
日本は四季から「二季」になりつつある。三重大学の大学院生が北半球の国々の気象データを解析した結果、日本だけ夏の期間が大幅に延びていることがわかった。しかも、2024年の日本の夏は133日間と1年の3分の1を超える長さになっていた。こうした夏の長期化の原因は地球温暖化と日本の地理的条件にある。研究チームに話を聞いた。
【研究データを見る】2024年の夏は1年の3分の1を超える長さに~日本の「二季」化を裏付ける三重大の研究
日本の夏は42年間で約3週間も長くなった
「日本の夏が42年間で約3週間長くなり、日本の二季化が進んでいる」ことを伝えるニュースに触れた人は多いのではないだろうか。11月5日に発表された「新語・流行語大賞ノミネート30語」にも「二季」が選ばれた。日本の「二季」化を科学的に明らかにしたのが、三重大学大学院修士2年の滝川真央さん。立花義裕教授らとともに、2年間にわたって研究に取り組んだ。
気象庁は日本の夏を「6月から8月」と定義しているが、滝川さんは実際の気温の観測データに着目。気象庁の観測データを1982年から2023年までの42年分にわたって収集し、日本列島周辺を格子状に200区画に分けて解析した。
解析の方法は次のようなものだ。
まず、夏や冬の長さ(期間)の定義だが、各区画について年最高の日平均気温と、年最低の日平均気温を割り出したうえで、最高気温と最低気温の差のうち、上から4分の1を「夏の基準」(夏になる境目)、下から4分の1を「冬の基準」(冬になる境目)とした。
例えば、下の図表のように、年最高の日平均気温が25度、年最低の日平均気温が5度だった地域では、上から4分の1にあたる20度が「夏の基準」、下から4分の1にあたる10度が「冬の基準」になる。この場合、1年で最初に20度を超えた日から最後に20度を超えた日までが夏の期間(20度~25度)で、5度〜10度が冬の期間、10度から20度までが春と秋の期間になる。
この定義に従って出した数値を基に、1年経ったら夏の期間がどれだけ変化するのかを表す「回帰係数」を算出して、42をかけることで、約42年間の平均で夏の開始日がどのようになったかを計算した。その結果、約42年間で夏の期間は約21.4日延びていた。一方で、同様に冬の期間を算出したところ、ほとんど変化は見られなかった。
世界で日本だけ夏が前にも後ろにも延びている
滝川さんがこの研究を始めたのは、学部4年生だった2023年4月。立花教授に相談して本格的に研究を始めた。きっかけは素朴な疑問からだったと明かす。
「もともと日本の四季が好きで、旬の野菜や、季節ごとの景色に興味を持っていました。でも、最近は5月や10月も暑くて、夏みたいだなと感覚的に感じていました。この感覚を統計的に見たらどのような結果が出るのだろうと、疑問に思ったのがきっかけです」
立花教授は滝川さんの着眼点を次のように評価している。
「夏が延びているなということは、僕も感じていましたし、皆さんも感じていたのではないでしょうか。でも、直感だけで話していては科学ではないので、客観的に示す必要があります。実は、夏が暑くなったことについての研究はありますが、夏の期間が延びている研究は少なくとも日本ではありませんでした。面白い研究だし、いい着眼点だと思いましたね」
さらに、北半球にある中緯度の国々のデータを分析していく中で、滝川さんは驚く場面がたびたびあったという。その一つは、一番気温の高くなる時期が、日本だけ他の国々と大きく異なっていたことだ。
上の図(日平均気温のピーク日)は、いつ、どこで最も気温が高くなっているのかを滝川さんが分析したもの。7月31日を基準にして、それよりも早く気温が高くなる地域は青色、遅い時期に高くなる地域は赤色に向かうグラデーションで示している。図を見ると、大陸の国々と日本では大きく異なっているのがわかる。
「最も気温が高い日がくる時期は、大陸と海で大きな差があります。大陸では6月から7月中までに到来しているのに対して、太平洋では8月後半に気温のピークが来ます。そこで日本を見ると、日本は陸であるにも関わらず、大陸よりも遅く、太平洋よりは早くピークがきていました。これだけ見ても、日本の気候には大陸とは違う特徴があります。一番暑いのは8月というイメージがあったので、他の国はそうじゃないことにまず驚きました」
さらに意外な結果が出たのは、直近の10年間でどれくらい夏の期間が延びているかどうかを分析したときだった。
上の図(夏の期間変化傾向)では、プラス(赤色)であれば夏の期間が延びていること、マイナス(青色)であれば縮んでいることを示している。日本だけでなく、大陸でも海洋でも、北半球では夏が縮んでいる場所はほぼなく、全体的に長期化している傾向が見て取れる。
次の図では、夏の開始日と終了日の両方が延びている地域が赤色のグラデーションで示されている。
陸がある地域で色が塗られているのは、日本以外にはほとんどない。つまり、他の国は開始日だけ延びているか、終了日だけが延びているのに対して、日本だけが夏の期間が前にも後ろにも延びている。この結果にも滝川さんは驚いたと話す。
「正直なところ、世界中が温暖化しているのであれば、どこでも同じように夏の期間が延びているのではないかと考えていました。しかし、前にも後にも延びているのは日本だけです。日本と他の国でこれだけの差が出たのは驚きしかありません」
さらに、冬の開始日と終了日の変化を調べたのが次の図だ。
冬の期間は北陸地方の一部に若干延びている場所があるものの、日本全体ではほとんどの場所で変化していない。世界中を見ても陸地で延びた場所はわずかだ。立花教授はこれらの結果から、日本の「二季化」を指摘する。
