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2026-10-27 14:10
ガザ地区の監視や遠隔攻撃に直接関与した経験を持つイスラエル軍の兵士や情報機関関係者の証言を集めたドキュメンタリー映画『NAZA ナザ』が10月24日、全国18館で公開された。東京・渋谷のシアター・イメージフォーラムでは、初日の上映5回のうち4回が完売。各地でも満席の回が出た。配給権の取得から約1ヶ月という短期間で実現した緊急公開は、どのように観客へ届いたのか。配給会社と劇場に話を聞いた。
【動画】虐殺に“慣れてしまった”兵士による衝撃的な証言の一部
24日午前11時15分からの初回上映を観終え、地下1階の劇場を出ると、次の回を待つ観客が列をつくっていた。列は雨の降る屋外まで続き、「満席」の上映回を知らせる張り紙が並んでいた。
配給のトランスフォーマーによると、同館では初日分の座席予約が開始直後から早いペースで進み、公開前日までに初回から3回目までが完売。その状況を受け、急きょレイトショーを追加した。公開当日は当初予定していた4回が早々に完売し、追加分も数席を残してほぼ満席となったという。
翌25日も初回から3回目までが満席に。札幌や大阪でも満席の回が出た。公開初日から2日間の全国の動員は2459人、興行収入は383万730円だった。
シアター・イメージフォーラムの山下宏洋氏は、今回は当日券を求める人より、早めに予約して来場する人が多かったと話す。観客の年齢層にも、普段と少し異なる印象を持ったという。
「年齢層は少し若く、30~40代が中心なのかなという印象です。20代の方も来ているように感じます。社会情勢を扱う映画ではシニアの方も多いのですが、この週末はあまり目立たない気がしました」
緊急公開のため、情報がさまざまな媒体に広く出るというより、SNSを中心に伝わったと感じており、それが来場者の世代にも関係しているのではないかとみる。
劇場として特に異例と受け止めているのは、公開までの時間の短さだ。
本作は、9月にイタリアで開催された「第83回ベネチア国際映画祭」で急きょプレミア上映され、25分間のスタンディングオベーションを受け、審査員特別賞を受賞した。軍関係者の証言を通じてガザ攻撃の実態に迫る内容は、イスラエル国内外で論争を呼んでいる。
山下氏によると、ベネチアでの上映後に配給会社から打診があり、「今から字幕を入れます」という段階から、急きょ公開に向けて動き出したという。
「公開を決めてから約1ヶ月という短い期間で劇場上映を実現し、これだけお客さんが来ている。配給会社の決断も含め、私たちにとってほとんど初めての、新しい状況だと考えています」
通常は、作品の情報が観客に届くまでの時間を見込み、宣伝方法を検討するなど、さまざまな準備を重ねて公開を迎える。山下氏は、海外作品がこのスピードで劇場公開されること自体が珍しく、短期間で観客に情報が届くのかは「大きなチャレンジだったと思います」と振り返った。
配給会社も、公開を急ぐための難しい判断があったことを明かしている。
トランスフォーマーが10月1日に発表した声明によると、製作チームは事態の緊急性から一刻も早く作品を届けたいと考え、11月の英紙「ガーディアン」公式サイトでの世界配信に先駆けた劇場公開を模索。同社もその意向を共有し、9月下旬に配給権を取得した後、全国の映画館に相談した。
上映・宣伝素材の手配から字幕翻訳、宣伝展開まで、通常のような準備期間を確保することは難しかった。各種の確認期間が短くなることで生じるリスクにも悩んだというが、「本作については、それでも公開までのスピードを優先するべきだとの結論に至りました」と説明している。
■「15NAZA」と数えられる命 証言が映す人間の矛盾
本作を手がけたのは、「第97回アカデミー賞」(2025年)で長編ドキュメンタリー映画賞を受賞した『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』の監督チームのうち、イスラエル人のユヴァル・アブラハーム、ラヘル・ショール両監督。前作ではヨルダン川西岸地区のパレスチナ人が置かれた状況を伝えた。今回は、イスラエルによるガザへの攻撃を通じ、「人はなぜ集団になると、別の集団を人間ではないかのように扱えてしまうのか」という問いに向き合ったと説明している。
舞台となるのは、イスラエル・テルアビブの夜の建物の屋上。顔や声に加工を施された証言者たちが、自分はどのような指令を受け、何をしていたのかを語っていく。多数の民間人が犠牲になると分かっていながら、AIを活用してハマスの構成員を狙う攻撃が進められていく実態が、証言から浮かび上がる。
そこで出てくるのが、タイトルにもなっている「NAZA」だ。付随的被害、いわゆる「巻き添えの数」を表す軍事用語だ。
初回上映後には、英ロンドンで行われた質疑応答イベントの映像も特別上映された。両監督に加え、本作の製作総指揮を務めた『関心領域』のジョナサン・グレイザー監督やプロデューサーらが登壇し、制作の背景を語った。
