エンタメ
2026-09-29 12:40
『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』を刊行して以降、一躍注目を集めた文芸評論家・三宅香帆氏。そんな三宅氏が、新たに切り込んだのが“夫婦”だ。新書『「夫婦」不在社会』(講談社)を出版した三宅氏に、同書に込めた思いなどを迫った。
【写真】書籍を手に…笑顔を浮かべる三宅香帆氏
■村上春樹作品の「新しい読み方がわかって、面白かった」との感想も
忙しい現代、「仕事」と「家庭」を両立するにはどうすればいい?昭和から令和にかけてヒットした小説、ドラマ、映画を分析して見えてきたのは、ディスコミュニケーションにあえぐ「夫婦」の姿だった。三宅氏が「物語」を通して「家族の形」に切り込む。これからのパートナーシップのあり方を見直すための夫婦論となっている。
執筆のきっかけについて「連載を開始する頃、とくに(小説、ドラマ、映画などの中で)母子の関係というテーマが流行っていたのですが、一方で夫婦の話は少ないのかも、と気になっていました。『娘が母を殺すには?』という本を書いた時、夫婦の話を今度は書きたいなと思ったのですが、なかなか(夫婦の話を題材にした)物語が少ない。ではむしろそこから始められないかなと決めて、書き始めました」と回顧。実際に執筆にあたって「現代の話を見つけるのが難しい」との壁にぶち当たりながらも、村上春樹作品から取り出すという形で、新たな“読み方”も提示することになり「村上作品の新しい読み方がわかって、面白かったという感想をいただくことも多いです」と声を弾ませた。
タイトルこそ「夫婦」がつけられているが、本書の中では“さまざまなパートナーの形”があることを何度も指摘している。その点について向けてみると、三宅氏は言葉に力を込める。「大前提として、自分自身は、結婚することがいいことだとか、家族を作ることがいいことだっていう思想はあんまりないです。ひとりで生きたいと思う人は、そのように生きられる社会の方がいいですし、夫婦が解消可能なこともハッピーなことだなと思っています。ただ、なぜ現代日本の物語の中で親子よりも夫婦を扱った作品が少ないのか…ということを言いたくて。そこで注意をしないといけないことは、縦(親子)より横(夫婦)が軽視されやすいという話と、そもそも誰もが横(夫婦関係)を結ぶべきなのかというのは別問題なので、夫婦を推奨するわけでもないですよ…ということがどうしたら伝わるのかは、すごく考えました」。
時代とともに“読まれ方”も変化している中で、著者として難しさを感じることもある。「どうすればいいのかという“How”のところに注目されやすいので、その辺りは難しさも感じます。『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』でも、『じゃあ、どうすれば本が読めるようになるのか?』という部分だけを切り取っていただいてもいいのですが、そこだけが自分の伝えたいことではなかったりして。今回も夫婦の関係をどうしたらいいのかというところだけが、自分の伝えたいところではないので、その辺の“How”のところだけを求められるところは、どのようにして伝えていけばいいのか、本を出す度に考えています」。
そんな中、同書を通して伝えたいことを向けてみた。「物語を読むこと自体、現実の人間関係考える上ですごく有効なものではあると思っているんです。小説を読んでも、何かのデータが示されてるわけでもないですし、個人的な話が書いてあるだけなのですが、やっぱり物語を通して追体験できたりとか、自分にはなかった価値観や発想に気づけるものだと思うので、人間関係に悩んだ時に“How”があるわけではないのですが、小説を読んで癒されるということは、すごくあることではないかなと感じているので、物語を久しぶりに読もうかなって思ってもらうきっかけになれたらいいなと思います」。
SNSでも“批評”“評論”があふれている中、文芸評論家という職業を続ける意義について、三宅氏自身はどのように考えているのだろう。「私自身、何か問いを持つということはすごく大事なことだと思っています。その上で、SNSの批評が批評だと思われすぎると、やはりつらいところがあるなと。自分自身が読んできた批評の書籍って、すごく説得力があったというか、自分自身がその問いを持つこと自体に説得力があるみたいなところが面白かったんです。短いSNSでの言葉では、説得されないものがほとんどですし、元々自分が共感するものがそこにある…ということはあれど、意見や見方が変わるみたいなことはすごく少ない気が、自分の場合はしています。そういう意味では(書籍を通して)物語の見方が変わるとか、社会の見方が変わるものを書けたらいいなという気持ちです」。
