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よくいう「免疫力」とは、なんなのでしょう?

2017-07-09 18:30:36


執筆:藤尾 薫子(保健師・看護師)
医療監修:株式会社とらうべ
免疫(めんえき)とは、文字通り「疫(病気)をまぬがれる」という意味ですが、外から侵入してきた病原体や、体内で生じた異物を排除して、健康な身体をキープしようとする身体の仕組みのことを指しています。
免疫の仕組みは長らくベールに包まれていて、比較的最近さまざまなことが解明されてきています。
今回は、この「免疫力」について、その基礎的なことを確認したいと思います。

免疫:二度目の感染から免れること


18世紀末にイギリス人の外科医ジェンナーは、天然痘に対する予防法の開発にいたる実験を行いました。
18世紀初めに大流行した天然痘。乳しぼりの人たちが天然痘にかかりにくいという観察結果から、天然痘に似た牛痘を8歳の少年に移植したところ、天然痘にかからなくなったという結果を得ました。
これが「種痘」と呼ばれる予防的処置となりました。
後年、フランス人の微生物学者パスツールがジェンナーのこの発見を汎用して、ワクチン(弱毒菌)の予防接種という方法を開発しました。
あらかじめ弱い病原体を投与しておくと、抵抗力がついて重い感染症にかからないことを見出しました。
これが免疫の原理「二度なし」と呼ばれる現象です。

抗原と抗体


免疫の対象となる病原体などは「抗原」と呼ばれています。また、ワクチンなどによって身体のなかに「抗体」と呼ばれるタンパク質(免疫グロブリン)が産生されます。
そして、ひとたび抗原が体内に入って抗体をつくったあと、ふたたび体内に同じ抗原が入ってくると、「抗原抗体反応」と呼ばれる生体防御反応が起こります。
抗体が抗原と結合して、抗原の毒性を弱めてくれるわけです。
ですから、予防接種(ワクチン)は、あらかじめ弱毒化した抗原を摂取することで人為的に「二度なし」を造り出す営みです。
19世紀末に、この仕組みを発見した一人が北里柴三郎博士でした。

免疫細胞の発見:自然免疫と獲得免疫


20世紀初頭に顕微鏡オタクだったロシア人科学者E.メチニコフは、細胞が異物を食べているのを、お気に入りの顕微鏡観察で発見しました。
この現象は免疫学では「貪食(どんしょく)」と呼ばれます。
今では白血球など「免疫細胞」がこの任に当たっていることがわかっていますが、この「細胞性免疫」を最初に発見したのがメチニコフでした。
現在では、細胞性免疫を主とした「自然免疫」と、抗原抗体反応を主とした「獲得免疫」とが主な免疫機構であることが判明しています。
ちなみに、メチニコフは晩年、腸内細菌に興味をもって、とくに乳酸菌の研究に従事していたそうです。

免疫細胞の種類と役割


白血球は免疫細胞として、多種多様な免疫細胞チームで、ち密な連携を組みながら抗原物質と戦っています。
おもな免疫細胞を以下に挙げてみました。

樹状細胞(じゅじょうさいぼう)


異物を取り込んで、その特徴を免疫細胞に伝えます

マクロファージ(貪食細胞)


侵入してきた異物を取り込んで消化します。また、外敵を他の免疫細胞に伝えたり、情報伝達物質のサイトカインの産生に関与しています。

リンパ球


T細胞


ウィルスなどに感染した細胞を排除します。いわゆる「殺し屋」の働きをする「キラーT細胞」、キラーT細胞を制御する「制御性T細胞」、異物の情報を受け取ってサイトカインを産生し、攻撃の戦略を立てて指令を出す「ヘルパーT細胞」があります。

B細胞


抗体を産生する免疫細胞。樹状細胞から指令を受けて抗体をつくります。

NK(ナチュラルキラー)細胞


身体の中をパトロールして、感染した細胞を単独で攻撃します。

免疫系の情報伝達:サイトカイン


免疫が有効に機能していくように、関連する細胞間で情報伝達が行なわれることが必要です。
この役目を果たすタンパク質を「サイトカイン」と呼んでいます。
内分泌系の「ホルモン」、神経系の「神経伝達物質」とならんで、免疫系の情報伝達物質として、上に挙げたような免疫細胞間連携の重要な役割を果たしています。

免疫が引き起こす病気など


免疫はほんらい、病原体から生体を守る機能ですが、その仕組みが明らかになるにつれて、免疫自体が病気の原因となることも解ってきました。
免疫系が引き起こす病気は「免疫病」と呼ばれます。
アレルギー、膠原病などの自己免疫病、エイズのような免疫不全症などが挙げられます。また、免疫機能が低下することによって、感染症はもとより、がんや臓器の病気、生活習慣病、精神疾患なども、その発生が促されます。
さらに、臓器移植のときに起こる「拒絶反応」は、実は免疫応答であること、また、妊娠をすると、胎児は異物なので免疫力が下がって胎児を守ることなども解ってきました。

免疫とは「非自己」を排除し「自己」を守る生体防御反応


病原体やがん、輸血された血液や移植された臓器など、抗原物質を免疫は「非自己」とみなします。
そして免疫系は、非自己を察知すると、白血球など免疫担当細胞という防衛チームでもって自己を守ろうと免疫応答を起こして、非自己を排除するのです。
最近では、こうした免疫機構を治療に活かした、がんの免疫療法なども注目されています。
【参考】
・日本免疫学会 『免疫とは?』(http://www.jsi-men-eki.org/general/q_a.htm)
・村口篤編著『トコトンやさしい免疫・アレルギーの本』日刊工業新聞社B&Tブックス、2005.

<執筆者プロフィール>
藤尾 薫子(ふじお・かおるこ)
助産師・保健師。株式会社 とらうべ 社員。産業保健(働く人の健康管理)のベテラン
<監修者プロフィール>
株式会社 とらうべ
医師・助産師・保健師・看護師・管理栄養士・心理学者・精神保健福祉士など専門家により、医療・健康に関連する情報について、信頼性の確認・検証サービスを提供

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情報提供元: mocosuku

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