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メイ・シモネスの音楽はなぜ心を掴むのか 日米のルーツと自由な感性が生む唯一無二のサウンド【コラム】

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2026-10-15 19:05
メイ・シモネスの音楽はなぜ心を掴むのか 日米のルーツと自由な感性が生む唯一無二のサウンド【コラム】
メイ・シモネス Photo:Saeka Shimada
■日米のルーツと多彩な音楽体験が育んだ独自の音楽性

 英語で歌っていたかと思うと、いつの間にか日本語に切り替わっていて、さっきは新宿の公園にいたかと思えば、次の瞬間ニューヨークの地下鉄に乗っている。日本語のチョイスもフレージングも独特だ。そして柔らかな歌声にぴたりと寄り添うギターは、ボサノヴァの軽快なリズムを刻んだり、ロックンロールな歪んだ音をかき鳴らしたりとクルクルと表情を変え、背後で奏でられているのは流麗なストリングス。どの曲も複雑な変拍子に彩られている。先頃シングル「Howl」でメジャーデビューを果たしたメイ・シモネスが、そんなノスタルジックにして斬新なユニーク極まりない音楽を生み出している理由は、彼女の歩みを振り返ると徐々に浮き彫りになる。

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 たとえばメイは、日本人の母と米国人の父の間に、ミシガン州アナーバーで生まれた日系米国人。幼い頃から日本語や日本の文化に触れて育ったバイリンガルとあって、言語を混ぜた歌詞は自分の生い立ちの自然な延長にある。「私は音楽そのものが誰でも分かる言語だと思っているけれど、色んな文化や言語に触れたほうが人ってオープンマインドになれるし、英語と日本語の歌詞を両方とも入れることでほかのアーティストとはちょっと違うことができるというのもとても大事だと思っています」と彼女は言う。

 また多様な音楽に親しめる環境に身を置き、最初はピアノ、のちにギターを弾き始めて曲を作るようになったメイは、高校が提供するプログラムを通じてジャズとボサノヴァにハマり、名門のバークリー音楽大学に進学。ギターとジャズに特化した教育を受け、卒業後はニューヨークを拠点にシンガー・ソングライター兼ギタリストとして活動を本格化させた。「ニューヨークって、何かを頑張ろうって思って来る人が多くて、“これをやりたい”という気持ちでいるし、そこからインスピレーションを受けていると思います」。そして日本人向けの幼稚園で働きながらの下積みを経て、ジャズとボサノヴァ以外にもマス・ロックやグランジやJ-POPの要素も引用した独自の表現を形作り、着々と知名度と評価を高めていく。中でも日本では、今年初めに行った全国6都市の単独ツアーをほぼ全公演ソールドアウトにした。「日本でバンドと一緒にツアーできることは夢みたいなこと。日本のファンはすごく集中して静かに聞いてくれて、好きなものに対するサポートの気持ちがすごく強いって感じます。それに、ほとんどの人は英語の歌詞しか分からないアメリカやヨーロッパと違って日本語が伝わるから、曲の違う一面を分かってもらえるというのもうれしいですね」。

■名門ヴァーヴへの移籍と新作『Howl』に込めた思い

 昨年5月に、ブルックリン発のインディ・レーベル(バヨネット・レコーズ)から送り出した1stアルバム『Animaru』で称賛を浴びたメイは、ここにきて新たにヴァーヴと契約。ヴァーヴと言えば、彼女が愛してやまないウェス・モンゴメリーやジョアン・ジルベルトらレジェンドたちの作品で知られる歴史あるレーベルだが、最近ではメイも共演しているリアナ・フローレスら多様なカルチャーやジャンルを包含する若手も所属しており、理想的な“家”に巡り合ったと言えるだろう。「ジャズばかり聞いている私にとって、ヴァーヴと契約できるのはすごくうれしいことですね。一番好きなアルバムも結構ヴァーヴのアルバムが多いし。それに移籍したことで以前よりいいスタジオでレコーディングできるといった変化もあります(笑)。ただ、音楽を作るプロセスなどはこれまでと変わっていません」。

 そう、来年1月15日にリリースが控える移籍第1弾アルバム『Howl』での彼女は、いつものようにギターを弾きながら曲を書き、バークリーで出会って以来ずっと一緒にプレイしている辣腕揃いの仲間たちとアレンジを練って、レコーディングを敢行。自身の歌とギター、ドラムス/パーカッション、ベース、バイオリン、ビオラという風変わりな編成だが「彼らと音楽を作るのが一番だと思っていて、それで自分のサウンドができているんです。ほかにも素敵な楽器があるけれど、同じ人で作っているから私の曲だと分かるんですよね」とメイは話す。昨年7月4日の独立記念日に書き始めたというボサノヴァ・スタイルの「Howl」でも、ギターとストリングスがあうんの呼吸で戯れ合っており、自分のアーティストとしての心構えを投影した彼女のテーマソングのような名曲が生まれている。「独立記念日はみんなパーティーに行ったり、花火に行ったりする日なんですが、なぜか私は予定がなくて(笑)。独りで自分の部屋でギターを練習していました。でも寂しくないなって思ったんです。“なぜ寂しくないのかな?”と考えてみたら、“ああ、ギターが弾けるからだ”と気付きました。友達がいなくても予定がなくても、いつも音楽があるから大丈夫なんだって」。

 最終的に“howl”という単語をアルバムタイトルに選ぶに至った理由も、なかなか興味深い。「“howl”は犬の遠吠えを指す言葉で、犬は自分が吠えたいときに動物的本能で吠えるものですよね。音楽も同じように、自然に私の中から出てくるものだという意識があります。そして犬は吠えることでほかの犬とコミュニケーションを取って、仲間の居場所を知ることができますよね。つまり、自分が作りたいと思って作っている音楽を通じて色んな人とつながれるようになるんです」。

 そんなメイの遠吠えが全編に響きわたっているアルバム『Howl』は、果たして2027年最初の名盤になるのか。全貌が明かされるまで楽しみに待ちたい。

(文・新谷洋子)

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