アブラハーム監督は、映画で証言した兵士や情報機関員には、それぞれ異なる動機があったと説明した。2023年10月7日のハマス主導の攻撃を受けて軍に入った後、幻滅を覚えたという人もいれば、イスラエルの主要メディアの多くがガザでの犯罪を正当化したり、取り上げなかったりしてきたため、質問を投げかけるだけで話し始める人もいたと説明した。
作中には、自分のしたことを悔い、声を上げるべきだと語る一方で、兵士や情報機関員の立場から話し始めると、その行為を正当化する証言者もいた。その矛盾に、人が組織の中で他者を傷つける行為に加わっていく怖さを感じた。
また、屋上で行われるインタビューの合間には、窓越しに撮影したイスラエルの人々の暮らしが映し出される。ショール監督は、午後8時のニュースを見るという日常的な習慣に焦点を当て、そこで何が伝えられず、何が正当化され、人々の人間性を奪うような言葉がどう使われているのかを見つめようとした、と説明した。
窓越しに人々の暮らしを見る映像から、攻撃対象となる人々への監視にも思いが及んだ。私自身、攻撃に関わる側が、盗聴を通じて標的となる人物の家族の会話や、赤ん坊の泣き声まで聞いていることを初めて知り、驚いた。
巻き添えになる人々を「男性、女性、子どもを含む15人」とは言わず、「15NAZA」と表現して人間性を奪いながら、監視する側はこれから攻撃する人々の私的な生活まで知ることができる。家族の声を聞き、そこに人々の暮らしがあると知っていても、攻撃は実行される。そのことが、何より恐ろしかった。
また、両監督は、作中で語られる内容の多くは、すでに調査報道として公表してきたものであることも強調した。「ガーディアン」や「+972 Magazine」「Local Call」などを通じて報じてきたが、映画として上映されたことで、それまでとは異なる反響が生まれたという。
イスラエル当局は本作に強く反発。ネタニヤフ首相は内容を虚偽で偏っていると非難し、映画で匿名証言した軍関係者の捜査と訴追を関係当局に要求した。9月には、イスラエル兵を「中傷」する人々の国籍剥奪や、名誉毀損の法定賠償額を20倍に引き上げる法整備を進めると表明。ゾハル文化相も両監督の行為を国家への反逆だと非難し、極右活動家らが両監督の家族の自宅前で抗議する事態にもなっている。
プロデューサーのジェームズ・ウィルソンは、イスラエル国内で誰も映画を観ていない段階から政府が反応したことを指摘。その反応に怒りを覚える一方、「加害者の心理を示している」と語っていた。
同じ情報でも、記事で読むことと、証言する人の声を聞き、沈黙や間を含めて受け止めることでは、届き方が変わる。日本の劇場でその声と映像に向き合いながら、調査報道を映画にする意味を感じた。
今後は「ガーディアン」のウェブサイトでの配信も予定されている。より多くの人が作品に接する機会が用意される一方、劇場でほかの情報から離れ、証言と映像に集中する時間にも意味がある。
配給会社によると、今後も30以上の劇場で公開が始まる予定で、すでに計55館での上映が決定。「劇場から多数の問い合わせもある」としている。
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配給のトランスフォーマーによると、同館では初日分の座席予約が開始直後から早いペースで進み、公開前日までに初回から3回目までが完売。その状況を受け、急きょレイトショーを追加した。公開当日は当初予定していた4回が早々に完売し、追加分も数席を残してほぼ満席となったという。
翌25日も初回から3回目までが満席に。札幌や大阪でも満席の回が出た。公開初日から2日間の全国の動員は2459人、興行収入は383万730円だった。
シアター・イメージフォーラムの山下宏洋氏は、今回は当日券を求める人より、早めに予約して来場する人が多かったと話す。観客の年齢層にも、普段と少し異なる印象を持ったという。
「年齢層は少し若く、30~40代が中心なのかなという印象です。20代の方も来ているように感じます。社会情勢を扱う映画ではシニアの方も多いのですが、この週末はあまり目立たない気がしました」
緊急公開のため、情報がさまざまな媒体に広く出るというより、SNSを中心に伝わったと感じており、それが来場者の世代にも関係しているのではないかとみる。
劇場として特に異例と受け止めているのは、公開までの時間の短さだ。
本作は、9月にイタリアで開催された「第83回ベネチア国際映画祭」で急きょプレミア上映され、25分間のスタンディングオベーションを受け、審査員特別賞を受賞した。軍関係者の証言を通じてガザ攻撃の実態に迫る内容は、イスラエル国内外で論争を呼んでいる。
山下氏によると、ベネチアでの上映後に配給会社から打診があり、「今から字幕を入れます」という段階から、急きょ公開に向けて動き出したという。
「公開を決めてから約1ヶ月という短い期間で劇場上映を実現し、これだけお客さんが来ている。配給会社の決断も含め、私たちにとってほとんど初めての、新しい状況だと考えています」
通常は、作品の情報が観客に届くまでの時間を見込み、宣伝方法を検討するなど、さまざまな準備を重ねて公開を迎える。山下氏は、海外作品がこのスピードで劇場公開されること自体が珍しく、短期間で観客に情報が届くのかは「大きなチャレンジだったと思います」と振り返った。
