クマがエサを求めて人の生活権に入っているのをどう防げばいいのでしょうか?クマが人里に現れた場所を調査しました。
【写真で見る】「ゾーニング」対策始めて以来、人的被害がゼロになった自治体の取り組み
スーパーにもクマが出没 どこから人の生活圏に?
クマはエサを求めて人の生活圏へ。
記者
「群馬県沼田市のスーパーに10月、突然クマが現れました」
堂々と店の入り口から侵入したのは、体長1.4メートルほどのクマ。
果物売り場に積まれたアボカドの山を崩すなど、店内を荒らしたうえ、男性客2人を襲い、逃げていきました。
スーパーの関係者
「ケガされたお客さんは、気が動転していた感じ。パニック状態でした」
その後も、現場周辺では相次いでクマが出没。狙われたのは柿の実でした。
目撃者
「(自宅の)ベランダに出て、柿の木を見たらクマが登って柿を食べていた。10分か20分くらい食べて、降りて川沿いの方に帰っていった」
自宅の玄関から外に出た直後に、クマに襲われたケースも。
被害にあった男性
「そのままクマが覆いかぶさってきて、ケツをかじられて、手を引っかかれた」
クマは、どこから、どう移動して出て来たのか。
「身を隠す場所がたくさんありそう」河畔林の整備を求める声も
野生動物管理のエキスパート・森林総合研究所の岡輝樹主任研究員に、クマが出没したスーパーの周辺を見てもらうと…
森林総合研究所 岡輝樹 主任研究員
「一番問題なのは、(クマが)身を隠す場所が非常にたくさんありそうだっていうとこですね」
――例えば、どこが?
「利根川が流れているところです」
上空から見てみると、スーパーの西側には川が流れていて、その両岸に木が生い茂っているのが分かります。
岡 主任研究員
「周りの草の妙な動きは気にしてください。(クマが)隠れている可能性もありますので」
川沿いの林、いわゆる「河畔林」に近づいてみると…
岡 主任研究員
「そうですね、やっぱりこういうところでしょうね。河畔林をつたってやってきて、こういうところをつかって向こうへ進んだ。それで上がってみたらなんか眩しい明かりが見えて」
群馬県のクマ出没マップを確認してみると、確かに、川沿いでの目撃情報が相次いでいます。
岡 主任研究員
「市街地で食料を探すというよりも、食料を探してるときに偶然市街地に出ちゃうだけで」「(クマは)『どうしてこんなとこにいるんだろう』と思ったんでしょうね」
スーパーにクマが現れた後、沼田市は川沿いの一部のエリアを立ち入り禁止に。周辺住民からは、林の整備を求める声もあがっているということです。
岡 主任研究員
「クマが身を隠して移動する場所をできるだけ少なくすることは、ひとつ大事な対策ではあります」
一方で、「生態系の維持」という課題も。
岡 主任研究員
「(川沿いの林は)河川の生態系の重要な構成要素ですので、これがなくなると棲めない生き物たちもたくさん出てきます」
人とクマが出あわないような環境を、どう実現していくのか。
各地で模索が続く中、新たな取り組みを始めた自治体があります。
クマと人が出あわない「ゾーニング」境はクマにとって“居心地の悪い”場所に
山々に囲まれた長野県・箕輪町。クマに危機感を抱いたのは、2024年のことでした。
クマの目撃が例年の約4倍に急増。住民がクマに襲われる被害も発生しました。
記者
「こちらの自治体では2025年から、ある対策を始めてクマの目撃が大幅に減ったということです」
町が6月に始めたのが、「ゾーニング」という対策。「クマが暮らす場所」「人が暮らす場所」とエリアを分類。その中間地点を「緩衝地域」とします。
具体的には、川沿いの河畔林など山を下りてきたクマの多くが通る「緩衝地域」をどう整備するのでしょう。
箕輪町 みどりの戦略課 井上貴之さん
「真ん中に電気柵が走っている。その電気柵より奥側を緩衝地域。電気柵より手前が排除地域(人が住む場所)というゾーニング」
緩衝地域では、ヤブを切り、クマが身を隠せない、いわば“居心地の悪い”場所に。さらに、人の生活圏との境目には、場所によっては電気柵を設置。まめに草刈りをして実のなる木もできるだけ切ります。
箕輪町 井上さん
「人間の側が積極的に刈払いや活動することによって、クマも人をちょっと警戒する。『人間の線はここまでなんだぞ』とクマに知ってもらう」
住民
「見通しも良くなって、クマさんもちょっと遠慮してるかなっていう。安心です」
「ゾーニング」対策始めて以来、人的被害はゼロに
夏に撮影されたクマの映像には、緩衝地域から人の生活エリアに出てきたものの、すぐに林に戻っていく様子が映っていました。
別のクマは、立ち止まって警戒し、人のエリアに向かいますが、その後目撃されておらず偵察のような形で入ってきたものの、まもなく山に帰ったとみられるということです。
町によると、「ゾーニング」を始めて以来、人が襲われる被害はゼロに。目撃情報は、2024年の19件から9件に減り、町の奥深くにクマが入ってくることもなくなりました。
箕輪町 井上さん
「(今回)刈り払いをした人は主に地域の皆さん。地域の方の力を借りながら、クマ対策を進めていく必要がある」
クマに出会わない町づくりには、住人の協力が欠かせないのです。
「クマが来たルート 検証を」地域間で共有しないと繰り返される
皆川玲奈キャスター:
クマと共存していくためにどう対策を取ればいいのかどのように考えますか。
岡 主任研究員:
一度でもクマが現れた地域では、「なぜそこにクマが来たのか」、「どのルートを使ってきたのか」、「どこへ行ったのか」をきちんと分析して、障害を消していく必要があると考えます。
皆川玲奈キャスター:
“緩衝地域”を整備していくといった話もありました。その有効性はどのように見ていますか。
岡 主任研究員:
この地域では非常に成功したという例がありました。ですが、実際にはかなり難しいというのが実情ではあります。そのため、まずは排除地域をきちんと作り上げることが重要です。というのは、人が生活している圏内で誘引物を除き、隠れられそうな場所を少しでも少なくしていく。そういった新しいゾーニング管理の方法へと舵を切っていかなければいけないのかもしれないと考えます。
皆川玲奈キャスター:
となると、どういった空間を作ればいいですか。
岡 主任研究員:
まずは、地域の小さな単位でも構いませんので、隣の方と連携をとりながら、誘因物がある場所や隠れられそうな場所をなくしていく。そして、徐々に連携する単位を少しずつ大きくしていく。いずれは、“地域ぐるみ”や、さらには“街ぐるみ”でそういった管理の手法を取り入れられるようになればと考えています。
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<プロフィール>
岡輝樹さん
森林総合研究所 多摩森林科学園 主任研究員
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