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サークル出身&官僚志望から世界7位「高速ピッチ」な急成長と小林香菜の「マラソンIQ」を高めた名将が描く戦略

スポーツ
2025-11-22 06:00

気温30度を超える中行われた9月の東京世界陸上。見ている人の度肝を抜いたのが女子マラソンで7位入賞を果たした小林香菜(24、大塚製薬)だ。序盤はレースを積極的に引っ張り、後退しても7位まで順位を上げた懸命な走りを見せた小林。早稲田大学法学部、「ホノルルマラソン完走会」というサークル出身という経歴に加え、総務省を目指していたという過去も話題になった。


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異例の肩書きに加え、初めての夢舞台で日本勢3大会ぶりの入賞。同時にそれは小林にとっても新たなスタートとなった。中継の解説を務めたシドニーオリンピック™女子マラソン金メダリストの高橋尚子さんも「過酷なマラソンは終わるんです。終わるんですけど彼女のマラソンのスタートはここから始まりそうですね。これからの成長を楽しみにしたい選手」と述べた。それから約2か月後の11月5日。高橋さんは、今月23日号砲のクイーンズ駅伝へ向け練習を行う小林を取材に、練習拠点の徳島県鳴門市を訪れた。大塚製薬陸上部に入部してから1年半で小林を「世界レベル」にまで育てた河野匡監督へのインタビューでは、世界陸上で結果を出せた要因と3年後のロサンゼルス五輪へのビジョンが見えた。
 


名将が語る「規格外」な1年半の成長

高橋さん:振り返ってみると大塚製薬に入部してきたのが去年の4月。1年半でこれだけ大きな飛躍をしたのは何が一番の要因ですか?


河野監督:それが分かれば逆に私も次の方向性が見出しやすくなるんだけど、陸上界でもこんな形で飛躍してくる選手って今までいなかったと思うので、そういった意味では、ある意味「規格外」であるということと、彼女がそれまでに専門的なトレーニングをしていなかったっていうことも含めて、結果としてはもう驚きと戸惑いしかないですね。通用するのはマラソンしかないだろうなと思っていたし、MGC(マラソン日本代表選考会)に出られたら官僚を目指していた人間が実業団に入ってきた甲斐があったなという風に思えるだろうと。そこまでは育てたいなとは思っていましたけど、まさかまさかだよね。


高橋さん:じゃあ河野さんの想像の上を行く状態で、ずっと来ている?


河野監督:ですね!もう去年の9月ぐらいからずっと結果としては驚きばかりですね。


【小林香菜 去年の9月以降 各種目自己ベスト】
◆5000m 
15分45秒68 (2024年9月28日 日体大記録会)
◆10000m
32分22秒98(2024年9月21日 全日本実業団陸上)
◆ハーフマラソン
1時間09分09秒(2025年4月27日 岐阜清流マラソン)
◆フルマラソン
2時間21分19秒(2025年1月26日 大阪国際女子マラソン)



「高速ピッチ」の秘密と可能にする練習

フルマラソンでいえば、大塚製薬入部前のタイムは2時間29分48秒(24年1月大阪国際女子マラソン)、入部から8か月後には2時間24分59秒で自己ベストを更新(24年12月防府読売マラソン)。さらに東京世界陸上の切符を勝ち取った翌年1月の大阪国際女子マラソンでは2時間21分19秒で当時日本歴代10位のタイムを叩き出し、前年の同大会から8分以上もタイムを伸ばした。

小林の走りの特徴は、1分間に約220歩以上の歩数で走る「高速ピッチ」。トップ選手の平均180~190歩に比べてもいかに歩数が多いかが分かる(高橋尚子は約209、アテネ五輪女子マラソン金メダリスト・野口みずきは約197)。154cmと小柄な小林にとって、テンポが早く、効率が良い歩幅で走る事で地面からの衝撃も少なくなっている。

高橋さん:彼女の走りからすると、あの高速ピッチっていうのがひとつ後半も持つ大きな武器になっていると思うんですけれど、あの走りを解説していただいてもいいですか。


河野監督:体幹を軸に凄く効率よく上半身と下半身が連動しながら動かせているというのは、要するに体幹がしっかりしているという事と、それを軸に使ってるっていう事で、いわゆる体の膝から下にあまりストレスがかかりにくい走りだと思うんですよね。なので、大きな筋肉をしっかり使って42.195km走れているので、それは彼女の走りの中でも非常に強みになるんじゃないかなと思っています。


高橋さん:確かに蹴ったり、跳ねたりというより、大きな筋肉で足を前に置いていくような走りですよね。ピッチ走法だとチョコチョコ走るので小さいフォームになりがちですけど、可動域は物凄く広いですよね。そういう意味では股関節の開きとか動かし方は非常に理にかなっていると思う。あのフォームを作り出したのは、やはり初動負荷トレーニングが大きいんですか?