配給会社も、公開を急ぐための難しい判断があったことを明かしている。
トランスフォーマーが10月1日に発表した声明によると、製作チームは事態の緊急性から一刻も早く作品を届けたいと考え、11月の英紙「ガーディアン」公式サイトでの世界配信に先駆けた劇場公開を模索。同社もその意向を共有し、9月下旬に配給権を取得した後、全国の映画館に相談した。
上映・宣伝素材の手配から字幕翻訳、宣伝展開まで、通常のような準備期間を確保することは難しかった。各種の確認期間が短くなることで生じるリスクにも悩んだというが、「本作については、それでも公開までのスピードを優先するべきだとの結論に至りました」と説明している。
■「15NAZA」と数えられる命 証言が映す人間の矛盾
本作を手がけたのは、「第97回アカデミー賞」(2025年)で長編ドキュメンタリー映画賞を受賞した『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』の監督チームのうち、イスラエル人のユヴァル・アブラハーム、ラヘル・ショール両監督。前作ではヨルダン川西岸地区のパレスチナ人が置かれた状況を伝えた。今回は、イスラエルによるガザへの攻撃を通じ、「人はなぜ集団になると、別の集団を人間ではないかのように扱えてしまうのか」という問いに向き合ったと説明している。
舞台となるのは、イスラエル・テルアビブの夜の建物の屋上。顔や声に加工を施された証言者たちが、自分はどのような指令を受け、何をしていたのかを語っていく。多数の民間人が犠牲になると分かっていながら、AIを活用してハマスの構成員を狙う攻撃が進められていく実態が、証言から浮かび上がる。
そこで出てくるのが、タイトルにもなっている「NAZA」だ。付随的被害、いわゆる「巻き添えの数」を表す軍事用語だ。
初回上映後には、英ロンドンで行われた質疑応答イベントの映像も特別上映された。両監督に加え、本作の製作総指揮を務めた『関心領域』のジョナサン・グレイザー監督やプロデューサーらが登壇し、制作の背景を語った。
アブラハーム監督は、映画で証言した兵士や情報機関員には、それぞれ異なる動機があったと説明した。2023年10月7日のハマス主導の攻撃を受けて軍に入った後、幻滅を覚えたという人もいれば、イスラエルの主要メディアの多くがガザでの犯罪を正当化したり、取り上げなかったりしてきたため、質問を投げかけるだけで話し始める人もいたと説明した。
作中には、自分のしたことを悔い、声を上げるべきだと語る一方で、兵士や情報機関員の立場から話し始めると、その行為を正当化する証言者もいた。その矛盾に、人が組織の中で他者を傷つける行為に加わっていく怖さを感じた。
また、屋上で行われるインタビューの合間には、窓越しに撮影したイスラエルの人々の暮らしが映し出される。ショール監督は、午後8時のニュースを見るという日常的な習慣に焦点を当て、そこで何が伝えられず、何が正当化され、人々の人間性を奪うような言葉がどう使われているのかを見つめようとした、と説明した。
窓越しに人々の暮らしを見る映像から、攻撃対象となる人々への監視にも思いが及んだ。私自身、攻撃に関わる側が、盗聴を通じて標的となる人物の家族の会話や、赤ん坊の泣き声まで聞いていることを初めて知り、驚いた。
巻き添えになる人々を「男性、女性、子どもを含む15人」とは言わず、「15NAZA」と表現して人間性を奪いながら、監視する側はこれから攻撃する人々の私的な生活まで知ることができる。家族の声を聞き、そこに人々の暮らしがあると知っていても、攻撃は実行される。そのことが、何より恐ろしかった。
また、両監督は、作中で語られる内容の多くは、すでに調査報道として公表してきたものであることも強調した。「ガーディアン」や「+972 Magazine」「Local Call」などを通じて報じてきたが、映画として上映されたことで、それまでとは異なる反響が生まれたという。
イスラエル当局は本作に強く反発。ネタニヤフ首相は内容を虚偽で偏っていると非難し、映画で匿名証言した軍関係者の捜査と訴追を関係当局に要求した。9月には、イスラエル兵を「中傷」する人々の国籍剥奪や、名誉毀損の法定賠償額を20倍に引き上げる法整備を進めると表明。ゾハル文化相も両監督の行為を国家への反逆だと非難し、極右活動家らが両監督の家族の自宅前で抗議する事態にもなっている。
プロデューサーのジェームズ・ウィルソンは、イスラエル国内で誰も映画を観ていない段階から政府が反応したことを指摘。その反応に怒りを覚える一方、「加害者の心理を示している」と語っていた。
同じ情報でも、記事で読むことと、証言する人の声を聞き、沈黙や間を含めて受け止めることでは、届き方が変わる。日本の劇場でその声と映像に向き合いながら、調査報道を映画にする意味を感じた。
今後は「ガーディアン」のウェブサイトでの配信も予定されている。より多くの人が作品に接する機会が用意される一方、劇場でほかの情報から離れ、証言と映像に集中する時間にも意味がある。
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