
働いても働いても、貧困から抜け出すことができない非正規雇用の人たちが増え、格差が広がっている。政治は、貧困と格差の解消に正面から向き合ってきたのか。その過酷な実態を取材した。
【写真で見る】「収入ないまま餓死してしまうのか」55歳、就職氷河期世代の老後への不安
働いても生活苦 食料配布に並ぶ“非正規雇用者”が増加
気温が2度を下回った2025年、年の瀬の東京・池袋。
生活困窮者のための食料配布には、ある変化が起きていた。
食料配布を受けた人
「仕事は建築関係の仕事をしていました。お金が無いため炊き出しとかによく行く」
仕事はあっても、食べていけない人が増えているのだ。
年が明けてからも、都庁の前で週に一度行われている食料配布には、過去最高の962人が並んだ。
ーー仕事は今何をしている?
食料配布を受けた人(50代)
「派遣です。15万円ちょっと手取りがあれば良いかな」
食料配布を受けた人(50代)
「厳しいです。めちゃくちゃ厳しい。やっぱり物価高が厳しくて」
増えているのは、非正規雇用の人たちだ。
NPO法人もやい 大西連 理事長
「ギリギリのところで何とかやっていたけれど、収入が足りないとか、物価が上がっていって苦しいという方がすごく多くて。物価高対策をどう実現するのか、すぐさまどのような支援を届けるのか。本当に待ったなしだなと」
働いても生活が苦しい非正規雇用の人は、890万人に上るというデータがある。
「収入ないまま餓死してしまうのか」55歳、就職氷河期世代の老後への不安
福岡県に暮らす55歳の男性。非正規職員として、手取り約14万円で暮らしてきたが、2025年の6月で契約を打ち切られた。
今はパン工場で、日当8000円のアルバイトをして生活をつないでいる。
非正規雇用で働く男性
「お風呂場がほとんど使っていなくて、洗濯物の物干し場になっています」
給湯器の修理代が払えず、風呂は週3回、近くの銭湯で済ます。
冷蔵庫の中は「半額」の値札が貼られたものばかり。
所持金は、あわせて4000円あまり。口座の残高は5889円だ。
非正規雇用で働く男性
「今度のアルバイト料が入るまでは、やりくりしながら生活するしかない」
苦悩の日々は、大学生時代の就職活動から始まった。
非正規雇用で働く男性
「ちょうど就職氷河期世代の平成6年(1994年)。椅子取りゲームの椅子が非常に少なくなったということで、不利益をもろに被ったと実感しました」
1990年代初頭のバブル崩壊を受けて、企業が新卒採用を極端に控えた「就職氷河期」に直面したのだ。
大学院を卒業するまで、計60社の就職試験に落ちた。採用された企業は、パワハラや父の看病が理由で40歳のときに退職。
非正規雇用で働く男性
「ちょっとやるせないところもありますね。採用する側は、過去の職務経験や年齢を一番重視する。それはちょっと、自分の実力では今から変えることも、どうすることもできない」
以来、非正規雇用で仕事を渡り歩いている。この日も、新しい仕事は見つからなかった。
非正規雇用で働く男性
「このまま貧困生活は続くのか。食費を削る生活をいつまで続けなければいけないのかと、ちょっと気が遠くなりましたね」
55歳、独身。迫る老後に不安を抱えている。
非正規雇用で働く男性
「結婚も経済的にも貧しくてできない状態。独身で私のことを世話してくれる家族はいない。収入がないまま餓死してしまうのか。いつの間にか亡くなっていたとか、そういう状態になってしまうのか」
働く人の7人に1人…多くが未婚の「アンダークラス」とは
格差の実態をデータで読み解いている、早稲田大学の橋本健二教授は警鐘を鳴らす。
早稲田大学(社会学) 橋本健二 教授
「非正規雇用者として、非常に不安定で低賃金で働く人々が増加して、その厚みを増してきたのではないか」
教授が指摘するのが、雇用される側の労働者が事実上、二つに分断されているという現実だ。
特に、夫の安定した収入があるパートタイムの女性をのぞく「非正規雇用」の人たちは、いまや890万人(全体の13.9%)に達している。
就業人口の約7人に1人が占めるこの層を、橋本教授は「アンダークラス」と呼ぶ。
早稲田大学(社会学) 橋本健二 教授
「労働者階級は、家族を形成して子どもを産み育てるだけの賃金をもらっていなければいけない。ところが現代の非正規労働者は、そのような賃金をもらっていない。だから非正規雇用労働者の大部分が、実は未婚者。つまり経済的に苦しいので結婚できない、子どもを産み育てることもできない。今までの労働者階級とは根本的に違うという意味で『アンダークラス』と」
