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マンガ執筆歴「ゼロ」から優秀賞の快挙、高校休学中に創作と出会った21歳学生の挑戦

エンタメ
2026-02-27 08:40
マンガ執筆歴「ゼロ」から優秀賞の快挙、高校休学中に創作と出会った21歳学生の挑戦
演出力と衣裳デザインが高く評価された受賞作『塔上の姫君』(作者:Atavana)
 次世代のマンガ家を志す学生を対象としたコンテスト「LINEマンガ インディーズ 学生グランプリ2025」の結果が昨年末に発表され、愛知県在住の専門学校生、Atavana(アタバナ)さん(21)の作品『塔上の姫君』が優秀賞に輝いた。多くのマンガ家は小・中学生の頃から創作活動に没頭し、長い時間をかけて腕を磨くのが通例だ。しかし、Atavanaさんは20歳を超え、初めてマンガを描いた。創作経験ゼロの状態から、わずか数ヵ月でいかにして受賞作を書き上げたのか。その特異な背景と、制作の舞台裏を聞いた。

【画像】マンが歴ゼロで描いた『塔上の姫君』とは?

■文武両道の学生時代 休学中の出会いが創作の原点

 受賞作『塔上の姫君』は、失踪した兄の行方を追う少女アルメチスの旅路を描いたファンタジーだ。物語は、彼女が塔の街「ターリット」へ辿り着く場面から動き出す。

 兄の消息を求めて訪れた先で託されたのは、兄から預かったという機械仕掛けの美少女人形(オートマタ)。アルメチスのネックレスと人形が共鳴し、眠っていたオートマタが静かに目を覚ます。兄の失踪に隠された真実とは何か。壮大な物語の幕開けを予感させたところで、本作の幕は下りる。

 コンテストの審査員からは、『煽りや魚眼、構図の工夫が多く見られ冒険のワクワクを感じることができました。衣装デザインも凝っていてかっこいい』と、その卓越した「演出力」と「こだわり」に高い評価が集まった。

――今回が人生で初めて描いたマンガだと伺い、驚きました。

「はい、正真正銘、人生で初めて描いた作品です(笑)。今の時代には珍しいかもしれませんが、これまでSNSでイラストを公開したことも、文章を投稿したことすらありませんでした。ネットで検索して自分の作品が公開されている状況に、正直なところ自分自身が一番驚いています」

――応募の経緯をうかがえますか。

「昨年からイラストを学ぶために芸術系の専門学校に通っています。その中でマンガ制作を学ぶ授業があり、マンガコンテストの存在を知りました。いくつかのコンテストがあったんですが、『LINEマンガ インディーズ 学生グランプリ2025』はインディーズのコンテストということと、完成していなくてもネームだけで応募できたり、1話だけでもいいという受け入れの幅広さがあったので、自分のように経験が浅くても大丈夫なんだろうなと思って」

――マンガ家というと、小・中学生の頃からイラストやマンガを描いている方が多い印象がありますが、これまで描く機会はなかったのでしょうか。

「高校までは、いわゆる『文武両道』を目指して、勉強や活動に全力で打ち込む生活を送っていました。そのため、マンガやアニメ、イラストといったエンターテインメントに深く触れる機会が、ほとんどなかったんです。ましてや自分で描くなんて考えたこともなかったですね」

――そこから、なぜイラストや表現の世界を志すようになったのでしょうか。

「大きな転機となったのは、高校時代の休学です。心身が不調な時期に、とあるイラストレーターさんのイラストと出会い世界が一変しました。キャラクターが住んでいる場所や空気感まで含めて描かれた緻密な背景、そして鮮やかな色彩……。『こんなに美しい世界があるんだ!』と、言葉にできないほど感動しました。一枚の絵から、その奥に広がる物語まで想像が膨らんでいく感覚。そこからVTuberなどのキャラクターにも惹かれるようになり、『自分も、この手で一つの世界を描き出してみたい』。そう願うようになったのが、すべての原点です。

その後、少しずつ体調が回復してからは、迷うことなくその道を目指しました。通信制の高校を卒業し、イラストを本格的に学ぶために専門学校へ進学しました」

■マンガの教則本を片手に挑んだ初作品 構図に光る独創性

――初めての制作、舞台裏についてうかがえますか。

「賞のことを知った5〜6月から設定を考え始め、8〜9月くらいに描き終えたと思います。ただ並行して学校に提出する課題の制作もあったり、10月の文化祭に向けての作品制作もあったり、授業以外にもいろいろ重なってしまって…。いざ応募しようとしたら表紙が必要なことに気づき、慌ててページのなかからいい絵を選んで…。応募できたときは、締め切りまでの残り時間が30分を切っていたと思います」

