
2月1日の別府大分毎日マラソン(以下別大マラソン)で、学生記録保持者の黒田朝日(21、青学大4年)が2度目のマラソンに挑戦する。箱根駅伝では2年時にエース区間の2区で区間賞(1時間06分07秒。当時日本人区間歴代2位)、3年時も2区で1時間05分44秒と従来の区間記録を上回った(日本人区間歴代2位)。そして今年は5区で従来の区間記録を1分55秒も更新し、トップとの3分24秒差を逆転。往路優勝と総合3連勝の立役者となった。箱根駅伝から1か月。2度目のマラソンで黒田がどんな走りをするかに注目が集まる。
ペース感覚が黒田の武器
黒田は箱根駅伝以外でも強さを見せてきた。昨年11月の全日本大学駅伝では17.6kmの7区で、区間2位の留学生選手に36秒差をつけた。10月の出雲全日本大学選抜駅伝でも、10.2kmの6区で区間2位に23秒差で区間賞を取った。6月の日本インカレ10000mでも28分09秒18で日本人1位。10km~マラソンの距離では学生トップの実績と言っていい。
黒田の武器の1つに、ペース感覚が優れていることが指摘されている。昨年の箱根駅伝2区では前半、個人順位で黒田は12位だった(8.2kmの横浜駅前)。しかし15.2kmの権太坂(15.2km)で6位に進出すると、戸塚中継所ではトップと13秒差の3位に上がっていた。前半では黒田を引き離す選手も視界に入っていたが、自身のペース感覚を信じて走った結果、後半で順位を上げることに成功した。
黒田は時計を付けずに走る。5kmを何分、10kmを何分で通過すると決めず、自身のその日の感覚でペースを決める。結果的にその走りが、その日のベストの走りをすることにつながっていく。
1月25日のサンデーモーニングに出演した三浦龍司(23、SUBARU。東京世界陸上3000m障害8位)が紹介したように、黒田は大学3年時前半までは3000m障害に出場していた。1年時にはU20世界陸上に出場し、2年時のU20アジア選手権には優勝している。3000m障害出身のマラソン選手は、世界的にも例がないわけではない。古くは1976年、80年と五輪を連覇したW.チェルピンスキー(東ドイツ=当時)がそうだったし、最近では25年東京マラソンに優勝したタデセ・タケレ(23、エチオピア)が、21年の東京五輪は3000m障害で出場していた。
3000m障害とマラソンの間に、明確な相関関係が認められているわけではない。距離の違いは大きく、両種目で活躍した選手は珍しい。だが疲れが大きい状態でも、動きを正確にコントロールできることが共通点、という指摘をする指導者もいる。黒田も箱根駅伝5区と2区の終盤で、「意識がないくらい入り込んでいた」と話していた。余力がない状態で走っていてもやりたい動きができて、スピードが出せる選手なのかもしれない。
学生で2度目のマラソンは少数
男子マラソンの学生歴代リストは以下(【写真で見る】参照)のようになっている。
学生選手のマラソン出場は、以前はそれほど多くなかった。1970年代の瀬古利彦(当時早大)は別格だったが(箱根駅伝1か月前にマラソンを走るなど、今では考えられない)、2000年前後は藤田敦史(駒大。現駒大監督)、佐藤敦之(早大。現中国電力監督)、藤原正和(中大、現中大監督)らが学生記録を更新した。現在の学生歴代リストでは上位10パフォーマンス中、藤原以外は2020年以降の記録で占められている。厚底シューズの登場が、学生のマラソン進出のハードルを低くしたのは間違いない。
学生の間に2回以上マラソンに出場した選手は少なく、2度目のマラソンの学生最高記録は横田俊吾(青学大→JR東日本)の2時間07分47秒だ。初マラソンは怖い物知らずで挑戦できるが、2回目で記録を下げる選手が多いと言われている。横田や柏優吾(東洋大→コニカミノルタ)の例を見ると、学生には当てはまらないのかもしれないが、昨年の別大で東京世界陸上代表入りを狙った平林清澄(國學院大→ロジスティード)は、初マラソンより記録を下げている。
黒田は1月8日の取材で、「タイムは走ってみないとわかりませんが、順位が大事だと思うので、初マラソンの大阪(6位、日本人3位)より良い順位を目標に走りたいと思っています」とコメント。先頭集団で勝負を重視して走るつもりだ。
原監督が語る別大マラソンを選んだ理由
初マラソンが2月末の大阪だったのに対し、今回は2月頭の別大を選択した。その理由を青学大の原晋監督は「黒田を遊ばせたいから」と説明した。
「大阪まで引っ張るとその間もトレーニングをすることになります。4年間学生スポーツをまっとうしましたし、4月から社会人になってバタバタすると思うので、春休みの間にリフレッシュ旅行に行かせたり、のんびりさせる期間を作ってあげたいんですね。やっぱり箱根駅伝はものすごい空気感、緊張感のなかでやってきたので、どこかで休まないと体がもちません。でもマラソンはやった方がいい。僕は箱根駅伝からの流れでやるべきだと思うので、別大を選んだわけです」
青学大は過去にも別大で好結果を残している。東京世界陸上マラソン代表に成長した吉田祐也(28、GMOインターネットグループ)は当時の初マラソン歴代2位&学生歴代2位で走った。前述の横田、昨年学生記録(当時)で走った若林宏樹ら、別大に合わせるノウハウが青学大にはある。
にもかかわらず、原監督の目標設定が少しずつ下がっている。1月8日には「2時間06分05秒と同等の記録を出し、初マラソンがまぐれではなかった、マラソンもしっかり走るランナーということを見せてほしいですね」と話していたが、1月25日には「2回目のマラソンは厳しい。私としては2時間10分を切ってくれればいいと思っています。少し欲張ればMGC出場権獲得を目指して頑張ってほしい」とトーンダウンした。
MGCは27年秋開催予定のロサンゼルス五輪最重要選考会で、G1カテゴリーの別大マラソンでは日本人6位以内で2時間09分00秒以内の選手が、7位以下でも2時間06分30秒以内で走った選手が出場権を得る。世間の黒田への注目度が高く、ファンに過剰な期待をさせないことと、黒田自身へのプレッシャーを和らげようとしての発言だろう。
苦しい走りになる可能性もあるが、そういった経験をしておくことが、実業団で「日本記録を目指して行きたい」と言う黒田にプラスに働く。状態の良い時しかレースに出場しない習慣をつけてしまうと、代表選考レース前に状態が悪い時に対応できなくなってしまう。黒田にとって、マラソン選手としての幅を広げるレースになるのではないか。
期待が持てる部分もある。この1年間のトラックと駅伝は、3年時よりもレベルが上がっていた。箱根駅伝5区ではスピードは遅いが、そのなかでも押し通す走りでレベルの違いを見せた。別大のシーサイドコースが向かい風になった時、そのときの経験が生きるだろう。万全の状態でなくても黒田は強い。2度目のマラソンでその評価を得られたら、最高の卒業記念となる。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)
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