E START

E START トップページ > エンタメ > マガジン > “ご縁”が支える介護現場――定着率抜群の施設に学ぶ、人が辞めない職場づくり

“ご縁”が支える介護現場――定着率抜群の施設に学ぶ、人が辞めない職場づくり

2025-04-17 12:00:02

人間関係のストレスなどにより、介護業界は人手不足に拍車がかかっている。が、そんな課題とは無縁であるかのように、創業以来高い定着率を誇るのが、愛知県碧南市の有限会社デイ・サービスかなりやだ。「大きな病院の後ろ盾がなくてもここまで経営できたのは、人とのご縁を大事にしてきたからです」と語る同社の代表取締役・久野佳子氏に、利用者への向き合い方や働きやすい職場づくりについて聞いた。

我が道を突き進む母に“巻き込まれ”、気付けば介護業界へ

務員が足りないとのことで、母から「授乳しながらでもいいから手伝って」と言われ、少量の書類仕事をやっていました。そんな日々が数ヶ月ほど続いたあるとき、母が外部の方に対して、私のことを「事務員の久野です」と紹介したのです。気付いたら職員になっていました。今でも介護の仕事は大好きですが、始まりはある意味、母に巻き込まれた形でしたね。

母からは「身内は雇っていない。一人の人間しか雇っていない」と言われ、誰よりも厳しく育てられました。母の性格は社外でも有名で、地域の人から冗談で「怖い人」と言われていたことも。我が道を突き進むたくましい母でした。

そんな母が亡くなり私が代表取締役に就任したあと、介護保険法の改正やインフルエンザやコロナの流行など苦難が重なり、売上が下がったことがありました。そのとき一番避けたかったのが周囲に「お母さんのころは良かったのに」と思われること。それゆえかなり思い詰め、暗い表情で過ごしていましたが、周囲から「最近久野さんらしさが減った」と言われたのです。聞くと、私の印象は「怖い人の横にいる、いつも笑顔の人」。母のそばにいた分、対照的に映っていたようです。その言葉をきっかけに、変に気負わず、自分らしく経営に取り組むようにしています。

ときには採算度外視で、かかわるすべての人とのご縁を大切に

当社ではデイサービス、サービス付き高齢者向け住宅、訪問介護の3つの事業を展開しています。どの利用者様に対しても徹底しているのは「おじいちゃん、おばあちゃんと呼ばないこと」。利用者様は人生の先輩です。業界内には幼稚園のような雰囲気の施設もあるようですが、当社は利用者様のことを「下の名前+さん」で呼んでいます。

ある女性の利用者様を名前でお呼びしたところ、急に泣き出されてしまいました。「私の名前って、まだ生きてたんだね」と。話を伺うと、ご結婚以降「○○さんの奥さん」「△△ちゃんのお母さん」などの呼び方が増え、名前が消えたような感覚があったそうです。利用者様を敬う大切さを実感した出来事でした。このような方針が支持され、利用者様のご家族の紹介で、別の利用者様が利用してくださることも多いです。

また利用者様に限らず、かかわるすべての人とのご縁を大切にしています。ときには収益にならない仕事を引き受けることもあります。最近も「困ってる」の一言で市外の方もサービスが使えるように動いてしまいました。周囲からは「人が好き過ぎる」と注意を受けることもありますが、直接助けを求められたら、考える前に行動してしまうのです。

ご縁のおかげで助かっている部分もあります。契約している業者のご家族が当社のサービスを利用し、看取りまでさせてもらったことがありました。母も生前よく「いつか数字になるかもしれないから、どんな話も断らず、無駄にするな」と言っていましたね。これからも人とのつながりを大事にする会社でありたいです。

時代に合った職場づくりで、笑顔あふれる施設を実現

かかわるすべての人のなかには、働く仲間も退職した仲間も含まれます。スタッフが無理なく、ストレスなく、笑顔で働ける職場が理想です。その一環として、毎月第1水曜に会議を実施。スタッフ同士の近況報告から、外部講師を招いた様々な研修まで、幅広い内容に取り組んでいます。効率良くスキルアップできたり、新人がベテランに気軽に相談できたりする機会となっています。

キャリアパスが多様なことも特長です。調理で入社した職員が前代表からの「給料増えるなら、資格取らない?」の一言から介護福祉士まで取得し、現在はサービス提供責任者に。こういった取り組みが評価され「働き方改革推進企業」「愛知県健康経営推進企業」「健康経営優良法人」に認定されました。実際にスタッフ同士が良好な関係を築いており、定着率は抜群。設立当初から勤めるスタッフもいるほどです。

最近では20代のスタッフも増えてきました。推し活にハマるメンバーが多いので、ライブがある日は気兼ねなく有給を取ってもらっています。そんな働き方に影響を受け、孫との時間を増やすようになった60代のスタッフもいます。かくいう私も絶賛推し活中です。ほかのスタッフと同じように、イベントに行くこともありますね。若いスタッフの活躍が、プライベートを大事にする社風の醸成に一役買っています。

未経験から介護施設を立ち上げた母は偉大でした。私は母と違い、周りのスタッフに助けてもらってばかりですが、それが逆に一人ひとりの自主性を高めることにつながっているようにも感じます。母の想いを引き継ぎつつ、今後は私らしく、笑顔あふれる施設づくりに邁進していきます。

企業名:有限会社デイ・サービスかなりや
肩書き :代表取締役
氏名:久野佳子

情報提供元: マガジンサミット