同じ制服を身にまといながら、それぞれ異なるキャラクターを生き生きと描き出す学園ドラマ。その背景には、衣裳、ヘアメイク、持道具といった制作陣の緻密な工夫と情熱がある。ここでは、日曜劇場『御上先生』の衣裳担当・湯﨑莉世氏、持道具・波多野弘明氏、ヘアメイク担当・久野由喜氏の話から制作の舞台裏に迫ってみよう。
【写真を見る】学園ドラマのリアリティはこうして生まれる――日曜劇場『御上先生』衣裳、ヘアメイク、持道具の舞台裏
オリジナル制服の制作――ゼロからイチを生み出す衣裳担当の熱意
本作に登場する隣徳学院の制服は、これまでの学園ドラマとは違う雰囲気を出したいというプロデューサーと監督のリクエストを受けて、上下黒ベースの重厚感があるデザインとなっている。衣裳担当の湯﨑氏は、「髪型とメイクは自由という学校の設定は最初から決まっていました。そのなかでいかに規律正しい進学校の制服にするか、社会人になる一歩手前の18歳が着る服としてふさわしいものは何かを考え、落ち着いた制服デザインにしました。生徒たちの自立や品の良さを表現し、スタイリングも着崩しすぎないようにしています」とデザインの基盤を語る。
劇中に登場するブレザー、スカート、スラックスはすべて完全オリジナル。さらにニットに関しては、ベスト、カーディガン、長袖の3パターンがあり、「3パターンが揃うものを用意するのに苦労しましたが、ラインの細さまでこだわって準備しました」。さらに、監督からのリクエストで、これまで一度も学園ドラマで使用されたことのないようなデザインのネクタイを採用するために、メーカーへの問い合わせを重ねたという。「せっかく作品のためにデザインするなら、リクエストには全部応えたくて」と、作品と向き合う熱意が垣間見えた。
制服デザインの変遷――令和の多様性を物語に落とし込む
制服の着こなし方も生徒の個性が出る部分だ。「全体のバランスを考慮して、ある程度の基本の着こなしは決めているのですが、生徒キャストそれぞれがキャラクターを表現するためにたくさん考えて撮影に臨んでいるので、ボタンの締め方や袖のまくり方、スカートの長さなどの細かい部分は、皆さんにお任せしています」と、湯﨑氏はキャスト陣に信頼を寄せる。クランクインの日には「自分の役柄としては、どう着こなすと思う?」と1人ひとりに問いかけたといい、それが個性の表現につながっているようだ。
制服の着こなしは時代によって変わるものでもある。平成では短いスカートにルーズソックスを合わせたり、腰パンにしたり、パーカーにブレザーを羽織ったりと、制服の着崩しが流行した。一方で令和の制服は、男女兼用のブレザーなどが登場したり暑さ対策を講じたりと、性別を問わないデザインや着こなしが普及。そんな令和ならではのポイントも劇中で採り入れられている。「平成と令和で違うのはジェンダーレスの制服が増えたこと。女子の制服でもパンツスタイルが出てくるようになりました。スカートの丈も、以前は短いスカート一択の流行でしたが、今はそれぞれ好きな服装ジャンルに合わせて敢えて長めにしてみたりと、着こなし方にも多様性が感じられます。それをどう作品に落とし込むかも考え、男女ともにネクタイスタイルで揃えました」と、令和の学園ドラマを描くうえで欠かせないポイントについて言及した。
身につけるものを“きれいにしない”…持道具がこだわるリアルな学生グッズ
制服には生徒全員が同じ制服を着ることで、仲間意識や一体感が生まれ結束力が高まるほか、生徒間の経済的・社会的な差を目立たなくする効果がある。だが、ドラマの演出においては一体感を持たせながらも、29人の個性を際立たせなければならない。そこで持道具・波多野氏の腕が鳴る。生徒たちが持つアイテムがキャラクターを際立たせる要素になっているのだ。
