
北海道・日高地方の広大な牧場を駆ける馬や、実際のレースに勝るとも劣らない、手に汗握る迫力のレースシーンーー週末のレースを見終えた競馬ファンが今、「日曜の夜、さらなる楽しみになった」と口をそろえ、画面の先に熱い視線を向けているのが、日曜劇場『ザ・ロイヤルファミリー』(TBS系)だ。
原作は、作家・早見和真さんの同名小説「ザ・ロイヤルファミリー」(新潮文庫刊)。早見さんは2008年に小説家デビュー後、自身が手がけた作品は、デビュー作の「ひゃくはち」(同年)をはじめ、「イノセント・デイズ」(2014年)、「笑うマトリョーシカ」(2021年)など、映像化されたものも数多くある。
中でも本作は、JRA賞馬事文化賞や山本周五郎賞を受賞し、2019年の単行本刊行当時から映像化が待たれていた“期待”の長編だ。
“どうせギャンブル”にカウンター 「人間の生き方」描く競馬小説に
ドラマは、妻夫木聡さん演じる主人公の栗須栄治が、人材派遣会社ロイヤルヒューマンの社長で佐藤浩市さん演じる馬主・山王耕造に仕える秘書兼レーシングマネージャーとして奔走。現在までに第6話までが放送され、華やかなレースの裏にある膨大な努力や情熱、競走馬と人間との絆を描き、これまで競馬を知らなかった視聴者も共感できる“生き方の物語”として、評価されている。
競馬という枠を超え、人が人に思いを託す姿を、早見さんはどのように描こうとしたのか。
「小説を書く前は、『キレイ事を言っても、競馬なんてどうせギャンブル』という声はあるだろうな」と想像していたと明かす一方で、そうした声があるだろうからこそ「1頭の馬にかける人間たちの思いをちゃんと綴れば、それがカウンターになり得るとも思った」と、“人”にフォーカスを当てることに決めた。
ギャンブルやスポーツとしての側面にとどまらない、「人間の生き方としての側面」を浮き彫りにする、そんな競馬小説を、早見さんならではの取材力や深い洞察力、巧みなストーリーテリングで描き上げ、幅広い読者から支持を集めてきた。
「“人馬一体”ではないですが、人と馬は共存・共栄しなければ、今日まで繁栄してこなかった。サラブレッドと、ホースマンたちの関係性をちゃんと綴れたら、読者は付いてきてくれると信じて書きました」
想像を巡らすG1レース 「とんでもない数の人間の思いと、年月」
今回、原作者ならぬ「原作班」と称して、ドラマに携わっている早見さん。ドラマの舞台となっている撮影現場にも足を運んでいる。放送もリアルタイムで見ている中で、本作が現代社会の“ある空気感”に対して自身が抱く「持論」にも通じていると話す。
「今は明らかに“想像力”が足りていない時代だと思うんです。うわべだけで皆が一斉にジャッジして、勝手に決めつけて、一方的に叩く」ーーそんな息苦しく感じる時代をサバイブするための、早見さんなりの「持論」が、「想像すること」だ。
「何も知らなかったら、そこに馬が1頭いるだけですから。ただ馬たちが走っているだけ。でも、このドラマを見てくれている方たちには、“その1頭の馬がどれだけ多くの人間の思いを背負ってこの芝の上に立っているのか”というのが分かると思うんです」
1つの側面から切り取られた情報だけではなく、そこから「想像」を巡らせる。「本当に1つ想像するだけで、呼吸がしやすくと思うんです。先入観や決めつけに挑戦していく。『ザ・ロイヤルファミリー』は、まさにそういうドラマだと思っています」。
馬へ、人へと、思いを巡らせることができるこのドラマに、自身も共鳴している。
「ニュース番組で見るGIレースの映像の裏にも、馬たちを1枚1枚めくっていったところに、とんでもない数の人間の思いと、とんでもない年月をかけてたどり着いた、最高峰の馬たちや人間の思いが集まっています」と、競馬愛ものぞかせる。
「諦めなかった人たちが実現してくれた」 ドラマ化への長い道のり