橋本教授が調査したところ、アンダークラスの59歳以下の平均年収は216万円で、正規雇用の平均年収486万円の半分に満たなかった。
いくら働いても抜け出すことが難しく、格差が固定化される傾向が強い。
村瀬健介キャスター
「アンダークラスの層のボリュームが大きくなっていくことの社会的なインパクト、どういう問題をはらんでいると考えていますか」
早稲田大学(社会学) 橋本健二 教授
「格差の拡大した社会では、人々の連帯感が失われてしまう。あるいは、人々の間の敵対心が強まる。人々の間の助け合いがなくなり、生活の上で困ったことがあっても誰も助けてくれない。だからさらに困難な状況に追い込まれる。いわば、社会全体が病気になっていく」
貯金を切り崩し生活 ひとり親は“正規雇用”への壁も
毎週水曜、子どもたちに無料で朝ご飯を提供している子ども食堂。
利用する30代の女性は、2歳と6歳の子どもを育てるシングルマザーだ。
30代のシングルマザー
「(Q.こういう場所は?)助かります。果物とか出したいけど、果物はなかなか…バナナぐらいしか」
女性は2025年、正社員の夫と離婚した。それまでは生活に余裕もあったが、離婚後、一気に苦しくなった。
子どもを保育園に預けたあとは、企業から委託を受け、在宅で働いている。
30代のシングルマザー
「子どもが体調を崩しても自宅で仕事ができるので、仕事を途絶えさせないためにも自宅で」
フリーランスとして働き、ひと月の収入は多くても15万円。仕事をもらえなければ、ゼロの月もあるという。
値上がりしている食料品は、フードバンクからの援助に頼っている。
30代のシングルマザー
「お米もすごく助かります。いろんなものを用意できないからこそ、白ご飯はいっぱい、ふりかけとかをかけて食べてほしいと思うので」
元夫からの養育費は少なく、公的な手当も受けているが、収入が安定しないことが一番不安だと話す。
30代のシングルマザー
「正社員の求人も応募はしているが、シングルマザーというのが企業さんにはネックになってて、『(子どもが)体調崩したらどうするんですか?』と面接でも聞かれる。そこで素直に答えるといい結果じゃなかったり」
これまで20社以上応募したが、採用には至らなかった。
今は家賃や生活費を工面するため、貯金を切り崩しながら生活しているという。
ひとり親家庭を支援している民間団体は…
ひとり親支援協会(エスクル) 今井智洋 代表
「子どもが病気等になると、仕事を休まないといけない。今まで正社員で働いていたとしても、休みがちになってしまって、非正規雇用になってしまうという人も中にはいる」
衆院選の投票日が迫るが…
30代のシングルマザー
「どこがいいだろうっていうのは、そこまで。そんな先のことは今考えてられない。まずは身の回りのこと、来月の支払いをどうしようとか、そこばっかり」
スナックや風俗でも… 「子どもが幸せなら」困窮する母親の声
非正規で働く50代の女性が、当時小学生だった自分の子どもからもらった手紙には、働く母親を気遣う言葉が書かれている。
「おかあさんへ お仕事がんばったね」
「お仕事がんばって ありがとう」
女性は、10年以上この手紙を大切に持っている。
非正規で働く女性
「ずっと働いてばかりだったので、ごめんなさいって思います。なんか、悪かったなって思うけど、でも、それでも働かざるを得ない」
夫からのDVをきっかけに30代で離婚。PTSDと鬱病が原因で仕事ができなくなり、正社員で働いていた会社を退職した。
薬を飲みながら働けるようになり、モデルルームの受付など短期の仕事を転々としたが、手取りは月約5万円。
当時小学生だった子どもたちを家に残し、夜にスナックで働くこともあったという。「苦しい生活から子どもたちを救い出せるのは自分だけだ」との思いで休みなく働いた。
非正規で働く女性
「自分が納得できる人生を(子どもたちに)送ってほしかった。選択肢の中に大学があるのであれば大学に行ってほしい。いずれにしてもお金が要る。そのためには貯めておかなければいけないという気持ちが強かった」
子どもたちの将来のために貯蓄をと焦り、風俗店でも働くようになったという。
非正規で働く女性
「私にとっては(子どもたちは)大事な存在だから、子どもたちの人生が幸せであれば、私はもうどうでもいい」
最近、社会福祉関係の資格を取得。手取り月16万円、1年で196万円あまりに増えた。
このうち100万円以上を、大学生になった子どもたちに仕送りしている。
それでも、子どもの成人式など出費がかさむときは、風俗店で働く状況から今も抜け出せていないという。
ーーこの先、どうしたいという考えは?
