
高市政権の発足から1年。高い支持率を保ち続けてきたこの政権は、この間に何を「危機」と捉え、総理自身はどう変わり、あるいは変わらなかったのか。
【写真を見る】総理の“最側近”語る危機はスタート地点?高市政権発足から1年で記者が見た総理の変化 “アクセル役”維新の主張に潜む総理のホンネ【edge23】
TBSテレビ政治部・官邸クラブで官房長官を担当し、高市総理を総理就任以前から取材している大室裕哉記者が、総理の“最側近”木原官房長官に単独インタビューを実施。木原長官の発言について、番記者の取材で得た視点を重ねて読み解き、連立のパートナーである日本維新の会との関係や、高市政権の現在地と今後の課題を読み解く。
「スタートの時点が一番の危機」木原官房長官が語った高市政権の危機
10月20日、TBSテレビ政治部・官邸担当の大室記者は、木原官房長官に単独インタビューを行った。普段の官房長官会見では長官が壇上に立ち記者とは一定の距離があるが、今回は近い距離での取材の機会となり、大室記者は「大変貴重だった」と振り返る。
質問は個別具体的な政策ではなく、高支持率を維持している理由、政権として最も危機と感じた瞬間、総理を支えるうえで気をつけていること、連立相手の日本維新の会との関係など、高市政権全体について聞いた。
「高市政権として最も危機感を持った瞬間」について問われた木原長官は、政権発足時だと語った。
木原稔 官房長官
「私はスタートの時点が一番危機だったというふうに思っています」
木原長官はその理由について、「政権を引き継いだ時、衆議院・参議院いずれも少数与党だった。さらに数日後には、長年の連立のパートナーである公明党が連立政権を離脱した」ことを挙げたうえで、次のように話した。
木原稔 官房長官
「総裁には選ばれたけども、このまま当時の臨時国会に突入すると、総理に選ばれないかもしれない。これはまさしく危機ですよね」
これについて大室記者は「長官の本音だろう」と受け止める。
石破政権から引き継いだ時点では、総理指名選挙で野党がまとまれば国民民主党の玉木代表が選ばれる可能性があった。自民党の総裁になっても総理になれなければ、総裁選で公約に掲げた政策は前に進まない。そのためスタートの瞬間こそ「最も」危機だったというのは本音だと振り返った。
日中関係の悪化にカタログギフト配布問題…番記者が感じた政権最大の危機とは
一方で、この一年間政権を見続けた大室記者は、危機はほかにも数多くあったという。
台湾有事をめぐる答弁をきっかけとした日中関係の悪化、カタログギフトの配布問題、閣僚の疑惑、総裁選などでの中傷動画疑惑などである。
カタログギフトは石破政権の商品券問題と類似する事例ではないかとざわついたが、支持率は大きく落ちずに乗り切った。大室記者は、高市政権でなければ支持率が急落してもおかしくない危機が1年を通じて多くあったと指摘する。支持率は現在でも60%以上と高い水準を保っている。
大室記者個人が最大の危機とみたのは、日中関係の悪化だ。最大の貿易相手国である中国との関係が悪化すれば、日本経済への影響は避けられない。これを機に経済安全保障やサプライチェーンの強化を進めているが、関係は「良いか悪いか」で言えば良い方がいいと指摘する。
11月中旬には中国・深圳でAPEC首脳会合が予定されている。岩屋前外務大臣が訪中し王毅外相らと面会するなど、議員外交のレベルでは動きが出始めた。これまで何も動かなかった日中関係が動き始めたことに官邸サイドもポジティブに捉えていて、APECでの日中首脳会談を模索している。ただし、議員外交の再開が政府のハイレベルの外交に繋がるかどうかについては、政府・与党内では懐疑的な声の方が多いという。
支持率60%超の理由は「決める政治」か
木原長官は高い支持率を維持できている要因を、「国民の大層のニーズをしっかりと掴み、それを一つ一つ着実に形にしていること」。そして「あのとき高市政権が実行して良かったと、後世の人たちにそう思ってもらえるような政策を決断して実行していること」だと説明した。
大室記者は、「政府の公式見解を伝える場」である官房長官会見では中々話すことのできない内閣支持率について、木原長官が自身の言葉で話していたことが印象的だったという。
大室記者が考える高支持率の要因も木原長官の認識に近く、1つ目は「決める政治」になったことだ。
特別国会の後半には、国家情報会議・国家情報局の設置、改正皇室典範の成立、副首都構想関連法の成立など、高市政権肝いりの政策を成立させた。国論を二分すると言われた法案も多く、副首都構想関連法は参議院ではギリギリだったが成立までこぎつけることができた。それも衆議院で自民党が3分の2の議席を得たからこそ、ここまで政治を前に進められているとの見方だ。
