「孤独」が健康リスクに? 「孤独」が健康に及ぼす影響とは
2018-04-29 18:30:16
執筆:山本 恵一(メンタルヘルスライター)
医療監修:株式会社とらうべ
「無縁社会」という寂しい言葉がユーキャン新語・流行語大賞のトップテンに選ばれたのは2010年のことでした。
絆が薄れ孤立する人が増えているという、現代日本社会を取り上げたドキュメンタリーのタイトルが「無縁社会」で、現代人の孤独が浮き彫りになり問題視されました。
それから時を経て、現在日本の「孤独度」はどのような状況でしょうか。
イギリスの「孤独担当大臣」
先ごろ、イギリスのメイ首相が「孤独担当大臣」のポストを新設したというニュースが世界を駆け巡りました。
イギリス社会において「孤独」に困っている人のための総合的政策を率いるといいます。
「孤独」が肉体的精神的健康を損なわせ、年間320億ポンド(約4.9兆円)相当の損失を国家経済に与える影響がある、との政治的判断によります。
ちなみに、イギリスでは900万人以上の人が孤独に喘いでいて、次のような現実に直面しているといいます。
月に一度も会話をしない高齢者は20万人。週に一度なら36万人
身体障害者の4人に1人は日常的に「孤独」を感じ、18~34歳なら3分の1以上
子どもを持つ親たちの4分の1が、つねに「孤独」を感じている
400万人以上のこどもたちがチャイルドライン(相談窓口)の支援を受けた
これは海外事情です。
しかし、数字はともかく日本も同じ“苦しみ”を抱えてはいないでしょうか?
無縁社会
2010年にNHKが制作した報道番組のタイトル「無縁社会」。
この年の「新語・流行語大賞」に「イクメン」「AKB48」などとともに選出されました。
家族・地域・会社などといったさまざまな場面で絆が薄れ、増加する孤立者がクローズアップされました。
かつての血縁・地縁、社縁なるものは「しがらみ」と敬遠され、核家族化・非婚化・長寿化が拡がって絆(つながり)を失った人たちが増えている、という指摘でした。
たとえば、家族と音信不通、引きこもり、シングルマザー、おひとりさま、孤独死などが増加しているというのです。
番組は大きな反響を呼びました。
それだけ多くの人が同様の不安を抱えていたからでしょう。
「孤独病」という病
2015年に精神科医の片田珠美医師は「孤独病」を提唱しています。
ファミレスで一緒にテーブルを囲む家族よりもスマホ相手に夢中になる姿を目の当たりにした片田医師は、高度情報化社会の促進や昔ながらのコミュニティの崩壊が、孤独を時代の病・社会の病としての「孤独病」にしたと指摘しています。
2010年の「無縁社会」の警鐘は、2015年になっても全く改善されていなかったということでしょう。
そして、イギリスのように「孤独」を政治的・経済的に支援する発想や感覚もないようです。
それでは、孤独病は「自己責任」に起因する失敗なのでしょうか?
孤独が(社会的)孤立になる!:孤独病の原因
中国語の「孤」「独」はどちらも「単独:一人」という意味です(親のない子を「孤」、子のない老人を「独」という意味もあります)。
英語の alone lonesome も「一人」という意味を表わします。
その点、日本語の「孤独感」には「寂しい、淋しい」といった心情もこめられています。
そして、古くからの地縁・血縁社会では「寂しい、淋しい」はネガティブな心情で、コミュニティに馴染む「和気あいあい」を良しとしてきました。
そんな伝統が崩れて無縁社会が到来し、いま人々は「寂しくてたまらない」のです。
「孤独」のもともとの意味は「自分は一人」です。
それを「かけがえのない個性」と思えれば、孤独は「もっとも自分らしい」状態ともいえます。
しかし、実際に「自分らしさ」に憧れる人たちが孤独になると「こんなはずではなかった」と感じます。
「和気あいあい」のような「居心地のよさ」は存在しないからです。
それでは、失われた絆を取り戻そうと方向転換をするかというと、必ずしもそうではありません。
むしろ「おひとりさま」「一人暮らし」「引きこもり」に甘んじている様子も多々見受けられます。
やはり、血縁・地縁はどこか煩わしい…というイメージが根ざしているようです。
筆者には、「孤独」は「かけがえのない個性」を育むというより、社会的孤立を助長しているように思えるのですが、皆さんはいかがでしょうか?
孤独というストレスは万病のもと
病気という以上は、生理学・医学的根拠が必要です。
「孤独病」が医学的病気であることは片田医師も明言していません。
しかしながら、ストレスが健康にさまざまな影響をもたらすことは広く知られるところです。
自律神経や内分泌、免疫システムや脳の機能遂行に悪影響を与え、全身的な不調、場合によっては疾患をもたらすことがあります。
また、ストレスは、病気に罹りやすく治りにくいという要因になることも知られています。
日本では、イギリスのような「孤独」への具体的な対応策はまだありません。
「孤独」が健康を蝕む…としたら、誰しも孤独であることは不安になるでしょう。
そろそろこの現状に目を向け、みんなで考えなければならない時が来ているのではないでしょうか。
【参考】片田珠美『孤独病』(PHP新書 2015年)
<執筆者プロフィール>
山本 恵一(やまもと・よしかず)
メンタルヘルスライター。立教大学大学院卒、元東京国際大学心理学教授。保健・衛生コンサルタントや妊娠・育児コンサルタント、企業・医療機関向けヘルスケアサービスなどを提供する株式会社とらうべ副社長
<監修者プロフィール>
株式会社 とらうべ
医師・助産師・保健師・看護師・管理栄養士・心理学者・精神保健福祉士など専門家により、医療・健康に関連する情報について、信頼性の確認・検証サービスを提供
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情報提供元: mocosuku