
シリーズ「小屋番 八ヶ岳に生きる」【第2話】
国土の7割を山が占めるという「山国」日本。
全国に350を超える有人の山小屋があると言われている。
【写真を見る】「このままでは八ヶ岳の森が消えてしまう」”鹿に食いつくされる八ヶ岳の森” 山小屋で働く小屋番が抱く危機感「飢えた鹿はトリカブトも食べる」
こうした山小屋を営み、山を住処にし、山を自然を、そして登山者を守る人たち「小屋番」。
このシリーズでは、「コヤガタケ」と呼ばれるほどに山小屋が多い八ヶ岳で生きる小屋番たちの日々に迫る。
八ヶ岳を襲う「鹿の食害」と、山小屋オーナーたちの危機感
標高2,115メートルの白駒の池に向かう片側1車線のメルヘン街道。朝と夕方は鹿の楽園となる。
車を運転していると、カーブを抜ける度に鹿と出くわす。衝突するおそれがあるため、ブレーキに足を置いて細心の注意を払いながら通らないといけない。
「この間もフェンダーがやられたよ」山小屋「麦草ヒュッテ」のオーナー島立正広さんの車と鹿が衝突したのは、これが3度目となる。
鹿の食害が止まらない「八ヶ岳の森が消えてしまう…」
八ヶ岳で鹿の食害が止まらない。
山小屋「麦草ヒュッテ」の近くにある地獄谷と呼ばれる地域を歩くと、美しい苔が一面に広がり、まさに「苔の森」という景色に心が癒される。ただ、ふと目を上にあげると、樹皮がはがれ枯れかけた木が痛々しく林立していることに気付く。
多くの木は、私たちの背の高さぐらいまで、樹皮が剥がされ無くなっている。鹿の仕業だという。
鹿は餌が足りなくなると、餓死を避けるため「樹皮」を非常食として食べることがある。ただこの樹皮は、樹木にとって根から吸い上げる養分と水分を運ぶ大切なライフラインであるため、鹿に樹皮を一周分食べられるとライフラインが上下で寸断されてしまう。
樹皮を鹿にはがされた木々は枯れるしかない。八ヶ岳では今こうした光景が各所に広がっている。
島立さんは、このままでは八ヶ岳の森は消えてしまうと危機感を募らせる。
「鹿は有毒植物のトリカブトまで食べる」
そもそも鹿が樹皮を食べるようになったのには鹿の頭数が増え、餌が不足していることが影響している。
ハンターの減少と高齢化や天敵のニホンオオカミの絶滅、温暖化による積雪量の減少などの影響で増えた鹿が、生息する地域で餌となる下草を食べ尽くしたため、空腹を満たすため本来は食べなかった植物まで食べるようになった。
「しらびそ小屋」のオーナー今井孝明さんは「最近では鹿は有毒植物のトリカブトも食べるし、貴重な高山植物コマクサなども食べてしまう」とため息をつく。
八ヶ岳の豊かな森をどう守るか
「一番の対策は鹿の頭数を減らすこと」信州大学農学部の竹田謙一教授は八ヶ岳ならではの難しさを指摘する。増えすぎた鹿の数を減らすには狩猟が有効だが、ハンターの減少に加え、八ヶ岳のように登山者の多い山域では狩猟を行うのは簡単ではない。そのため、鹿の侵入を防ぐネットや防護柵を張るなど鹿の行動を制限するしかなく、決定的な対応手段がないのが現状だという。
八ヶ岳の豊かな自然を愛し長く守ってきた小屋番たちは、明らかに今自分が見てきた風景が失われてきていると訴える。彼らは、この豊かな森が消えることを憂慮し、その自然を守るため、鹿の食害と闘っている。美しい森の中で鹿とどう向き合っていくのか。
シリーズ「小屋番 八ヶ岳に生きる」
【第1話】「このままでは自分が壊れる」23歳で都会を逃れた青年は、なぜ氷点下20度の八ヶ岳に向かったのか…『自分をリセット』八ヶ岳の山小屋に生きる小屋番たちの思い
【第3話】遭難者の1割が死亡か行方不明「スマホばかり見て自分の実力を知らない」八ヶ岳の山小屋を守る小屋番の痛切な警告
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<プロフィール>
執筆者:永山由紀子
1989年東京放送(現TBSテレビ)入社。情報番組やドラマのディレクター・プロデューサーに従事。
企画・プロデュースしたドキュメンタリー映画
『小屋番 ~八ヶ岳に生きる ~劇場版』は、
1月9日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町ほか~全国で順次公開、上映中
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