都内の若者のひとり暮らしには、「時給1900円は必要」という試算があります。その一方で、賃金の引き上げを求められる企業側も“火の車”なようです。私たちの「お給料」、最低賃金の引き上げをめぐる議論を深掘りします。
物価高でパート掛け持ち「時給1500円になってくれたら」
相模原市を中心に、クリーニング店約20店舗を運営する「AKランドリー」では、ほとんどの従業員が時給で働いています。
パートの女性(48)
「勤務は週4ですね、ここは。他は1件、それは週1回くらいのペースで」
現在の時給は、神奈川県の最低賃金を10円上回る1235円です。現在、子ども4人の6人暮らし。中東情勢の影響による物価高もあり、ほかにもパートを掛け持ちしています。
パートの女性(48)
「物価高、大変です。食品にしても何にしても。食費なんかは、100円くらいは全部変わってるんじゃないかな。時給が1400円でも1500円にでもなってくれたら、だいぶ変わる」
苦しいのは、企業側も同じです。
AKランドリー 三橋崇子営業本部長
「水に見えているものが全部、クリーニング用の有機溶剤。今はもう中東情勢の前の価格より、5割~6割くらいは上がっています」
中東情勢の影響で様々なコストが上がっていて、洗剤だけでなく衣服を運ぶためのガソリン代にハンガー、さらには衣類にかけるビニールまで。
AKランドリー 三橋崇子営業本部長
「(ビニールは)何回か見直しをして、薄くして薄くして薄くして、今は0.012ミリを使っています。お客様の元に届くまでに、ほこりをかぶらないということを目的としているビニールなので、もうそこを削るしかないんです」
人件費も重くのしかかっています。
創業50年近くになりますが、2025年初めて、売り上げの51%が人件費で消え、店舗を1つ閉店させました。
AKランドリー 三橋崇子営業本部長
「(時給が)今ここで同じ上げ幅で上がると、正直会社として成り立つのかなと」
最低賃金引き上げも“新たな地域格差” 価格転嫁の難しさも
こうした中、政府は7月、最低賃金について「2030年代前半のできる限り早期に、全国平均1500円を達成する」と新たな方針を示しました。
前の石破政権が掲げた「2020年代までに1500円」という目標を後ろ倒しにしましたが、引き上げ額以外にも課題が。
上野賢一郎厚労大臣
「地域間格差是正などにも配慮をいただきながら、真摯なご議論をしていただくよう、よろしくお願いします」
最低賃金は都道府県ごとに決まるものですが、2025年度は引き上げ時期がバラバラ。例年通り10月に引き上げる自治体もあれば、賃上げの準備期間が必要だとして年をまたぐ県も相次ぎ、“新たな地域格差”が生まれました。
引き上げ時期が2026年3月と、全国で2番目に遅かったのが群馬県です。高崎市内にある大学の食堂。時給で働く大学生に話を聞くと…
大学1年生
「働くって苦労しているので、(引き上げ時期など)給料は平等にするべきだなと思う」
「物価は上がるのに給料は上がらない。他のところは上がっている。それはちょっと不満」
「(友達は)埼玉のほうが時給が高いから、埼玉に移動してバイトしている」
こちらの学食、人気メニューは熱々のオムライス。鶏肉やサラダがついて、ボリュームもたっぷりです。気になるお値段は…
Q.オムライスの値段は
大学生
「500円です」
学生のお財布事情を助ける、ワンコインの500円。
この「学食」の運営会社では3月に賃上げをした一方で、人員配置や原材料費をできる限り抑えてメニューの価格は据え置きに。学生相手だけに簡単には値上げをしづらい事情もあります。
飲食店経営「サンフラワー」宮田誠社長
「学生食堂みたいなところは特にそうですけれど、(学生の)生活に直結している部分なので価格転嫁を非常にしにくい」
宮田社長は、最低賃金の引き上げを各地と同じ時期にしたうえで「中小企業でも価格転嫁しやすい環境を作ってほしい」と望んでいます。
飲食店経営「サンフラワー」宮田誠社長
「全体が上がるタイミングで(賃金を)上げてもらったほうが、価格転嫁という点ではやりやすかった。価格転嫁しやすい状況であったり、お給料を上げるために何をどう回したらいいのかというサイクルを国には考えてほしいと思います」
国は23日、最低賃金の目安を決める議論を行い、労働者側が全国平均の時給で75円の引き上げを求めたことが分かりました。
今後も労使双方の主張を踏まえ、7月中にも結論を出す見通しです。
賃上げと雇用の両立の実現は…?