非正規で働く女性
「ないんですよ。別に自殺をしようとは思ってないですけど、ある程度したら、もうぱたって、死んでしまったらいいのになって思うことがある」
女性が今回の選挙に期待することは…
非正規で働く女性
「政治家には頼っても意味がない。私の中では頼る術は政治ではなかった。NPO団体だったり、医者だったり、両親、身近にいる人たちだった。あまりにも遠すぎる、政治と私が」
“格差は仕方ない”と考える人たちの声が政治に反映か 届かないアンダークラスの声
橋本教授が2022年に行った4万人規模のアンケート調査によると、アンダークラスの人たちの声は政治に届きづらい状況であることがわかった。
早稲田大学(社会学) 橋本健二 教授
「アンダークラスは支持政党のない人が圧倒的に多い。選挙で投票している・いつも投票している比率が一番低い。政治に関わるだけの余裕がないということもあると思う」
一方で、所得の再分配に反対し、「貧富の差は仕方がない」と考える人たちの存在も浮かび上がった。
早稲田大学(社会学) 橋本健二 教授
「これらの人々は比率としては13.2%と非常に少ないが、投票に行っている・いつも投票しているという比率が非常に高い。しかも、自民党支持率が非常に高い」
村瀬健介キャスター
「13.2%は、経済的な階級でどの層にあたるのでしょうか」
早稲田大学(社会学) 橋本健二 教授
「実は非常に所得が高い。他の人々に比べて百数十万円も高くて、大学を卒業した高学歴の比率が非常に高い。格差が拡大してもいいのだという立場の人々、『自己責任論』の立場に立つ人々の声を、過剰に政治に反映させてきたと思う」
パートのまま正社員待遇 大手で始まる“格差への対策”
格差への対策を始めた企業がある。
9万人を超える非正規の従業員が働く小売り大手「イオンリテール」。今、格差への対策を始めている。
イオンリテール 近藤健司 人事総務本部長
「同一労働同一賃金という考え方の中で、私達は同じ仕事をされる方については、同じように賃金をお支払いする。これは基本として試行している」
3年前に導入した人事制度では、一定の経験を積んだ非正規の従業員が昇格試験に合格すれば、正社員になるか、パート勤務のまま正社員並みの待遇が受けられる。
これまでに1300人が受験し、350人が合格した。
その中の一人、酒売り場で働く浅野梨恵さん(46)は、21歳と17歳の子を持つシングルマザーとして家計を支えている。
昇格試験に合格した浅野梨恵さん
「(年収は)試験を受ける前の1.5倍ぐらいにはなっているんじゃないかと思います」
浅野さんはパートタイムのまま、正社員と同じ待遇で、仕入れや在庫管理などの責任ある仕事を担っている。
昇格試験に合格した浅野梨恵さん
「46歳なので、なかなかこの社会においては、正社員はかなり難しい年齢になってきていると思う。40を過ぎて諦めていたけれども、その資格を取れて。ちょうど息子が車を買わなきゃいけない時だったので、車のローンを組ませてもらった。何年か前の自分だと、ローンは組めなかったと思う」
山本恵里伽キャスター
「正社員待遇となると、それだけ人件費がかかると思いますが、コストはどうしているんですか?」
イオンリテール 近藤健司 人事総務本部長
「その方たちが活躍することによって、高いモチベーションで頑張ってくれる。生産性が上がり、それで利益を稼いでもらって吸収する。そこにいる正社員は違うところで活躍できるので、トータルの人件費としては同じになる」
格差で不満と不安広がれば「ポピュリストが躍進」 悪循環を生む可能性
政治は、格差解消に正面から向き合っているだろうか。
社会保障に詳しい慶應義塾大学の駒村康平教授は、問題を先送りし、目先の対応にとどまる政治の危うさを危惧している。
日下部正樹キャスター
「政治が格差に対して手をつけないで放置しておくと、日本社会はどうなるのでしょうか」
慶應義塾大学(社会保障) 駒村康平 教授
「不満と不安が広がっていく。結果的には、その場しのぎの、人気取りの政策を言うような、いわゆるポピュリストが政治の力を握るようなことになってくると、非常に刹那的な政策が行われ、またそれが不満と不安を生み出して、またポピュリストが躍進するという、非常に悪循環に入ると思う」
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