第2次トランプ政権で真っ先に取り組んだのは不法移民対策ですが、ホワイトハウスの記者会見でもトランプ流に様変わりしています。
不法移民を「キューバの米軍基地」へ
トランプ大統領
「画期的な法律だ、多くのアメリカ人の命を救うだろう」
トランプ大統領は、29日、万引きなどの軽犯罪で逮捕された不法移民を拘束し続けるよう義務付ける法案に署名しました。さらに…
トランプ大統領
「奴ら(不法移民)をグアンタナモに送る。簡単に抜け出せない厳しい場所だ」
キューバにあるアメリカ軍グアンタナモ海軍基地。2001年の同時多発テロの容疑者らを収容し、かつて拷問なども行われたと批判された施設です。悪名高きその場所に、不法移民3万人を収容する施設の設置を命じる大統領令に署名すると明らかにしたのです。
記者会見は「ニューメディア」優先に
トランプ流の「変化」は、他にも…
記者
「ホワイトハウスのこちらの建物で行われる報道官の記者会見にも、変化が起きました」
報道陣で、すし詰めになった記者会見室。対応にあたるのは、史上最年少、27歳で就任したレビット報道官です。学生時代に保守系の「FOXニュース」でインターン。去年の大統領選挙でトランプ陣営の広報を担当した人物です。
初めての会見で、表明したのは…
レビット報道官
「この会見室をニューメディアにも開放します。独立ジャーナリスト、ポッドキャスター、インフルエンサー、クリエーターたちも、ホワイトハウスの取材に歓迎します」
そして…
レビット報道官
「まずはニューメディアから始めます。 最初に『アクシオス』、次に『ブライトバート』質問をどうぞ」
これまでは、最前列に座るテレビなど既存メディアの記者が最初に質問するのが通例でしたが、トランプ政権では後回しとなり、インターネットメディアが次々と質問の権利を得たのです。
レビット報道官
「次は、ブライアン・グレンさん」
フルネームで指名されたのは、保守系のストリーミングメディア「Real America’s Voice」のブライアン・グレン氏。トランプ氏もお気に入りのリポーターで、先週には、こんな一幕も…
ブライアン・グレン氏
「カリフォルニアの問題(山火事)は、地元の失政が大きな原因ですが、それでも現地を訪れるのは人々を第一に考えるからか」
トランプ氏
「良い質問だね。こんな質問をどんどんしてもらいたいよ」
そのグレン氏は会見で、不法移民の受け入れを拒んだ南米コロンビアの大統領が、トランプ大統領に報復関税をつきつけられ、一転、受け入れを表明したことについて質しました。
ブライアン・グレン氏
「コロンビアの大統領との一件が示すのは、トランプ大統領に対して世界が強い尊敬の念を抱いているということか」
レビット報道官
「その通りです。『強さによる平和』の復活です」
グレン氏に、ホワイトハウスの変化について聞いてみるとー
ブライアン・グレン氏
「この政権は国民の声を聞きたいのですよ。過去30~40年にわたってホワイトハウスは我々のようなメディアを締め出していたから、すばらしい変化だと思います」
トランプ流のメディア戦略は今後、世論にどんな影響を及ぼしていくのでしょうか。
定例会見「ニューメディア席」狙いは?
