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実写版『モアナ』は何を新しくしたのか 巨大な歌うカニを支えた“現実感”

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2026-08-13 08:30
実写版『モアナ』は何を新しくしたのか 巨大な歌うカニを支えた“現実感”
『モアナと伝説の海』(公開中)(C)2026 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
 ディズニー・アニメーション『モアナと伝説の海』の公開から約10年。その物語を生身の俳優によって描き直した実写版が、日本でも公開中だ。オリジナルへの愛着が根強い中、実写化によって何を新しく描こうとしたのか。

【動画】巨大なカニが歌う「シャイニー」(Performed by ROLLY)本編映像

 監督を務めたのは、『ハミルトン』など数々の舞台作品を手がけ、トニー賞に輝いたトーマス・ケイル。オンラインインタビューに応じたケイル監督は、ポリネシア文化にルーツを持つ俳優たちが演じる意味や、この10年間で成長した観客との「再会」、物語を確かな“現実”の上に立ち上げた舞台裏を明かした。

■「10年前に7歳だった人は、今では17歳」

 アニメーション版の公開から約10年というタイミングで、なぜ実写化するのか。その意義を改めて聞くと、ケイル監督は次のように答えた。

 「実写化には、いくつかの意義があったと思います。まず、ポリネシア文化を物語の中心に据え、ディズニーというスタジオとプラットフォームを通じて、世界中へ届けられることです。この文化が世界規模で表現される作品に参加できたことを、とても光栄に思っています。

 10年前にアニメーション版を観た当時7歳だった人は、今では17歳です。15歳だった人は25歳になり、人生のまったく異なる段階にいます。10年前に観た人も、5年前に観た人も、あるいは昨年初めて観た人もいるでしょう。実写版を通じて、そうした人たちともう一度出会い、それぞれの今の人生に何かをもたらす作品を作れたらと考えました」

■幻想を信じてもらうため、まず現実を作る

 ケイル監督が実写化にあたって重視したのは、幻想を信じてもらうため、まず現実を作ることだった。モアナたちが暮らすモトゥヌイ島の村を実際に作り、物語を確かな現実の上に立ち上げることにもこだわった。

 ケイル監督は「映画の冒頭で、この物理的な空間には整合性と真実味があると、観客に感じてもらいたかった」と語る。大規模な村のセットを建設した理由については、「何よりも、この映画が現実に根ざしたものであることを最初に示すことで、物語が進み、巨大な歌うカニが登場するような幻想的な場面になっても、観客は“現実感”の上にいてくれると思ったからです」と説明している。

 制作の初期段階から学者や専門家による文化監修チームを結成し、徹底したリサーチを実施。アニメーション版の世界観を尊重しながら、調査で得られた知見をデザインに反映した。

 約10エーカー(約4万平方メートル)に及ぶ敷地には、5棟の巨大なファレ(小屋)を建設。周囲には250本以上のココナツヤシなどの熱帯植物が植えられ、それらに水を供給するための大規模な給水設備まで整えられた。

 建設には、ハワイやニュージーランド、タヒチなどの熱帯地域から調達した素材を使用する一方、釘や現代的な建築用具は一切使用しなかったという。ココナツの繊維から作られた素材で部材を固定、補強。画面に映る村の姿だけでなく、その建て方にも、描こうとする文化への敬意を込めた。

 こうして作り上げた村を舞台に、約200人の俳優が撮影に参加した。

 「生身の俳優が演じる実写作品だからこそ、感情をより強く響かせることができると思っています。ポリネシア文化を物語の中心に据え、そのルーツを持つ人々が演じることにも大きな意味があります。チーム全体でポリネシアのコミュニティーを誠実に表現しました。その一員になれたことを、とても光栄に思っていますし、心からうれしく感じています」

■映画初出演の17歳を抜てき「最初からパワフルだった」

 モアナ役に抜てきされたのは、本作が映画初出演となるキャサリン・ラガアイア。スクリーンではモアナそのものと思わせる存在感を放っている。彼女を選んだ決め手と、撮影を通して感じた成長を尋ねた。

 ケイル監督は「キャサリンと初めて会ったとき、彼女は16歳で、撮影時には17歳になっていました。最初のオーディションで送ってくれたのは、『How Far I’ll Go』を歌う映像でした。それを観て、彼女の物語を伝える力にすぐ引き込まれました。まだ経験したことのない場所や人生へ踏み出したいというモアナの憧れを、彼女がはっきりと感じ取っていることが伝わってきたんです」と振り返る。

 「その後のオーディションでも、キャサリンは好奇心や共感力、遊び心、強い意志、そして力強さを持って臨んでいました。次に何を学べるのかを常に楽しみにし、もっと多くのことを知りたいという尽きることのない意欲もありました。

 彼女は当時まだ高校生で、映画に出演した経験もありませんでした。今回の挑戦は、彼女にとって非常に大きな飛躍だったと思います。しかし、撮影初日から、強い決意と細やかな心遣いを持って役へ向き合っていることが分かりました。

 僕の仕事は、彼女が安心して力を発揮できる環境を整えることでした。歌やダンス、泳ぎ、水上での撮影に加え、強い日差しの下で演じたり、ドウェイン・ジョンソンと共演したり、ブルースクリーンを相手に芝居をしたりしなければなりません。年齢や経験に関係なく、どの俳優にとっても難しいことばかりです。それが初めての映画となれば、なおさらです。

 もちろん、撮影を通じて彼女が成長していく姿も見ました。ただ、彼女は最初からとても強く、パワフルな存在でした。監督である僕の役割は、その魅力をしっかりカメラに収めることだったと思います」

■村人にも“声”を与えた実写版

 物語の大筋はアニメーション版を踏襲している。では、同じ物語を実写ならではの表現へと変えるため、どのような工夫を施したのか。ケイル監督が例に挙げたのは、村の評議会と、航海を終えたモアナが故郷へ帰ってくる二つの場面だった。

 「村が抱える問題について話し合う評議会の場面があります。アニメーション版では、モアナと、村長である父親が水辺で話していました。実写版では、それを評議会の場に移し、村人たちにも声を与えました。コミュニティーの存在と、そこからモアナたちが受けるプレッシャーを、より強く感じてもらうためです。

 もう一つ、僕がよく思い返すのは終盤の場面です。航海から帰ったモアナが山頂へ行き、積み重なった石の上に貝殻を置きます。これはアニメーション版にはない場面です。

 そこでは音楽や踊りを通じて、モアナが再び仲間たちの中へ戻り、新たな役割を担っていく姿を描きました。旅から帰り、村との関わり方が変化したモアナを、両親がどのように見つめているのかも、カメラを通して表現したかったんです。

 この二つは一例にすぎません。原作の物語と登場人物を信頼しながら、実写版では同じ要素を別の方法で自由に表現していくことを大切にしました」

 本作を観ている間は、まるで南国の島で休暇を過ごしているような気分になる。その心地よい没入感を支えているのは、画面の隅々にまで積み上げられた“現実”だった。

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