――初作品からドラマチックな展開ですね(笑)。審査員からは構図の工夫が評価されていました。

「マンガ制作歴のない自分が勝負できるとしたら、構図か物語だと思っていました。物語については力不足で、うまくまとめきれず提出後も『もっとできたはず』と納得しきれていない部分があります。その分、構図については試行錯誤を重ね、自分なりに“遊び”を取り入れながら工夫しました。そこを評価いただけたのは、とても嬉しかったです」

――特に苦労したのはどのような点でしょうか。

「自分が持っているイラストの表現を、どうマンガに生かすかということ。イラストのように一枚絵をそのまま描くわけにはいかないので、物語がきちんと伝わる“絵”にしなければいけない。その中で、どこを強く描き、どこをあえて省くのか、取捨選択がとても難しかったですね」

――苦労の末に優秀賞を受賞されたお気持ちは。

「連絡をいただいたときは、正直ちょっと怖かったです(笑)。うれしいというより、まずは驚きのほうが大きかった。でも両親がとても喜んでくれて、その姿を見て、ようやく実感が湧いてきました。賞金を受け取るために初めて自分の銀行口座を作ったことも、忘れられない出来事です」

■“いかに無料で読むか”マンガアプリを使い分ける世代 

――今回は縦スクロール形式の“ウェブトゥーン”での応募でした。募集要項では横読み形式も選べましたが、なぜウェブトゥーンを選んだのでしょうか。

「ウェブトゥーンは、一枚の絵を積み重ねていくような感覚で演出ができるんです。複雑なコマ割りというよりは“ビジュアルの連続”という側面が強く、フルカラーである点も含めて、どこかイラストの制作感覚に近いものがありました。またマンガに意識を向けるようになってから、身近にあったのが“LINEマンガ”だったので親近感もあり、ごく自然にこの形式を選びました」

―― “ウェブトゥーン”の魅力や特長をどのように捉えていますか?

「ウェブトゥーンは“流れで読める”ところが大きな魅力だと思います。スマホのスクロールだけでテンポよく読み進めることができる。一度読み始めると、続きが気になる構成力の高さもあって、自然と次の話へ進んでしまう。表現は悪いですが、“いかに多くの人に消費してもらうか”を徹底的に計算した作品が多いなと思います」

――20歳からマンガの世界に入られました。同世代のマンガとの向き合い方には、どのような傾向を感じますか。

「自分は紙のマンガも読みますが、同世代の友人たちは圧倒的にスマホが中心です。“いかに無料で、いかに安く、たくさん読めるか”を重視していて、複数のマンガアプリを使い分けている人が多いですね。1話ずつ区切って読める作品や、毎日少しずつ無料で読める仕組みに慣れているので、“まとめて一気に買う”という感覚はあまり強くないように感じます。まずは気軽に触れて、面白ければ続けて、気に入ったものは購入する。そういうライトな入口から作品に出会う人が多い世代だと思います」

■「新しい気づきを与えられる作品を届けたい」

――将来はやはり、マンガ家の道を歩まれるのでしょうか?

「今はまだ専門学校の学生として、いろいろなことを幅広く学んでいる真っ最中なので、正直なところ将来についてはまだ決めていません。

もともと志していたイラストレーターになるかもしれないですし、学びを深めていく中で、また新しい何かを見つけるかもしれません。もちろん、今回賞をいただいたことで、マンガ家という道も自分の中の大きな選択肢の一つになりました。まずは目の前にある学びを大切にして、自分の可能性を広げていきたいと思っています」

――もし、将来マンガの道へ進むと決めたなら、どのような作品を描いてみたいですか?

「具体的な設定が固まっているわけではないのですが、マンガでもイラストでも、僕の中で軸になっているのは『読んだ人に、何か新しい気づきを与えられる作品にしたい』という想いです。あるいは、主人公が何かに気づいて成長していく物語。

 僕自身、高校を休学していた時期に素敵なイラストと出会い、その世界観に触れたことで、それまで知らなかった広い世界への『気づき』を得て、心が救われました。

 僕にとってマンガは、自分だけでは見られなかった『新しい世界』を見せてくれるものなんです。作品を通して、新しい視点や、こんな生き方もあるんだという発見を体験してもらえる。そんな表現ができたらいいなと思っています」

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