単行本の発売当初から、映像化の話は持ち上がっていたという同作。そこからドラマ化に至るまでのストーリーの“始まり”を、早見さんはこう打ち明ける。
「僕が小説を書き始めるずっと前、雑誌のライターみたいなこともしていた頃から、25年来の付き合いがある安田淳さん(現・TBSアクト代表取締役社長)と、当時安田さんの部下だった(本作の)加藤章一プロデューサーの2人が、単行本を出してすぐに電話をくれて、『企画書を書いていい?』とオファーをくれたんです」
コロナ禍などの影響で企画は一度白紙となるも、そこから制作スタッフ陣が粘り強く動いたことで、映像化が実現した。
「諦めなかった人たちが本当にいっぱいいてくれて。チームが1個1個広がっていった感じで、ドラマ化の話も、ロイヤルファミリーっぽいなと思います」。そこには、作品のテーマにも通じる“熱い思い”が制作現場を動かした、というドラマがあった。
これまで映像化されてきた自身の作品と同様、本作でも企画段階から原作者として関わる姿勢を貫いた。「何を求められているのかを一生懸命想像することを、大切にしています」と語る。
『ザ・ロイヤルファミリー』の脚本に関しては、これまでにないほど意見を伝えたそうだ。「作品のためだと思っていたし、脚本を担当してくれた喜安浩平さんも、こちらの意見を反映してさらに良くして返してくれた。全く悔いはなく、良い関係を築けています」。
早見さんの思いは、脚本の喜安さんにとどまらず、塚原あゆ子監督、加藤プロデューサー、妻夫木聡さんら、作品に携わるスタッフ・キャストにまで広がっている。
“任せられる”と確信 ドラマで貫かれた血と思いの「継承」
早見さんが、自身の作品が映像化される際に唯一大切にしているのは、「僕が小説で伝えたかったことを、100汲み取ってもらえているかどうか」。
「僕は原作vs映像になることに、全く意味がないと思っています」と映像化に寄り添い、「僕の思いが100伝わるのなら、たとえ主人公が変わったとしても、今回でいえば馬が出てこなくてもいいとさえ思っています。伝えたいことにブレがなければ、絶対に大丈夫だと確信しているので」と続ける。
今回は、加藤プロデューサーから「血の継承の物語であり、人間の思いと夢の継承の物語だ」と説明され、「そこが縦軸として貫かれていれば、何をやっても間違いないと思った」と、“任せられる”と確信したという。
ドラマでは、早見さんが企画当初から望んでいたという「自然の中での馬の描写」に加え、日高地方の風景や昆布漁の情景なども、「美しい」と話題に。迫力のレースシーンや、そうした描写などの「演出」を担う塚原さんには、自身の執筆の際の経験も踏まえて、こう伝えたという。
「例え競馬に詳しい層から厳しい声が上がったとしても、とらわれすぎる必要はないと話しました。それは僕も、小説を書いている時に念頭に置いていたことなんです。コアに迎合しすぎたら、大きな読者を逃すと思っていたので」
「原作班」の目から見たドラマについては、「馬の血の継承、という部分で馬の話を書くとしても、僕はやっぱりそこで人間の思いと夢の継承を大事にしようと思って書きました。ドラマでもそういうものを作ってくれていると思っています」と話す。
早見さんがペンを執った馬と人の物語は今、映像となり再び人々の心を動かす。劇中で描かれるその“人間ドラマ”は、放送終盤に向けても、今後さらに熱を帯びていく。
早見さんが脚本を全て読み終えた際に「飛び抜けて好きだった」という回は、いずれもこれから放送される第7話と、最終話だ。思いをのせた「継承」のバトンは、視聴者も巻き込みながら、競馬の世界を越えて受け渡されていくだろう。
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