小川彩佳キャスター:
トランプ政権の報道官の最初の会見が行われたわけですが、まずホワイトハウスの会見場はどういう場所でどんな雰囲気なんですか。
23ジャーナリスト 宮本晴代氏:
こちらが今回取り上げた報道官の最初の会見です。すごく、すし詰めになっていますが、意外と狭く、記者の席もすごく近いんです。私も入ったことがあります。私は前のトランプ政権のときにアメリカで取材していました。私達も入れるようになっています。
ですが、やはり最前列というのは、CNNやAP通信、CBSといったアメリカのいわゆる主要メディアが陣取るのが通例なんです。横の席は、普通はホワイトハウス関係者や政府のスタッフなどが座るところなんですが、ニューメディアの方たち、今まで入れてなかった人たちのためにここを開放しますというところが今回変わったところです。
藤森祥平キャスター:
そのニューメディアで、まず初めに質問したのが、ニュースサイト「アクシオス」で、2017年に創刊したアメリカでかなり影響力があるネットメディアです。中国の最新AI「ディープシーク」について質問をしました。2番目に質問した「ブライトバート」というメディアは、露骨なトランプ寄りのメディアなんですよね。「前政権と違ってトランプ大統領のスピードは破竹の勢い。このペースは今後も続くのか」という質問をしました。これにはどういう狙いがあるのでしょうか。
23ジャーナリスト 宮本氏:
このようなメディアを入れたことについてホワイトハウスは、「これは言論の自由なんだ」と言っています。アメリカは言論の自由が大事な国です。かつ、若者は今インターネットでニュースを見ています。そのためインターネットメディアも入れましょうというのがいわゆる建前です。
ですが、私は、本音には別の目的がもう一つあると思っています。もちろんニューメディアを入れて、開放していくというのは今の時代の流れで素晴らしいことだと思うんですが、一方で、既存のメディア、大手メディアは権力者にとって都合の悪い「ファクトチェック」をしてしまうわけです。なので、いわば権力者にとって邪魔なわけです。
最近で言うと、XやFacebookがファクトチェックをやめると言ったのも記憶に新しいです。つまり大手メディアがやってきたようなファクトチェックをしない、あるいはできないニューメディアをどんどん入れていくことは、もしかするとトランプさんにとっては都合が良いかもしれないですよね。
小川キャスター:
既存のあり方、通例がこれで崩れたということなんですね。
堤伸輔氏:
かつては50年間、最前列のど真ん中にヘレン・トーマスさんという名物女性記者が座っていたんです。89歳までその仕事をされた方なんですが、第1問は必ず彼女に当てるという暗黙の了解が部屋全体にあったわけです。
そのような古いしきたりが壊れて、誰もが入れるようになること自体は良いことだと思うんですが、2番目の「ブライトバート」というのは、トランプ政権の首席戦略官や補佐官をやったスティーブン・バノンという人が運営していたメディアで、完全にトランプ寄りのことしか伝えないメディアなわけです。
インフルエンサーやそういう人たちが、“よいしょ質問”を重ねていくと、結局世界で一番注目されるホワイトハウスの記者会見の価値そのものが損なわれてしまう。それは結果的にアメリカにとっても決して得になることではないと思うんですが、トランプ氏は1期目も同じようなことをやっていて、大手メディアを排除したこともありました。それをまた最初から繰り返してるんだなという感じですね。
23ジャーナリスト 宮本氏:
トランプ氏に近いメディアの、新興メディア「ニュースマックス」CEOは「人間は自分が真実だと思うものに飛びつく」と言っていました。トランプ氏が2020年の選挙で負けた後に、ずっと選挙は盗まれたんだ、不正があったとずっと言っていました。ここのメディアは、それをその通り報道していたんです。
それについて、事実はどうなんですかと問うたら、「結局人は事実だと思うものを見るでしょ、それしか見ないでしょ」という回答なんですよね。アメリカは日本以上に分断が進んでいて、日本だと、見てる人はテレビをつけても同じようなニュースではないと思うかもしれないですが、アメリカの場合は本当に違っていて、Aというチャンネルを見てる人はBというチャンネルを見てる人とは決して交わらないというほど分断が進んでいますし、今後も進んでいくんだろうと思います。
「補助金凍結」を撤回 会見の役割は…
藤森キャスター:
3番目に質問したのは大手メディアの「AP通信」で、各種補助金などの凍結について聞きました。会見はその後も続き、他の記者も同じような質問を続けていったんです。会見後に、トランプ氏は指摘に耳を傾けたのか、凍結を撤回するという姿勢を示しているんです。
堤伸輔氏:
トランプ政権が発足して1週間が経ちますが、最初のつまずきと言って良いと思います。凍結というのは、例えばアメリカで7200万人ぐらいいる低所得者への医療補助のようなものの手続きがもうできなくなってしまったんです。人々の命に関わるような出来事が起こってしまっていて、さすがに評判が悪いんです。それで撤回せざるを得なかった。
民主党もこれまでは大統領選挙以来おとなしくしていたんですが、今回のことで腕まくりし始めた。レビット報道官の最初の記者会見だったわけですが、大成功とはいかず、むしろ最初のつまずきの記者会見になってしまった感じがあります。
小川キャスター:
潮目が変わっていくことになるのでしょうか。そして、ニューメディアの言葉「人間は自分が真実だと思うものに飛びつく」というのは、今の日本にも必要で警鐘になるような言葉なのかもしれないと感じます。
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<プロフィール>
宮本晴代
元NY支局記者
2016年、2020年の米大統領選を取材
堤伸輔さん
国際情報誌「フォーサイト」元編集長
政治から社会問題まで幅広い報道に携わる
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