
「備蓄米」を随意契約によって市場に放出するという手法で、コメ価格の高騰に対応する小泉大臣。その背後には、参議院選挙を控える自民党の焦りと、将来のコメ価格暴落を懸念する農水省の複雑な思惑が交錯している。一体、コメ価格はどこまで下がるのか。そして石破政権の命運を握る「コメ政策」の行方は――。政治と農政が交わる現場から、その最新動向を詳細に解説する。
江藤前大臣から小泉大臣へ、農水省で起きた「180度の方針転換」
農水省の空気は一変した。小泉進次郎農水大臣の就任からわずか2週間で、農水省内の方針は「180度」変わったという。経済部記者によれば、事務方もついていけないほどのスピードで物事が進んでおり、農水省の官僚たちはまさに翻弄されているという。特にコメ価格に対する姿勢の変化が顕著で、これまで農水省は価格に直接コミットしてこなかったが、小泉大臣は就任直後から「備蓄米5kg2000円で出します」と明言するなど異例づくしの展開を見せた。
また、小泉大臣の就任に先立って行われた江藤前大臣との引き継ぎ式も通常とは異なる雰囲気だった。現場を取材した記者は「江藤氏の辞任の経緯もあり、カメラの前での発言がなかったのは話しづらさがあったのではないか」と推測する。
二人の関係性については“歴史的な背景”がある。小泉純一郎元総理が郵政民営化選挙に踏み切った際、江藤元大臣は反対して自民党を離党した経緯があり、当時の小泉元総理は郵政民営化に反対した同志に刺客を送ったが、江藤元大臣は選挙を勝ち抜いたという。そのため、今回の引き継ぎでも「お父さんの顔がちらついたのではないか」と政治部記者は分析する。
「一過性の劇薬」か「価格是正の切り札」か?随意契約による備蓄米放出の功罪
小泉大臣が打ち出した随意契約による備蓄米放出策によってコメ価格は下がりつつあるが、この政策をめぐって農水省内では「祭りの後」を懸念する声も上がっている。政府の備蓄米はもともと91万トンあり、江藤前大臣の時代に競争入札で約31万トンが放出され、小泉大臣就任後は随意契約で約30万トンが放出されることになった。残りは約30万トンで、今後の扱いが焦点となる。
現在のコメ価格は江藤前大臣が放出した備蓄米、小泉大臣が放出した備蓄米、そして銘柄米の3種類に分かれており、安い備蓄米が浸透すれば夏ごろには銘柄米の価格を押し下げる可能性があるという。さらに、農水省内では「流通にのっていないとされる米」が存在し、新米が出てくるタイミングで出回るお米の量が急増、一気に米価が下がるリスクが懸念されてるという。農水省は「今は祭りだが、その後の反動」を恐れているという。
コメ価格の適正水準については、森山幹事長が「3000円から3200円くらい」、石破総理が「3000円台」と発言しており、現在の5kg4000円台という価格は「再生産可能な価格を遥かに超えている」という。一方で、肥料高騰などの影響で新米が安く買い叩かれると農家が離農する懸念も無視できず、適正な価格を模索する必要がある。
参院選を前に自民党の運命を左右する「コメ政策」、石破政権の戦略は
自民党にとって、このコメ価格問題は夏の参議院選挙に向けた重要な政治課題となっている。江藤前大臣の「米を買ったことがない」という発言による辞任から、小泉大臣の積極的な対応への転換は、まさに選挙を見据えた戦略といえる。
JNNが行った世論調査では、5キロあたり2000円程度の政府の備蓄米について、「買いたい」と思う人と「買いたくない」と思う人がともに48%で拮抗する形となったが、石破内閣を「支持できる」という人は前回の調査から1.3ポイント上昇し、34.6%となった。一方、「支持できない」という人は62.0%と、0.1ポイント下落した。
コメの価格は、単なる経済問題ではなく、支持率に少なからず影響を与える政治問題だ。2009年の衆議院選挙で自民党が改革路線を訴えた一方、民主党が農家の農地面積による補助政策を打ち出し、農業票が離れたことを指摘する。また、2016年の参議院選挙ではTPP交渉の影響で農業系団体が自主投票となり、東北の一人区で自民党が1勝5敗した苦い経験もあるという。
石破政権と森山幹事長は、こうした歴史を踏まえつつ、改革と現状維持のバランスを取ろうとしている。森山幹事長が農水大臣時代に小泉氏が農林部会長を務めていた経緯もあり、両者は連携して動いているという。
今後の焦点としては、コメ価格高騰の検証と中長期的な対応策が挙げられる。農水省がこれまで「米は足りている」と価格にコミットしてこなかった中で「米が足りていなかったと認めるのか」という点に注目だ。一方で、中長期の対応策も重要で、農家が米を作っても安く買い叩かれる状況を改善する政策が求められる。
参議院選挙に向けては、コメ価格問題が争点になる可能性もあり、自民党の運命を左右するのは、コメ価格をどこまで下げられるか、そして農家の懸念にどう応えるかというバランス感覚だ。農家が安心して米を作り続けられる販売価格を実現しつつ、消費者の負担を軽減するという難題に、小泉大臣と石破政権がどう立ち向かうのか、今後の動向が注目される。
TBS政治部・原尉之、経済部・田中優衣
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