【最低賃金 全国平均の推移】※厚労省HPより
2021年:930円
2022年:961円
2023年:1004円
2024年:1055円
2025年:1121円
小川彩佳キャスター:
こちらは最低賃金の全国平均の推移のグラフです。ここ数年、物価高や人手不足などを背景に過去にないペースで引き上げられていて、現在の最低賃金は1121円になっています。今後、政府は「最低賃金1500円」という目標も掲げています。
ただ、企業側からは悲鳴も上がっているわけですね。
教育経済学者 中室牧子さん:
最低賃金を見る上で非常に重要だと思っているのは、プラス面とマイナス面、両方をしっかりと見極めなければいけないということです。
賃金が上がるというのはプラスの面だと思いますが、賃金が上がると雇用が減ってしまうということが心配されるわけです。
アメリカの研究では、「最低賃金を上げたとしても雇用への影響は限定的」と言っていることが多いですが、日本の研究では「最低賃金を上げると若年労働者や製造業での雇用が減る、スポットワークの募集が少なくなる」という研究が出ています。
最低賃金を上げることによって、こういった影響が出ないかどうか見ていく必要がありますよね。
【企業への影響】(昨年度)
残業時間・シフトを削減:23.3%
従業員の削減。採用の抑制:9.4%
※日本商工会議所の調査より
藤森祥平キャスター:
2025年度、最低賃金が引き上げられたことで、こんな調査結果が出ています。
企業の約2割が残業時間・シフトを削減、つまり労働時間を減らしている。さらにその約1割は従業員そのものを減らしています。結局、最低賃金を上げても従業員側の負担は軽くはなっていないということですね。
教育経済学者 中室牧子さん:
「賃金は上がったけれど、解雇されてしまいました」ということになると、誰のためになったのかという話になりますからね。
“普通の暮らし”に「時給1924円」必要 価格転嫁できる環境づくりが課題か
藤森祥平キャスター:
労働者側の目線でのデータもあります。
全国労働組合総連合の試算によりますと、東京都内で“普通の暮らし”を送るには月に「28万8664円」必要であると言われています。月150時間働く場合には、時給1924円必要になるということです。最低賃金とは開きがありますね。
小川キャスター:
最低賃金からは程遠いですからね。
生活が回っていかないという現状がありますし、今後も物価高が続いていくことが予想される中、賃上げも欠かせないという状況。一方で企業の負担も重い。このバランスをどう考えていくべきかですね。
教育経済学者 中室牧子さん:
東京大学の川口大司教授らの研究によると、最低賃金で働く労働者の50%は「世帯年収が500万円以上のパートタイムの既婚女性や学生アルバイトではないか」という研究もあります。
最低賃金を上げたところで、低所得の労働者を救えるのかというと、必ずしもそうではないかもしれないということです。
最低賃金を上げることは重要だと思いますが、それだけで低所得の人たちを救うことはできないので、いま議論になっている給付付き税額控除など、他の政策も組み合わせて救済をしていく総合的な政策が必要だと思います。
藤森キャスター:
海外では最低賃金を引き上げても雇用に影響しないのに、なぜ、日本は雇用に影響してしまう傾向にあるんですか?
教育経済学者 中室牧子さん:
価格転嫁ができるかということがポイントだと思います。海外では、最低賃金が上がった時に価格に転嫁をすることで、雇用に影響しなかったのではないかと言われています。
現在は価格転嫁が非常に難しいという問題があるので、価格転嫁できるような環境を作っていくことが重要なポイントだと思います。
小川キャスター:
本当に“価格転嫁が難しいのか”という検証も必要になってきますね。
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<プロフィール>
中室牧子さん
教育経済学者 教育をデータで分析
著書「科学的根拠で子育て」
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