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観測史上最多の雨はなぜ起きた? 森田予報士「“スーパーエルニーニョ”がもたらした異例の気圧配置とモンスーンジャイア」~千葉豪雨などの異常気象を解説~【調査情報デジタル】

国内
2026-10-17 08:30

今年9月は西日本で猛暑が続く一方、東日本では記録的な長雨となった。1か月あまりの間に3度の豪雨が発生した千葉では観測史上最多の降水量を記録した。この異常気象を招いた気圧配置や台風の多発と、その背景にあるエルニーニョ現象の影響を森田正光気象予報士が解説する。


【写真で見る】本文中のデータ図表


過去最大規模のエルニーニョ現象が発生

――今年の夏から9月にかけては、西日本や東海地方を中心に40℃以上の酷暑日が多くの地点で記録された一方で、東日本を中心に大雨や長雨による大きな被害が発生しました。今年5月に配信した記事「『冷夏要因』があるのに今年の夏も高温に!」で、森田さんは今年の夏はエルニーニョの発生により、通常なら大雨が降りやすく冷夏になりやすいはずだが、実際には暑い夏になる可能性も高いと解説されていました。


森田 概ね解説した通りでしたが、あの時に戻れるのであれば、9月の長雨を予想したかったですね。9月の降水量としては東京では151年の観測史上で最多、千葉では60年の観測史上最多を記録しましたが、これは予想できませんでした。1か月あまりの間に3度も大きな被害をもたらした千葉豪雨と、西日本の酷暑日の多さも、当時の想像を超えるものでした。今年の長雨は工事の遅れや農作物の不作など、様々な産業に影響が出ています。


――この異常気象には、やはりエルニーニョ現象が影響したのでしょうか。スーパーエルニーニョが発生しているとも伝えられていますが、この点についてはいかがですか。


森田 実は「スーパーエルニーニョ」は公式な用語ではなく、日本の気象庁も、世界気象機関(WMO)も使っていません。一部の学者が使い始めたのがきっかけで、最近ではアメリカ海洋大気庁(NOAA)が予測でこの言葉を使い始めたことで、一般に定着しつつある用語です。


――スーパーエルニーニョとは、要するに強いエルニーニョ現象ということですか。


森田 そうですね。エルニーニョ現象は太平洋赤道域の東部で海面水温が平均より高くなり、その状態が1年程度続く現象です。+0.5℃以上の上昇が半年間続くことで発生が確定するもので、今年春から発生している状態です。すでに9月の段階で+4.0℃まで上昇していて、最大規模のエルニーニョ現象が発生していることは間違いありません。このことが9月の異常気象に関係しているんです。


例年とは大きく異なった気圧配置

森田 エルニーニョの影響を説明する前にまず、この夏の気温、気圧配置、台風について確認しておきましょう。最初に7月から9月の平均気温を昨年と今年で比べてみます。下の図(図表1)は気象庁が発表した昨年の「地域平均気温の平年差の経過」で、5日移動平均をとっています。昨年は、北日本、東日本、西日本で猛暑が続いていたことがわかります。


森田 続いて今年の図(図表2)を見ると、北日本、東日本では8月から9月にかけての気温が、明らかに去年よりも低くなっています。


森田 続いて、9月上旬の気圧配置図を昨年と今年で比べてみましょう。昨年は日本の南側に高気圧があって暖かく、北側が低気圧となっています(図表3)。これは通常の9月の気圧配置です。


森田 ところが、今年の気圧配置は全く違うものでした。下の図(図表4)のように、日本の西側と北海道は高気圧が強く、南側は高気圧の勢力が弱いか、低気圧や前線が支配的です。 


森田 この気圧配置は、9月としては今まであまり見たことがないものです。この気圧配置によって秋雨前線が停滞し、前述の通り東京と千葉で観測史上最多の降水量を記録するなど、長雨がもたらされました。


台風の多発が9月の長雨や豪雨に影響

森田 台風についても確認しておくと、台風の発生は平年で25個くらいなので、今年はすでに平年を上回っていることになります。台風が多く発生すると、日本の南の海をかき混ぜるので海水温が低くなり、海水温が低くなると、あまり強い台風は発生しなくなります。


ただ、強い台風ではなくても、日本列島には大きな影響を及ぼします。日本の気象観測点がある場所から300km以内に入った台風は、接近台風と呼ばれます。今年の27号までの接近台風の進路を図(図表5)にしてみました。    


森田 黄色い線が日本列島に上陸した台風で、黒い線が上陸していない接近台風です。上陸したのは6号、8号、15号の3つです。


――6号と8号は南から北に進み、それから東に進んでいますが、15号は東から西に進んでいますね。


森田 15号はとても珍しいコースで、茨城県に初めて上陸した台風です。この台風15号が湿った空気を日本の南や東から関東付近に持ち込んできて、その2日後に上空に寒気が入ってきたことで、千葉豪雨が発生しました。