「読書」を通して、自身の見方が変わる経験をするきっかけのひとつとなるのは、夏休みの宿題「読書感想文」も当てはまるだろう。時期的には夏休みが終わってしまったが、来年以降に向けて、三宅氏が考える「読書感想文の取り組み方」についても迫ってみた。「読書感想文は、自分の体験なども含めて書くことが求められることが多いと思うので、題材選びに絞って考えると『自分から遠いものの題材の方が書きやすいよ』ということは、よく伝えていました。ハック的すぎるのですが、自分が知っている題材だと、逆に何書いていいかわかんなかったりすることがあると思うんです。だから、自分があんまりよく知らない、例えば宇宙に興味がない子が宇宙の図鑑を読んだりすると、読んでみて興味を持ったことや意外だったこと、自分が知らなかったこととか、感想文として書きやすいと思います」。
“文体フェチ”としても知られる三宅氏だが、2025年10月と26年5月にはニッポン放送『三宅香帆のオールナイトニッポン0(ZERO)』も担当するなど、“語り”にも注目が集まっている。当の本人は「本当に反省しかなくて、改善点が100個ぐらいあるみたいな感じなので、しゃべりが上手い人はすごいって本当に尊敬します。でも、深夜ラジオすごく楽しかったので、できればまたやってみたいです。メール込みの作品という感じが、好きなラジオを聴いていると思うので、それのノリは、やっぱり面白かったです」と恐縮する。しゃべりにも文体があるという話にも派生した。「しゃべりの文体がある人はすごくいいなと思います。佐久間宣行さんとか、あのしゃべり文体みたいなのは聴いちゃうなと思いますし、ひとりしゃべりだとあのちゃんさんも“文体”だなと。なんか聴き入っちゃうみたいな感じの文体使いだなと。あとは、佐倉綾音さんもやっぱりしゃべりがすごいですよね。『佐倉論理』(佐倉綾音 論理×ロンリー)は、聴いていると、こういうタイプのラジオスターもいるんだと思います」。
最後に今後の自身の目標を向けてみると、シンプルだが力強い言葉が返ってきた。「本を読んで書けたらいいなというのが一番ですね。今後も出版界が楽しい場所であるといいなと思っていますし、本を読んで書ける世の中だといいなと感じています」。
【三宅香帆】
1994年高知県生まれ。文芸評論家。京都市立芸術大学非常勤講師。京都大学大学院人間・環境学研究科博士前期課程修了(専門は萬葉集)。2017年、大学院時代に『人生を狂わす名著50』を刊行しデビュー。2024年、『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』で「書店員が選ぶノンフィクション大賞 2024」大賞を、翌年には「新書大賞 2025」大賞を受賞。他の著書に、『娘が母を殺すには?』『「好き」を言語化する技術 推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない』『「話が面白い人」は何をどう読んでいるのか』『考察する若者たち』『文体のひみつ なぜあの人の文章はつい読んでしまうのか?』『ニュー日本文学史』などがある。
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執筆のきっかけについて「連載を開始する頃、とくに(小説、ドラマ、映画などの中で)母子の関係というテーマが流行っていたのですが、一方で夫婦の話は少ないのかも、と気になっていました。『娘が母を殺すには?』という本を書いた時、夫婦の話を今度は書きたいなと思ったのですが、なかなか(夫婦の話を題材にした)物語が少ない。ではむしろそこから始められないかなと決めて、書き始めました」と回顧。実際に執筆にあたって「現代の話を見つけるのが難しい」との壁にぶち当たりながらも、村上春樹作品から取り出すという形で、新たな“読み方”も提示することになり「村上作品の新しい読み方がわかって、面白かったという感想をいただくことも多いです」と声を弾ませた。
タイトルこそ「夫婦」がつけられているが、本書の中では“さまざまなパートナーの形”があることを何度も指摘している。その点について向けてみると、三宅氏は言葉に力を込める。「大前提として、自分自身は、結婚することがいいことだとか、家族を作ることがいいことだっていう思想はあんまりないです。ひとりで生きたいと思う人は、そのように生きられる社会の方がいいですし、夫婦が解消可能なこともハッピーなことだなと思っています。ただ、なぜ現代日本の物語の中で親子よりも夫婦を扱った作品が少ないのか…ということを言いたくて。そこで注意をしないといけないことは、縦(親子)より横(夫婦)が軽視されやすいという話と、そもそも誰もが横(夫婦関係)を結ぶべきなのかというのは別問題なので、夫婦を推奨するわけでもないですよ…ということがどうしたら伝わるのかは、すごく考えました」。
時代とともに“読まれ方”も変化している中で、著者として難しさを感じることもある。「どうすればいいのかという“How”のところに注目されやすいので、その辺りは難しさも感じます。『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』でも、『じゃあ、どうすれば本が読めるようになるのか?』という部分だけを切り取っていただいてもいいのですが、そこだけが自分の伝えたいことではなかったりして。今回も夫婦の関係をどうしたらいいのかというところだけが、自分の伝えたいところではないので、その辺の“How”のところだけを求められるところは、どのようにして伝えていけばいいのか、本を出す度に考えています」。