2つ目は新しいスタイルの総理であること。会食が少なく、実力者への根回しよりも自分で判断する姿が国民に受けているとの見方がある。
3つ目は、失策という失策がそこまで多くないことだという。「台湾有事答弁」や「簗前大臣の更迭判断の遅れ」はあったものの、令和8年熊本地震への対応も、10年前の熊本地震も経験した木原長官を中心に早かった。これらの積み重ねが、高い支持率につながっていると大室記者は分析する。
「終始一貫」か「現実路線」か 変わらない経済、変わった韓国との向き合い
この1年、総理就任の前後で高市氏は変わったのか。総理就任後に意見や方針が変わるケースは、これまでの内閣でも指摘されてきたが…。
この点について木原氏は「ほとんど変わったところはない、終始一貫している」と語り、自民党の政務調査会で高市氏が政調会長、木原氏が事務局長として共に働いた経験や、岸田政権で経済安保大臣と防衛大臣として共に働いた経験を踏まえ、「政策に対する姿勢は今も昔も変わらない」とも話したという。
大室記者も、経済重視の姿勢は変わっていないと話す。
去年9月の総裁選期間中に当時の高市候補におこなったインタビューで、「総理として何をレガシーとして残したいか」と尋ねると、答えは「サナエノミクス」だった。政権発足1年を受けた記者団への会見でも「強い経済を実現しながら」「責任ある積極財政」といった言葉が使われ、経済最優先の姿勢は1年前と変わらないという。
また木原長官は、高市総理には総裁選の公約、日本維新の会との連立合意書、衆院選の公約という3つの方針があると語った。大室記者は、総理就任後に持論が言いづらくなり意見や方針が変わることは珍しくないとしたうえで、高市総理は歴代総理と比べて約束を守る姿勢が強いとみている。
では、変わった点は何か。3年弱にわたり高市総理を取材してきた大室記者が挙げたのは、韓国への向き合い方だ。大室記者が番記者になったのは2023年12月ごろで、高市総理は当時、経済安保大臣だった。総理就任前は閣僚として靖国神社に参拝していたことから、韓国側から警戒されていたが、総理になると現実的な外交をしているという。5月の日韓首脳会談では、李大統領の地元・安東に同行取材したが、「ここまで歓待するのか」というくらい歓迎ムードが印象的だった。
日韓関係を良好にする必要性の背景には東アジア情勢の不安定さもある。
中国の覇権主義に加え、北朝鮮がウクライナと戦争を続けるロシアに武器や兵士を送るなど、不安定な東アジア情勢の中で日韓関係が良好であることは安全保障上重要であるほか、日韓両国に軍を駐留させるアメリカも良好な関係が続くことを求めている。
こうした韓国とアメリカへの配慮から、かねてから総理になっても参拝への意欲を示していた高市総理は今年の終戦の日の参拝を見送り、日本武道館から靖国神社に向かって2拝2拍手1拝をする「遥拝」にとどめた。これについて高市総理は周辺に対して「この夏は複雑な状況があった」と話している。
日韓関係は今、一昔前を考えると信じられないほど良好だ。次のシャトル外交は順番的に日本でおこなうが、高市総理は5月、「次回は温泉にしようかな」と李在明大統領に提案した。
一方、大室記者は高市総理が外遊の際に、例えばアメリカのアーリントン国立墓地やイギリスのウェストミンスター寺院を訪れ無名戦士の墓に献花をおこなうなど、「靖国神社参拝のための環境整備」を続けていると指摘する。いつかは直接参拝をしたい思いはありつつも、参拝すれば韓国側の批判は避けて通れず、「自身の信念と外交問題との狭間で今後も悩んでいくのではないか」と見ている。
維新は「総理のホンネ」を言う役割か
この1年で最も大きな変化は、自民党が連立を組む相手が公明党から日本維新の会に変わったことだ。木原官房長官は維新について、「非常に重大な決断をしてもらった」と述べたうえで、次のように語った。
木原稔 官房長官
「自由民主党がなかなか言いにくいこと、こういったことを、横からこう言ってもらったりする役割を今担っていただいているんだろうなというふうに思います」
具体例として大室記者が挙げたのが安全保障だ。維新の藤田共同代表は21日、年末に控える安保3文書の改定について、原子力潜水艦の導入と、非核三原則のうち「持ち込ませず」について自民党に協議を求めた。自民党はいずれも慎重な姿勢だが、高市総理は非核三原則のうち「持ち込ませず」の見直しが持論だという。なお、高市総理は今月14日の衆議院予算委員会で、原子力潜水艦の導入について「具体的かつ現実的な検討を深める」と答弁している。
木原長官は、維新の政策について「自民党の中でも特に高市総理とか私どもとかの政策に非常に近い」「政策に対する考え方も非常に似通っている。一言で言うと波長が合う」と述べた。
