
32年ぶりに日本開催となったアジア大会 愛知・名古屋。バレーボールの男子日本代表は2010年の広州大会以来となる16年ぶりの金メダルを狙う。ロラン・ティリ監督から“リーダー”としての役割を期待されているのは、チームの中心として戦うアウトサイドヒッターの大塚達宣(25)だ。大塚自身も「楽しみ」だと語っていたアジア大会への思いと、自身が考える役割とは。中高でバレー部に所属(セッター)し、TBS入社直後の98年から現場取材を重ねてきた新タ悦男アナウンサーが、リポートする。(第15回)
「リーダーシップを向上させてほしい」
ティリ監督の言葉は、大塚の未来を示している。
リーダーシップ、距離の近さ、経験、そしてタクト。
そのすべてを、大塚に求めている。
「私は彼に“リーダーシップ”を向上させてほしいと思っています。コート上で他のプレイヤーたちにしっかりと意識を向けさせ、アウトサイドヒッターのリーダーとしてコートで長い時間を過ごし、チームのタクトを握るという素晴らしい経験を積んでほしい。 彼は“チームのあらゆるプレイヤーと非常に距離が近く”、すでに“豊かな経験”を持っていますから、私たちのプログラムにとって彼がリーダーを務めることは非常に重要なのです」
この言葉のもたらす意味は大きい。
「ティリ監督からは、今シーズン初めに僕をどう使うかという話はされていた。『大塚、君は途中から出ても絶対に仕事ができると分かっている。そこに信頼をすごく置いている。これは誰でもできることじゃない。その役割ができることは凄い。途中出場の切り札としては任せる』と」
与えられた役割はわかっている。そこに対して何かを思うこともない。チームのために徹することができたのだから。でも、大塚は話す。
「自分自身、コートに立ってなんぼ、と思っているし、その機会がネーションズリーグではなかなかなかった。“コートに長く立てる機会”がある、それはやっぱり自分としては貪欲に求めに行きたいものだった」。過酷な日程の中でも、アジア大会への出場に迷いはなかった。
コートに長く立つためにイタリアで2シーズン磨いてきたことがある。
「特に“スパイク”の部分での意識は高くなった。世界相手に勝つためには、守備だけじゃ勝てない。バレーは最終的に『25点を相手より早く取るスポーツ』。アタッカーとしての『点を取る能力』を意識してきた」
その先に、大塚が見つけたのが“自分の中の原点”だった。
「こういうフォーム、打ち方をしておけば、相手のブロックに拾われても、自分の中では100%納得できる。そうすると、コートの中で焦らない。『今のは自分の意図として最高だった。相手のディフェンスが一歩上手だっただけ』と切り替えられるようになった」
これが今の最大の手応え。大塚を支える技術の進化の真髄はこうだ。
「コートの奥深くに向けて“長く打つ”。これに尽きます。相手のブロックが完成して高い壁になっていたとしても、そのブロックの指先の上を狙って、長いコースにボールを打っておきさえすれば、多少ブロックに大きく当たって跳ね返ってきたとしても、ボールの勢いがなくなり、浮くので、カバーのレシーバーやリベロが対応しやすくなる。そうすれば、もう一度オフェンスのチャンスが生まれる。逆に指先にカツッと当たれば、そのまま相手コートの外まで弾け飛んでいく」
スパイクは、一球の先まで見据える技術だ。
「25歳になって、立ち位置としてはチームの年齢で言えば、まだ若い方。でも、もう今の自分に求められているのは、チームの“中心(コア)”の中にしっかり入っていって、代表を引っ張っていくキャリアの積み方なんだろうな、と思っている。年齢的にもプロとして“1番バレーをやっていて面白い時期”だと思う」
「自分の脳をちゃんと100%フォーカスさせる」
そして、アジア大会ではこれまでとは違う役割も見えている。
「自分が初めて代表に入った時、清水(邦広)さんや福澤(達哉)さんら先輩方が優しく声をかけてくれた。今度は自分が若い選手たちに、そういう接し方をしていきたい」
選考のプレッシャーは背負うべきもの。でも、それ以外の余計なストレスまで抱える必要はない。
「若い選手たちが持っている力を、自分の声掛けで引き出してあげられるようなサポートをしたい。何より、自分が誰よりも高い向上心を持って練習する背中を見せたい」
そんな大塚が、イタリアで徹底的に向き合ったのが「自分がコントロールできるもの」だった。