「世界的に温暖化が進んでいる一方で、冬の長さは縮んでいません。特に日本周辺では、夏の期間が前にも後ろにも延びていて、冬はほとんど変わっていませんので、春と秋が縮んでいることになります。この結果から、日本列島は四季じゃなくて、だんだん二季になりつつあると言えます」
夏が長くなった原因は海面水温の上昇と偏西風の蛇行
日本には四季があるとされてきたにも関わらず、四季それぞれの日数は均等ではない。しかも変化している。その理由を滝川さんは「海の影響」と解説する。
「日本は海に囲まれていることによって、季節が変化しています。海面水温が世界的に上昇し、日本海の水温が特に上がっていることで、日本の夏の期間が長くなっていました。
5月や6月は、従来なら海水は冷たいのですが、日本海で温まった空気がこの時期に西から東に吹く偏西風によって日本に流れてきます。その結果、日本列島は早い時期から温められて、夏が早く来るようになっています」
日本だけ夏の終了日も延びている理由を立花教授は、海の影響に加えて、偏西風や日本の地理的条件も影響していると説明した。
「日本周辺の海面水温は、9月後半から10月前半にかけても高くなっています。海面水温が春も、夏も、秋も上昇している理由の一つは、熱帯から日本周辺に流れてきている黒潮と、分流として日本海へと流れ込む対馬海流が、熱帯地方の温暖化によって熱くなっていることです。流れが速い海流なので、熱い海水がどんどん日本列島周辺に流れてきています。
もう一つの理由は、日本付近が7月や8月に偏西風が北に蛇行しやすい場所になっていて、高気圧の暖気に覆われやすくなっていることです。夏が猛暑になり、その影響でまた水温が上がるため、9月や10月も暑い状態が続くのです。大陸は熱しやすく冷めやすいのに対して、海水はなかなか冷めません。だから、日本が北半球で最も夏が延びている地域になっています。予想はしていましたが、事実として示されたので私も驚きました」
2024年は夏の期間が133日間に延びていた
では、それぞれの季節の期間は実際にどれだけ変化しているのか。編集部では滝川さんの研究データを基に、1983年から2022年までの40年間について、20年ずつ前半と後半に分けて季節ごとの長さの平均を出した。さらに、滝川さんが解析した2023年と2024年それぞれの季節の長さとも比較した。それが次の表だ。
まず前半の「1983年から2002年の平均」と、後半の「2003年から2022年の平均」を比べると、夏の開始日は5日前倒しになり、終了日は4日遅くなっていた。その結果、夏の期間は102日間から111日間へと延びた。
続いて、滝川さんが解析した2023年のデータと「2003年から2022年の平均」を比べると、夏はさらに長くなった。夏の開始日は7日前倒しになり、終了日は3日遅くなったことで、期間は121日に延びた。2023年の春が極端に長いのは、年によるばらつきがたまたま大きくなったためと考えられる。
さらに、滝川さんによる2024年の解析結果では、夏の期間はなんと133日間にまで延びた。夏の開始日は前年より3日前倒しになり、終了日は9日遅かった。実に1年の3分の1以上を夏が占めていたことになる。しかも、「1983年から2002年の平均」と比べると、夏が1か月も長くなっていた。
2024年の夏が長くなった理由について滝川さんは「北から流れてくる冷たい親潮を抑えて、黒潮がどんどん北上したことで、日本周辺の海が温められた影響が出たと考えられます」と話している。
また、冬の期間について“前半”、“後半”と2023年を比べてみると、若干短くなっているように見える。滝川さんに見てもらったところ、「解析している領域に陸とともに、温かさを保持しやすい海も含まれていることから、冬が短くなっているのではないかと考えられます」と分析。一方で「夏が延びた期間と比較すると、冬の期間の縮まりは小さくなっています。温暖化の影響で一度に大量に降るドカ雪は増加するという予測もありますので、夏はより長くより暑く、冬は寒いままであるという解釈もできます」と指摘した。
日本は温暖化の影響により世界で最も夏が長くなっている地域
気象庁は、2023年から2025年まで3年連続で夏(6月~8月)の平均気温が過去最高を記録したと発表している。滝川さんが研究に使用している観測データはまだ2024年の夏までしか出ていないが、「気温に基づく2025年の夏の期間」は2024年と同じ程度か、それ以上に長くなっていてもおかしくない。
立花教授は「日本が世界で最も夏が延びている地域であることは事実」として、日本は地球温暖化の影響を大きく受けている国の一つだと言い切る。
「夏が133日間ということは、約4.2か月もの長さです。私は今まで日本は二季に変わってくるだろうという意味で二季化と言っていましたが、この数字を見るともう二季ですよね。日本周辺の海面水温が高い状態はおさまっていませんので、年によっては気象状況が変化して夏が短くなる地域もあるかもしれませんが、傾向としては今後もますます延びていくのではないでしょうか。
海面水温が上昇するのは、二酸化炭素が増加しているからです。二酸化炭素は熱を吸収するガスなので、鍋の蓋と同じ機能をして、地面や海面を温めています。二酸化炭素の増加を抑えていけば徐々に海面水温も下がるものの、大陸に比べると日本は元に戻るのに時間がかかります。この研究成果によって、日本は地球温暖化の影響で世界の中でも夏が長くなっている国だということを、もっと多くの人に知ってもらいたいですね」
今後さらに日本の夏が延びて「二季」になることで、ゲリラ豪雨などによる災害や熱中症の危険は高まり、農作物や海産物、さらには生活にも影響をもたらす。日本の「二季」の実状を知るとともに、このままでいいのかを考える時期に来ているのではないだろうか。
【調査情報デジタル】
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