大室記者は、高市氏と木原氏は保守的な政治信条で共通するが、自民党には保守からリベラルまで幅広い議員がいると指摘する。内閣として進めたいが党内では進みにくいことを、維新がアクセル役となって進めようとするのが現在の連立政権の特徴だという。かつての自公政権では公明党が歯止め役となっていたが、今は維新に対して自民党が歯止め役になる逆転現象も起きていると話す。
1年前は“想像できなかった” かつては国民民主が本命
ただ、1年前にこれほどまでに強固な自民・維新の関係は想像できなかったと大室記者は振り返る。総裁選の公約には、立憲民主党を意識した給付付き税額控除、維新を意識した副首都構想、国民民主党を意識した年収の壁引き上げと、衆参共に少数与党だった当時の状況において各野党と“組める”政策が盛り込まれていた。
なかでも「手取りを増やす」政策で高市氏と共通する国民民主党が本命だったという。去年12月18日には自民党と国民民主党が年収の壁の引き上げで合意し、年度内の新年度予算の早期成立が合意文書に盛り込まれた。このとき玉木代表は「信頼関係が醸成された」「関所を乗り越えた」などと発言をしたが、高市総理が1月に衆議院の解散を決断して予算は年度内に成立せず、両党の関係は冷え込んだ。
反比例するように、維新との関係が強まっていった。維新との信頼関係の背景には、約束を守る姿勢もある。2024年6月の旧文通費をめぐる合意を自民党が事実上反故にしたことを踏まえ、政府高官は「自民・維新連立政権では、そういう約束違反がないようにしよう」と強調していたという。
「高市一強」も党内の不満は蓄積する?長期政権のカギは
今後、高市政権が掲げる重要政策は中長期的なものが多い。
インテリジェンス改革はまだ第一歩目で、成長投資は5年、10年の単位で見る必要がある。地域未来戦略の産業クラスター計画や予算編成改革も、これからの課題だ。実現するには長期政権を築く必要があると大室記者は指摘する。
そこで課題になるのが政権運営の手法だ。
高市総理の側近議員は「高市さんは細部も自分で納得したい人なので、任せるというよりはトップダウン型の政治だ。スピーディーに事が運んでいくのが良さだけど、意思決定に多くの人が参加できないから不満は蓄積する。これが長持ちするかどうかは分からない」と警鐘を鳴らしたという。
この議員が引き合いに出したのは安倍政権だった。安倍総理が大方針を示したうえで、細部は皆で詰める。そのため時間はかかるが確実に成立し、皆が納得する形となったのが安倍総理の政治だと指摘していた。
高市総理と関係の近い萩生田幹事長代行も、18日のBS番組で「高市総理は政策に前向きに取り組み、リーダーシップを感じるが、根回しをしないので助ける人がなかなか出てこない。コミュニケーションをもっととった方がいいなと心配していた1年だった」と話した。
一方で、ここ最近、自民党内から来年秋の総裁選での高市総理の再選を意識した発言が相次いでいる。党内の不満は渦巻きつつも、高支持率を背景に現状では高市総理有利の見方が強い。
木原長官はインタビューの中で維新との連立合意書の更新の条件について次のように述べた。
木原稔 官房長官
「条件としては、高市総裁がもう一度(総裁選で)勝つということと、日本維新の会が連立に継続して加わるということ。この二つが条件になってくると思います。その約束が出来たときに合意文書の更新がなされるんだろうと思いますね」
大室記者は、「高市一強」に加え、自民党や参議院を味方につけ、オール自民党で総理を支える体制になれば、長期政権に近づくのではないかと指摘する。信念が強い総理が大きく変わることは難しいとしつつ、さまざまな人のアドバイスを聞きながら進めることが大切ではないかとも述べた。
なお、政権発足1年の会見で反省点について問われた高市総理は「国民への発信強化が課題」だとした上で「政府の広報のあり方も考えていかなければいけない」と話した。官邸幹部も、「ガソリン価格が1リットルあたり170円程度に抑えるために補助金が入っていることを知らない人もいる」と話していた。内閣広報室は2027年度予算の概算要求で72億円を計上しているが、政策を幅広い層に届けるために効果的に使用し結果を出すことが求められるだろう。
発足から1年が経った高市政権は高支持率を背景とした政策の前進という成果の一方で、日中関係などの課題も抱えている。木原官房長官が語った「終始一貫」の姿と、番記者が見た韓国への向き合い方で感じた「現実路線」。この両面を意識しながら、今後も高市政権の取材を続けていきたい。
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