「“自分がコートの上で100%コントロールできる部分なんて、結局のところ、自分自身の身体と、自分自身のパフォーマンスでしかない”んですよ。周りのメディアの評価、監督の起用方針、ネットの向こうの相手選手の調子の良し悪し、これらは、僕自身がいくら頭で悩んだところで“1ミリもコントロール(操作)できることじゃない”。自分が100%コントロールできるのは、“今、この瞬間の自分自身の体と、自分自身が放つプレーのクオリティ”だけ。だから自分だけに100%フォーカスしよう、と。“過去の失敗”を考えている時点で、もうその瞬間にメンタル的には世界相手に負け(敗北)。さらに、そのミスの後に頭の中で、『いや、ここでレシーブがまた乱れて、相手にチャンスボールがダイレクトで返っちゃったらどうしよう・・・』など、“まだ起きていない未来の不安”を頭の中で考えている時点でも、僕はもう世界相手に負けだと思っている。過去でも未来でもなく、『今の、この現時点(今の瞬間)に、自分の脳をちゃんと100%フォーカスさせること』。これが、世界の過酷なリーグや代表で生き残るためには、もの凄く大事だということを、イタリアで毎日揉まれる中で、改めてもの凄く強く感じた」
そのための具体的なスイッチがある。
「例えばサーブを1本前に自分のレシーブミスでやられた(エースを取られた)けれど、でも、次の1本で自分が確実に綺麗なレシーブの“リズムを作れるとき”っていうのは、僕の場合だったら、『足の使い方(フットワーク)。サーブが打たれるインパクトの瞬間に、ステップの1歩目を、ちゃんとボールの軌道に対して正しい方向に、1歩目を確実に踏み出すこと』がスイッチ。コートの中で、自分の脳を“その1歩目の足のステップを正しく踏むこと”だけに向ける。その1歩目が綺麗にカチッと踏めたときは、自分の腕の面を意識しなくても、自然とここのレシーブの綺麗なリズムが取れてAパスが返る。スパイクの時も全く一緒で、トスが上がってくる瞬間に『もう、俺はコートの奥へ長く打つ、この打ち方さえしておきさえすれば、それが例えば1本綺麗に決まらなくて相手に拾われたとしても、自分の中で100%納得がいっているから何の問題もない。これをやりさえすれば絶対に大丈夫!』っていう絶対的な約束事を、サーブの時もスパイクの時も、自分の体の中に、あらかじめ1本の線として作ることができた」
過去の失敗、未来の不安、他人との比較。そこから離れ、“今の自分”に戻るための原点。
「僕たちのこの日本代表のレベルって、ここに選ばれている選手はみんな、バレーの技術(スキル)に関しては全員が間違いなく“超一流”の選手ばかり。じゃあ、世界トップを相手に何で勝敗の差がつくかって言ったら、やっぱりコートの上の“ちょっとしたメンタリティの置き方の違い”なんです。そのメンタルの状態によって、せっかく持っている一流のスキルが、本番の試合で100%うまく出る場合と、プレッシャーに潰されて全く出ない場合がある。自分のマインド、考え方ひとつで、コートの上のプレーの質がガラッと劇的に変わることも多い。そこで引っ張っていけるように」
大塚の根本にあるのは、バレーボールが好きだという純粋な気持ちだ。
「『昨日までできなかったこのステップが、今日の練習で新しくできるようになったぞ!』っていう、その日々の小さな“成功体験”の喜びとか、そこに対して、自分が今バレーをやっている本当の“意義”、人生の充実さ、そういう素晴らしい一面からも、日々コートの上で凄く幸せを感じられる。それが僕の中のバレーを続ける一番の“モチベーション”の一つなんです。“自分が日々成長して、バレーを楽しめているか”っていうプロセスも、僕にとっては欠かせないモチベーションの大きな一つ。それが自分の中にある限り、オリンピックという大舞台が終わった後に、人によっては燃え尽き症候群みたいになる時期があるかもしれないですけど、僕は、あの東京五輪の後も、パリ五輪の後も、ずっと『心の中の炎が100%メラメラ燃え続けている感じ』で(笑)」
バレーに対するモチベーションの燃料が、ずっと大塚の底から湧き出ている。
「アジア大会では立場的にも、リーダーシップを発揮しないといけない。その中でメインとしてプレーできる機会、日本代表のユニフォームを着てプレーできることは、僕にとっては大事な機会」
そして、最後に笑う。
「『コートに出たい!』という気持ちは、プレイヤーである以上みんなあると思う。純粋な気持ちが根底にあるから。だからこそ楽しみなんですよ、アジア大会!」
役割を誰よりも理解して徹することができる。
だからこそ、求められるものも高くなる。
リーダーになる。
チームを支える。
そして、自分自身も、長くコートに立つ。
そのすべてを——
大塚達宣は、“楽しみ”と言った。
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