
シリーズ「小屋番 八ヶ岳に生きる」【第3話】
国土の7割を山が占めるという「山国」日本。
全国に350を超える有人の山小屋があると言われている。
【写真を見る】遭難者の1割が死亡か行方不明「スマホばかり見て自分の実力を知らない」八ヶ岳の山小屋を守る小屋番の痛切な警告
こうした山小屋を営み、山を住処にし、山を自然を、そして登山者を守る人たち「小屋番」。
コンビニもない、車もない、自然と向きあう小屋番の日常は「過酷」そのものだ。
それでも山に魅せられ小屋番として、その「過酷」な道を選ぶ人たちがいる。
このシリーズでは、「コヤガタケ」と呼ばれるほどに山小屋が多い八ヶ岳で生きる小屋番たちの日々に迫る。
「午後4時半、まだ来ない」小屋番たちが察知した異変
八ヶ岳の山小屋「双子池ヒュッテ」には、その日、午後4時半に2名の登山客が到着する予定だった。
しかし、到着時間を過ぎても登山客が来ない。オーナー米川友基さんはじめ、小屋番たちの動きが忙しくなる。
「おーい」「おーい」小屋番たちが大きな声を出しながら向かいの山を見つめる。小屋番たちの鍛えた腹からの呼びかけが向かいの山に響く。しかし返事は無い。あっという間に日が暮れ暗闇が辺りを包む。山が暮れるのは早い。
到着予定から2時間が経った午後6時半、小屋の電話が鳴った。米川さんは慌てて小屋に入りその電話を取る。予約をしてた登山客からの電話だった。
「大きな岩が見えます、これどこら辺なんでしょう?」
登山客は、北横岳から双子池ヒュッテに降りてくる際に、岩場の多い別のコースに迷い込んでいた。
その後、幸い何とか自力で小屋に辿り着いたが、今回のように遭難に繋がりかねないケースが跡を絶たないという。
年間300人が死亡か行方不明 小屋番たちの苦悩
警察庁によると2024年に山で遭難した人は3,357人、その約1割にあたる300人が命を落としたり行方不明になっている。山での行動を一歩間違えると遭難し、命に関わる事態に直結しかねない。
遭難が起きたとき、小屋番たちは救助要請を待ち、地元の警察からの指示を受けて対応するのが基本的な流れだ。ただ自分の小屋の近くで遭難が起きた場合は、小屋番たちが助けに向かうことも少なくない。険しい山道での救助には危険が伴う。遭難救助に出た小屋番たちが、自らも怪我をすることも多いのが現実だ。
「スマホより山を見てほしい」救助隊長を務める小屋番からの警鐘
「遠い飲み屋」の赤ちょうちんが登山客を待つ青年小屋のオーナー竹内敬一さん(71)は地元の警察署の山岳救助隊の隊長を1990年から70歳を超える現在まで勤めている。
「今の人たちはスマホばかりで地図を見て、山を見てない。自分の実力を知らない」
登山者の遭難事故防止に長年、尽力してきた竹内さんは警鐘を鳴らす。
登山アプリなど便利なものも確かにあるが、自分の足で険しい道を通り、実際に目的地に辿り着けるかどうかは本人でしか分からない。「自然を見て自然を知ってほしい。自然はいつも優しく迎え入れてくれるわけじゃない」竹内さんは山を見つめながら優しく語った。
竹内さんの山小屋では、登山客はお酒を飲み交わしながら、ベテラン小屋番だからこそ知る、山の話に花を咲かせる。登山客にとっては山小屋で聞く話もまた、自分の登山の知見となるのだ。
シリーズ「小屋番 八ヶ岳に生きる」
【第1話】「このままでは自分が壊れる」23歳で都会を逃れた青年は、なぜ氷点下20度の八ヶ岳に向かったのか…『自分をリセット』八ヶ岳の山小屋に生きる小屋番たちの思い
【第2話】「飢えた鹿はトリカブトも食べる」”鹿に食いつくされる八ヶ岳の森” 山小屋で働く小屋番が抱く危機感「このままでは八ヶ岳の森が消えてしまう」
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<プロフィール>
執筆者:永山由紀子
1989年東京放送(現TBSテレビ)入社。情報番組やドラマのディレクター・プロデューサーに従事。
企画・プロデュースしたドキュメンタリー映画
『小屋番 ~八ヶ岳に生きる ~劇場版』は1月9日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町ほか~全国で順次公開、上映中
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