河野監督:初動負荷トレーニングは彼女の持っている走りをさらに引き出したものになっていると思うんですね。これから足が長くなるとか、身長が伸びるというのがないので、今後も続けることによって、可動域を維持したまま、今持っている可動域を最大限にしつつ、それを速く動かせるっていうふうになっていけば自ずとピッチが上がってくる。そうすると42.195kmのゴールが早く近づいてくるという流れになるんじゃないですかね。


高橋さん:あの高速ピッチがこれから上を目指す為に、更に速くすることは中々厳しくなるのかなと思った時に歩幅を広げるといったところ?


河野監督:歩幅を広げるというよりも、可動域が広がれば自然と広がると思うんですよね。体幹を更に動かせる余裕はまだあると思うので、それがいわゆるピッチとスライドが連動して動くようになれば、5000mなり、10000mも速くなってくると思うので。それが速くなってくればマラソンもそれに比例して、速くなるんじゃないかなと思っていますけど。

1番成長したのはマラソンを知ったということじゃないですかね。今まで一生懸命やるだけが彼女の持ち味だったのが、トレーニングの中身だったり、何でこのトレーニングをやるかという目的は説明するようにしているんですけど、それを理解して自分のものにしたという「マラソンのIQ」が上がったっていうことが伸びた一番の要素。でもこれからは体のところとか、もっと繊細に動きのところを突き詰めていくという余地が残っているので、そこは楽しみにしたいと思っていますね。


高橋さん:今まで育てた選手の中では、犬伏孝行さん(元男子マラソン日本記録保持者)や伊藤舞さん(15年世界陸上北京大会女子マラソン7位)、日の丸を背負う選手がいっぱいいましたけれど、その中でも小林さんの特別なところは?


河野監督:この1年半でここまで到達するのはすごい。まだ24歳なのでね。ここからピークと言われる28~30歳ぐらいまで、どういう風に成長していくのかなという楽しみ。今私の中で考えているマラソンのトレーニングの本当に集大成になるんだと思うんですけど、私の年齢からすれば。そういったものを彼女と一緒にやっていけることが、私にとってもやりがいがあるかなとは思います。


高橋さん:逆に何も知らなかったから、吸収力がすごく高いとか素直に受けられるというのは他の選手と違う部分を感じたところはありますか?


河野監督:固定概念がなかったのが良かったですよね。やっぱり中学、高校、大学とその経緯を辿ってくると色々な指導者の中で、自分の陸上競技に関する考え方というのが出来上がってくるわけですよね。でもそれが彼女の場合は全くないので、私が話してることも新鮮だったと思うし、あまり疑問に思わず「やってみようか」という感覚になれたと思うので、これは私としても新たな境地というか、指導者としての新たな経験を積ませてもらったなと思っていますね。


高橋さん:この1年半という期間でこれだけ早い伸び率。でもまだまだある意味期間としては1年半だけじゃないですか。今やっていることって河野監督のやらせたい練習のどのくらいですか?


河野監督:ここまでは何もない状態で吸収して成果を出したけど、ここからはサークル出身者じゃなくて「世界陸上7位の選手」になる。それはさらにプレッシャーもあるだろうし、いろんな自分の考え方も出てくると思うので、それと私が考えている事がうまくマッチングできるかどうか。ここは私が彼女の成長、いわゆる成績の成長じゃなくて、マラソンを自分で知ってきた成長とどう付き合えるかだと思いますね。


高橋さん:自己ベストが21分のままでいいという指導者はいないと思うので、これから目指していくところを教えてください。
     
河野監督:日本記録(2時間18分59秒)は破りたいですよね。彼女の走りが日本記録を更新したら多分みんな驚くと思うし、シューズは違えども彼女が高橋尚子より速いとか、野口みずきよりも速かったなんていうと、他の選手たちが「私もできる」って思うんじゃないかなと思うので、彼女に可能性がある限りは、そこを目指していけるように、チャレンジできるような状態でスタートラインにつけるように私もやっていきたいなと思います。


高橋さん:それは本当に楽しみにしています。フォームが独特と言えば独特だと思うんですよ。今お話を聞いているとノビシロがまだたっぷりあるってことでいいですよね?


河野監督:はい。そこがもう私があと何年生きられるか分かんないですけど。


高橋さん:いやいやいや(笑)


河野監督:もうあなたと小出さんの年齢よりも上になって、65歳になったから。あなたがシドニーオリンピックの時は多分まだ60前後(小出義雄監督当時61歳)だったから、そんなことを考えていると結構粘ってやっているなと思っているので(笑)。あと何年続けられるかどうかは私も決められないと思うんですけど、彼女がそういったところで求めて頑張りたいと思ったら、それは私の方でできる限りのサポートはしたいなと思っています。


高橋さん:まだこれからですね!いやあすごい出会いだなと、たくさんの道筋が彼女にあったところで、手繰り寄せるかのように繋がった。ある意味運命的なものを河野さんも感じられているのかなと。


河野監督:そうですね。最初は「本当に来るの?」というところから始まったんですけど、トレーニングを見ていると「面白いな、この子どこまで行くんだろうな」と思って。そしたら、こんなとこまで上がってきたんだ、という。思っている以上のレスポンス、反応があるので、これが指導者にとって「楽しい」としか言いようがないですよね。
 


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