そんな中、同書を通して伝えたいことを向けてみた。「物語を読むこと自体、現実の人間関係考える上ですごく有効なものではあると思っているんです。小説を読んでも、何かのデータが示されてるわけでもないですし、個人的な話が書いてあるだけなのですが、やっぱり物語を通して追体験できたりとか、自分にはなかった価値観や発想に気づけるものだと思うので、人間関係に悩んだ時に“How”があるわけではないのですが、小説を読んで癒されるということは、すごくあることではないかなと感じているので、物語を久しぶりに読もうかなって思ってもらうきっかけになれたらいいなと思います」。
SNSでも“批評”“評論”があふれている中、文芸評論家という職業を続ける意義について、三宅氏自身はどのように考えているのだろう。「私自身、何か問いを持つということはすごく大事なことだと思っています。その上で、SNSの批評が批評だと思われすぎると、やはりつらいところがあるなと。自分自身が読んできた批評の書籍って、すごく説得力があったというか、自分自身がその問いを持つこと自体に説得力があるみたいなところが面白かったんです。短いSNSでの言葉では、説得されないものがほとんどですし、元々自分が共感するものがそこにある…ということはあれど、意見や見方が変わるみたいなことはすごく少ない気が、自分の場合はしています。そういう意味では(書籍を通して)物語の見方が変わるとか、社会の見方が変わるものを書けたらいいなという気持ちです」。
「読書」を通して、自身の見方が変わる経験をするきっかけのひとつとなるのは、夏休みの宿題「読書感想文」も当てはまるだろう。時期的には夏休みが終わってしまったが、来年以降に向けて、三宅氏が考える「読書感想文の取り組み方」についても迫ってみた。「読書感想文は、自分の体験なども含めて書くことが求められることが多いと思うので、題材選びに絞って考えると『自分から遠いものの題材の方が書きやすいよ』ということは、よく伝えていました。ハック的すぎるのですが、自分が知っている題材だと、逆に何書いていいかわかんなかったりすることがあると思うんです。だから、自分があんまりよく知らない、例えば宇宙に興味がない子が宇宙の図鑑を読んだりすると、読んでみて興味を持ったことや意外だったこと、自分が知らなかったこととか、感想文として書きやすいと思います」。
“文体フェチ”としても知られる三宅氏だが、2025年10月と26年5月にはニッポン放送『三宅香帆のオールナイトニッポン0(ZERO)』も担当するなど、“語り”にも注目が集まっている。当の本人は「本当に反省しかなくて、改善点が100個ぐらいあるみたいな感じなので、しゃべりが上手い人はすごいって本当に尊敬します。でも、深夜ラジオすごく楽しかったので、できればまたやってみたいです。メール込みの作品という感じが、好きなラジオを聴いていると思うので、それのノリは、やっぱり面白かったです」と恐縮する。しゃべりにも文体があるという話にも派生した。「しゃべりの文体がある人はすごくいいなと思います。佐久間宣行さんとか、あのしゃべり文体みたいなのは聴いちゃうなと思いますし、ひとりしゃべりだとあのちゃんさんも“文体”だなと。なんか聴き入っちゃうみたいな感じの文体使いだなと。あとは、佐倉綾音さんもやっぱりしゃべりがすごいですよね。『佐倉論理』(佐倉綾音 論理×ロンリー)は、聴いていると、こういうタイプのラジオスターもいるんだと思います」。
最後に今後の自身の目標を向けてみると、シンプルだが力強い言葉が返ってきた。「本を読んで書けたらいいなというのが一番ですね。今後も出版界が楽しい場所であるといいなと思っていますし、本を読んで書ける世の中だといいなと感じています」。
【三宅香帆】
1994年高知県生まれ。文芸評論家。京都市立芸術大学非常勤講師。京都大学大学院人間・環境学研究科博士前期課程修了(専門は萬葉集)。2017年、大学院時代に『人生を狂わす名著50』を刊行しデビュー。2024年、『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』で「書店員が選ぶノンフィクション大賞 2024」大賞を、翌年には「新書大賞 2025」大賞を受賞。他の著書に、『娘が母を殺すには?』『「好き」を言語化する技術 推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない』『「話が面白い人」は何をどう読んでいるのか』『考察する若者たち』『文体のひみつ なぜあの人の文章はつい読んでしまうのか?』『ニュー日本文学史』などがある。
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