例えばスクールカバンには、生徒の趣味や部活に合わせて多種多様なキーホルダーが装飾されている。波多野氏曰く、なるべくリアルに見せるべく実際のミュージシャンやグループなどのグッズを使用しているという。「普段のドラマ制作ではあまり使用しないのですが、1つひとつ許諾を取っています。キーホルダーを目立たせるために、カバンはどこでも買うことができるシンプルな物を選びました」と、自身の制作経験を振り返りながらこだわりを明かしてくれた。
さらに、波多野氏は続ける。「通常ドラマの撮影では俳優さんに負担がかからないようにカバンの中身はあんこ(形を整えるもの)を入れて膨らませつつも軽くしているのですが、本作では監督の意向で教科書が入っているリアルな重さを再現。なので、生徒たちからは『重いです!(笑)』と言われることもあります」と、学生時代を想起させる裏話も。荷物の重さが芝居の動きに直結し、よりリアルな高校生を描くことができるのだ。
身につけるものを “きれいにしない”というのも波多野氏のこだわり。生徒たちは3年生という設定のため、身につけているものは本来であれば3年ほど使用したもののはず。「そういった使用感を出すためにキーホルダーに汚しの加工をしたり、皆さんが履いている靴も何回かわざとかかとを踏んでもらったり。通常ドラマでは1日の撮影が終わったあとに靴をきれいに磨くようにしているのですが、今回はそれも控えめにしています」と、生徒たちにとって愛着のあるアイテムを作り出す技が飛び出した。
目立たせるも控えめにするもヘアメイク次第――物語の展開に合わせた計算とは
キャラクター作りにおいて忘れてはいけないのはヘアメイクの存在。メイクや髪型が生徒たちの個性を表すのは言うまでもないだろう。本作でヘアメイクを担当する久野氏は、「性格や趣味、席順や友人関係などを踏まえて29人分のイメージを提案しました。プロデューサーと監督とともに座席順に1人ずつ、全体のバランスを見ながら前髪の短さや髪色、他の生徒との被りがないかをチェックしていきました。それも誰か1人が浮いてしまうことのないように。さらに進学校という設定上、派手になりすぎないように調整しています」と振り返る。これまでの学園ドラマと異なるのは、キャラクター作りを目的としたキャッチーな髪型を避けていること。SNSなどでリアルな高校生のヘアスタイルを参考にしつつビジュアルを作り上げている。
久野氏率いるヘアメイクチームは、撮影のたびに生徒29人のビジュアルがぶれないように仕上げていくが、イメージが固まるまでは苦悩の連続だったという。「今はすべての設定が決まって落ち着いていますが、台本だけをヒントに29人分のイメージを作るのは実はとても果てしない作業でした。そのキャラクターがどんな人なのか、どんな生徒と仲が良いのかも実際のお芝居を見ないとわからない部分も多くて…。まるで自分の想像との答え合わせのようでした」と、苦労を明かしてくれた。
映像に大きく映ることもある俳優の顔はメイクによってその印象が大きく左右され、目立たせるも控えめにするも、ヘアメイクの工夫次第。久野氏によると、そういったビジュアルの作り込みは物語の展開に合わせてすべて計算されているのだという。「台本が最後まであるということもあり、今後の展開も含めて、どのキャラクターをどこまで目立たせるかというのを、監督と相談しながら決めています。作品にもよりますが、序盤ではあまり目立たなかった人が後半で…という可能性ももしかしたらあるかもしれませんね」と驚きのビジュアル作りの裏側を教えてくれた。
学園ドラマの制作における衣裳、持道具、ヘアメイクの細部へのこだわりは、登場人物の個性を引き出し、それぞれが調和を取り合うことで物語全体をリアルに際立たせる。本作でも29人の生徒それぞれが持つ多様な魅力を、視覚的に表現するプロフェッショナルたち。舞台裏での緻密な工夫と情熱によって魅力的な世界観が築かれ、作品に奥行きと説得力を与えている。
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