――15号が湿った空気を持ち込んできたことで、線状降水帯が発生したのですか。


森田 降ってくる雨粒の一部が蒸発すると周囲の熱が奪われ、空気が冷えます。この冷たい空気の上に暖かく湿った空気が押し上げられると新たな積乱雲が生まれ、線状降水帯が形成されます。線状降水帯にはいくつかの発生タイプがあって、これまでは風上で雨雲が次々と発生して線状に並ぶ「バックビルディング型」が多く発生していました。


ところが今回の千葉豪雨では、非常に発達した積乱雲が並んで形成される「スコールライン型」の降水システムが関係していました。本来、スコールライン型は降水帯が速い速度で移動していくので、同じ場所で長く雨が降り続くことは多くありませんでした。しかし、今回の千葉豪雨では風の衝突などの影響で奇跡的に長時間停滞してしまい、それによって激しい雨が集中して記録的な豪雨となりました。


気圧配置が変わったのはエルニーニョの影響

森田 9月に特徴的な天候をもたらした要因を、気象庁が次の図(図表6)にまとめています。 


森田 本来であれば、8月から9月は日本の南側に太平洋高気圧があるはずですが、その高気圧が東側にずれてしまって、南側は大規模な低圧部になりました。低圧部にできた反時計回りに渦を巻く大気の流れがモンスーンジャイアです。ここで台風が多く発生し、湿った風を日本列島に送り込んだことで、秋雨前線の活動が活発になったのです。


――この大気の流れの変化に、エルニーニョはどのように影響しているのでしょうか。


森田 本来であれば日本列島の南側で強まるはずの高気圧が、東側にずれてしまったのはエルニーニョの影響です。海水温の高い場所が東側にずれたことに加えて、スーパーエルニーニョと呼ばれるように通常よりも温度が上昇しているために、地上の気圧配置が変わってしまいました。エルニーニョが強まる場所がずれること自体は珍しくありませんが、規模が大きいために、通常よりも変な方向にずれたのだと思います。


――エルニーニョの影響は、今後どうなるのでしょうか。


森田 エルニーニョはまだ強まっている段階ですが、10月以降に日本列島で線状降水帯が発生することは少なくなると思います。気象庁は冬に関しては到来が遅く、全国的に暖冬傾向になるとみています。ただ、暖冬だからといって、寒波が来ないわけではありません。日本海側では暖冬だと「ドカ雪」が降ると言われていますので、大雪には注意が必要です。


――来年まで影響は続きそうですか。


森田 エルニーニョが来年に入っておさまっても、海洋への影響は半年ほど持続します。ですから、来年の夏も天候不順になる可能性があります。


それにしても、今年の異常気象を見て、改めてエルニーニョの影響はすごいなと思いました。ペルー沖の、海洋全体からすれば6分の1くらいの面積で起きていることが、世界中の広大な面積や大気にも影響を与えているからです。


――エルニーニョによって8月の世界気温は過去最高を更新したとNOAAは解析しています。ヨーロッパの猛暑も、エルニーニョや気候変動が複合的に作用した結果だと指摘されていますが。


森田 規模の大きなエルニーニョは過去にも発生していて、マヤ文明はスーパーエルニーニョの影響によって衰退したのではないかという説もあります。ただ、今問題なのは、異常気象に人間の影響が関わっているのではないかと考えられる点です。


気象学の最先端では、異常気象などが起きた際に、人為的な地球温暖化がどれくらい影響したのかを解析するイベント・アトリビューションという技術があります。異常気象に対して、温暖化の影響が10%から20%ほどあるのではと指摘されたケースもあります。


今年8月にはヒマラヤ山脈の氷河が崩壊し、大規模な土石流が発生しました。ネパールと中国を合わせた死者と行方不明者は、7000人以上に上ると見られています。この氷河崩落についても、今後温暖化の影響が分析されるでしょう。イベント・アトリビューションもまだまだ研究途上の面はあると思いますが、異常気象に人為的な影響があることについて、合意が固まりつつあることは知っていただきたいですね。


(インタビュアー・田中圭太郎)


<森田正光(もりた・まさみつ)氏略歴>
1950年名古屋市生まれ。財団法人日本気象協会を経て、1992年にフリーお天気キャスターになる。同年、民間の気象会社、株式会社ウェザーマップを設立。
親しみやすいキャラクターと個性的な気象解説で人気を集め、テレビやラジオ出演のほか全国で講演活動も行っている。
2005年より公益財団法人日本生態系協会理事に就任し、2010年からは環境省が結成した生物多様性に関する広報組織「地球いきもの応援団」のメンバーとして活動。環境問題や異常気象についての分析にも定評がある。
学校法人桑沢学園東京造形大学客員教授、一般社団法人島バナナ協会代表、将棋ペンクラブ審査員。


【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。


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