのか”という明確な理由を生み出すことが必要だった。

そこで目指したのが、「体験価値で選ばれる豆腐」だ。思わず手に取ってしまうパッケージと、食べたあとにもう一度買いたくなる味と食感。食べ続ける理由になる、素材へのこだわりとブランドの世界観。一連にデザインされた体験価値は、マーケティングの王道を地で行っている。

70年来の信頼と技術に、スタートアップで培ったスピード感とデザインの発想を掛け合わせることで、新しい風が社内に吹いた。老舗の枠にとらわれない挑戦。それは、“伝統を残すために変わる”という決意の表れだった。

この挑戦を形にしたのが、新ブランド「湘南豆富」である。神奈川県を中心に商品を供給する“地産地消”型メーカーとしての強みを活かし、ものづくりを通して地域の味と文化を全国に届ける“地産全消”型のローカルブランドを目指している。湘南の風土と豆腐づくりの伝統を融合させ、新しい食文化を発信していく。その第一歩が「大トロとうふ」なのだ。

「大トロ」という言葉が生まれた瞬間

幾度もの試作を経て完成した「大トロとうふ」。この印象的なネーミングは、実は社内の試食会から生まれた。100名の社員たちに率直な感想を書き出してもらうと、その中に「大トロみたい」という言葉があったという。濃厚でなめらかな食感。まさにその表現がぴったりだった。

「大トロとうふ」は新体制になって初めての新商品。発売後はSNSでの発信にも力を入れ、食卓でのアレンジレシピや豆腐にまつわる豆知識を紹介する投稿が人気を集めている。豆腐を“食材”としてだけでなく、“体験”として楽しむ文化を提案する姿勢が共感を呼び、インスタグラムのフォロワーは立ち上げから半年で1.5万人を超える。

さらに、消費者の声をもとに改良を重ねるスピード感も特徴的だ。「火を通すとトロけてしまう」という声を受け、加熱しても食感を保つ「中トロとうふ」が誕生。まさにスタートアップのようなスピード感で商品開発を進めている。

湘南豆富ブランドが目指すのは、“一目で伝わる商品性と、また食べたくなる味わい”の両立だ。普段使いの食材である豆腐に、少しの驚きと楽しさを添えることで、これまでにない食卓の体験を届けていく。

老舗が挑戦する理由はただひとつ。70年続いた豆腐づくりの本質を、次の世代へつなぐためだ。

【取材協力】
ヤシマ食品株式会社
代表取締役社長 髙橋勲

情報提供元: マガジンサミット