
能登半島の豪雨災害から半年が経過。自宅が流されて亡くなった中学3年生の喜三翼音さんの遺品がほとんど見つからないなか、あるボランティアが自宅近くで、砂に覆われた一組のDVDを見つけました。そこには、翼音さんの姿が記録されていました。
「『じいちゃんばあちゃんの手伝いずっとするからね』と言ってくれていた」翼音さんも一緒に卒業
3月14日、石川県の輪島中学校で行われた卒業式で、担任が1枚の写真を持って入場しました。
去年9月の豪雨で亡くなった喜三翼音さんの写真です。この日、翼音さんを含めた89人が卒業を迎えました。
記者(2024年9月21日)
「道路が川になっています」
半年前、石川県能登を襲った豪雨。濁流が地震の被災地を襲いました。
輪島市久手川町では、中学3年生の喜三翼音さん(14)が自宅で1人でいたところを、家ごと流されました。
翼音さんが友人に最後に送った写真には、土砂が家の間際まで押し寄せている様子が写っていました。
その10日後、福井県沖で「喜三」と書かれた長袖のジャージを身に着けた翼音さんの遺体が見つかりました。
翼音さんの父 喜三鷹也さん
「僕の言うことはあまり聞かなかったが、最後に電話で『長そで長ズボンを着てくれ』と言ったのを守ってくれていたみたい」
家族思いの優しい子だったという翼音さん。
翼音さん(2024年3月)
「このまま入れればいい?」
「ちょうど2000円です」
去年の出張朝市では、祖父母の輪島塗の店を献身的に手伝う姿がありました。
翼音さんの祖父 喜三誠志さん
「『じいちゃんばあちゃんの手伝いずっとするからね』と言ってくれていたんですよ。本当に優しい子でした」
発生直後、海岸で父・鷹也さんが見つけたのは、クッションのようなもの。
翼音さんの父 喜三鷹也さん
「息子に聞いたら、『翼音が最近まで使ってた』と言う枕」
翼音さんの部屋のカーテンなどは見つかりましたが、思い出の品はほとんど見つかりませんでした。
「この川を流れてきたんやな」瓦礫の上にあった遺品のDVD
あれから半年、新たな動きがありました。
滋賀県から能登でボランティアを行う川村美津子さん。
豪雨から1か月後、翼音さんが流された川の付近を車で走っていたときのことでした。
認定NPO法人 つどい 理事長 川村美津子さん(64)
「何かここで車を停めてほしくなって、スーッと河原のほうに写真を撮りに行くつもりだった」
河原の様子を撮影しようと降り立った場所で、瓦礫の上にあった一組のDVDを見つけました。
川村美津子さん
「半分以上、砂に覆われている状況で、ところどころ『河井小学校』『卒業生』というのがちょっとずつ見えていた」
『誰かの思い出の品かもしれない』と思い、DVDを拾ったものの、損傷がひどく、再生はできませんでした。
その後、他のボランティアの力を借りて、2月、一部データの復元に成功。映像には喜三翼音さんの名前もありました。
翼音さんが通っていた小学校の卒業記念DVDでした。そこには、3年前の翼音さんの姿が映っていました。
川村美津子さん
「(“令和3年度6年生”の文字を見て)『翼音さんと同い年だな』と思ったが、土地勘が無く、どこが翼音さんのご自宅か、全く知らないままDVDにここで出会った」
DVDが見つかった場所は、翼音さんの自宅から約300m離れた場所でした。
川村美津子さん
「この川を流れてきたんやな…翼音さんの家はあの辺りですかね。きょうはお花も何も持って来れんかったけど」
そう言って、川村さんは手を合わせました。
川村美津子さん
「遅くなったけど、やっとお家に翼音さんの一部をお返しに来ることができました。あしたご家族にお返ししたいと思います」
「タイトルは『キセキ』」 半年ぶりに家族の元へ
3月16日、川村さんは翼音さんの祖母・悦子さんにDVDを手渡しました。
翼音さんの祖母 喜三悦子さん
「あれだけ大勢の人で探したんですけど見つからなくて。(翼音さんが)見つけてもらいたかったのかしら」
卒業式のDVDは、流された家のリビングに置いてあったものだといいます。半年ぶりに家族の元へ帰りました。
川村美津子さん
「タイトル『キセキ』っていうんですって」
翼音さんの祖母 喜三悦子さん
「本当に奇跡ですよね」
再生してみると…
翼音さんの祖母 喜三悦子さん
「一番前に、これ翼音よね」
メガネをかけ、トランペットを吹く3年前の翼音さんの姿。『輪島の祭りやパレードで演奏がしたい』、トランペットは翼音さんが自ら選んだものでした。
翼音さんの祖母 喜三悦子さん
「『トランペットがいい』と思ったんでしょうね。『バトンとかどう?』って言っていたんですが。こうやって動く動画が見られて嬉しい。練習風景なんてなかなか見られないじゃないですか。ここに居たんですよね」
家族で営む輪島塗の店には、翼音さんが好きだったトランペットの絵柄の箸が並びます。
翼音さんの祖母 喜三悦子さん
「主人の手書きなんです」
家族を失った悲しみは、簡単に癒えることはありません。
それでも、翼音さんとの思い出を胸に、悦子さんは店に立ち続けます。
今も83人が避難を強いられる
上村彩子キャスター:
日常も、家も、豪雨によって突然奪われたので、思い出の品が一つでも見つかってよかった。
能登ではボランティア不足も課題として挙げられていますが、今回はボランティアの方が4か月かけてDVDを見られるような状態にしてくださったそうです。
喜入友浩キャスター:
豪雨災害から半年が経ちましたが、被災地は少しずつ復旧工事は進んでいますが、まだ手付かずのところも多くあるそうです。
【能登半島の豪雨災害】
死者 16人
住宅被害 1790棟
避難所生活 83人
輪島市内では、83人が避難を強いられていて、被害はまだ続いていると言えます。
上村キャスター:
生活の再建にはまだまだ課題が多く残っています。被災者の方にとってはこれからが本当の意味での復興です。支援の手が行き届いてほしいと切に願います。
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