
皇室典範の「改正案」が政府から国会に提出されました。
天皇は「国民の総意」に基づくと憲法で規定されていますが、改正案では「総意」が置き去りとも言える状況に。検証します。
【写真を見る】「皇室典範改正案」にいきなり浮上した“皇位継承権”
政府が皇室典範の改正案提出 柱は2つ
7月3日、横浜市の盲学校を訪ねられた秋篠宮家の次女・佳子さま。佳子さまは、誰もが生きやすい社会を願い、精力的に活動を続けられてきた。
生徒
「佳子さまと会えないの寂しいよ」
佳子さま
「また会いたいですね」
数多くの公務に取り組む皇族。しかし、結婚により皇室を出るなどし、減少が続いている。皇室には31年前に26人いたが、現在は16人。このうち、6人は70歳を超えている。
6月30日、政府は皇族数の確保に向け、皇室典範の改正案を国会に提出した。柱は2つだ。
まず、女性皇族が結婚後も皇族の身分を保つことができるというもの。もう一つは、皇室を離れた「旧宮家」の男系男子を養子として迎えることだ。
その旧宮家の一人、旧久邇宮家の久邇朝宏さん(81)が取材に応じた。旧久邇宮家の三男だ。
「手を挙げる人がいるのかな」 旧宮家男性が語る養子案
山本 恵里伽キャスター
「皇位継承順位18位だったんですね。もしかすると天皇になっていたかも」
旧宮家 久邇朝宏さん(81)
「生まれたときに新聞に載ったんですよ、何番目の王子が生まれましたって。小さな記事なんですけどね」
久邇さんが生まれた翌年、日本は終戦を迎えた。その2年後の1947年10月、3歳だった久邇さんを含む11宮家の51人が皇籍を離脱した。背景には、経済的な理由から皇室にかかる費用を削減する動きなどがあったとされる。
父は旧久邇宮家の3代目当主、久邇宮朝融(あさあきら)王だ。久邇さんは上皇さまの従兄弟にあたる。小学4年生のころまで久邇さんは、自分が旧宮家と知らずに過ごしていたという。
久邇朝宏さん
「『あなたは昔は宮様だったんです』今で言うお手伝いさん、当時は女中、その人たちから『あなたは違うんですよ』『もっと気を付けないとダメです』。『そうなんだ』という感じ」
政府が決定した皇室典範の改正案。「旧宮家」の中で▼15歳以上の男系男子で、▼配偶者と子どもがいない人に限り、皇族の養子とすることができるとしている。
山本キャスター
「これを聞いたとき、率直にどうお感じになりましたか?」
久邇朝宏さん
「手を挙げる人がいるのかな。15歳って、自分はこう生きるんだって生き方を見つけてる人が多いと思う。見つける前でも『こうなりたい』というおぼろげな希望、自分の将来を持っているはず。そういう人に、今さら名前を捨てて生き方を変えなさいというのは、酷な話だと思う」
山本キャスター
「お子さんは娘さんですが、もし自身の子や孫が(養子の)対象だった場合は」
久邇朝宏さん
「やめろよ、お前なんてできるわけないじゃんという言い方をすると思いますよ」
「(皇族は)私の命はどうでもいいから、日本の国民を幸せにという生き方を求められていると思う。厳しい生き方を勧めることはできないから、自分で自分の将来を切り開いていってほしい」
いきなり浮上 養子の子への“皇位継承権”
皇室典範の大きな改正に動く政府。今回の改正案のもとになったのは、5年前に有識者会議がまとめた報告書だ。
政府の有識者会議の報告書より
「まずは、皇位継承の問題と切り離して、皇族数の確保を図ることが喫緊の課題であります」
皇族数の確保については具体的な議論を進める一方、議論の分かれる皇位継承は、事実上、“棚上げ”された。
その後の国会の議論も、皇位継承が正面から取り上げられることはなかった。それだけに、とりまとめの終盤。森衆議院議長から出た発言は、野党の反発を招いた。
森英介 衆議院議長(6月8日)
「(皇族となった養子に)男の子が生まれれば、その子は皇位継承権を持つということになる」
議論の対象外だった皇位継承権に踏み込んだのだ。
森議長は謝罪と釈明に追われた。
そして、最終的に衆参正副議長を中心にまとめられた「立法府の総意」。皇位継承については、引き続き、「検討」するとした。
ところが6月30日、政府が閣議決定した改正案に波紋が広がっている。
養子で皇族となった男子は皇位継承権がないが、その養子に男の子が生まれた場合、皇位継承権を持つものとなった。
養子から生まれた男の子は「男系男子」だ。
この案に異論を唱えるのが、2025年4月まで与野党協議に出席していた野田佳彦元総理だ。
野田元総理「総意では決めていない」 進め方が強引と指摘
中道改革連合 野田佳彦 元総理
「立法府の総意から逸脱した皇室典範の改正案を政府がまとめたことで、逸脱は許されないと思っている。完全に男系男子で、今の悠仁さまの先も決めていくというのは、これはもう完全にやりすぎだと思う。
総意と違う、総意では決めていない、議論していないことまで先走る。大事なことを先走って決めてはいけないと思います」
野田氏は議論の進め方が強引だと指摘する。
中道改革連合 野田佳彦 元総理
「もう一回、土俵をちゃんと整理した方がいいのではないかという気持ちがありますから、今ちょっと国会が不正常な形になっているので」
村瀬健介キャスター
「皇室典範の審議を進める環境ではないということでしょうか」
中道改革連合 野田佳彦元総理
「国論を二分するようなテーマを『エイヤ』と決めることがリーダーの仕事ではないし、国論を二分させないように合意形成をしていくようなテーマというのがまさに皇室に関わるようなこと。今のままだと(国論が)二分したまま突っ込む可能性があると思います。それこそ国家千年の計にかかることですからね。丁寧な議論をしながら結論を出していくべきだと思います」
自民党はなぜ、男系男子による皇位継承にこだわるのか。高市総理は2026年4月、党大会でこう宣言した。
「今国会で成し遂げなければならん」 男系男子にこだわる自民党
高市総理
「皇室典範の改正が急がれます。その際、126代にわたって、男系で皇統が継承されてきたという世界でも比類がない歴史的事実こそが、天皇の権威と正統性の源だと考えております」
麻生副総裁も。
自民党 麻生太郎 副総裁
「皇室典範の改正は必ず、今国会で成し遂げなければならんとも思っております。皇族数確保のための方策としては、まずは皇統に属する男系男子を養子として迎え、皇族とするということです」
麻生氏と共に自民党の代表として、与野党協議に出席する中曽根弘文氏。6月28日、憲法改正と皇位継承についての講演で、女性天皇を容認する声の高まりに対し、持論を展開したのだが…
自民党 憲法改正実現本部長 中曽根弘文氏
(※共同通信 配信の音声より)
「(現在の皇室典範では)すでに愛子さまではありえないんですよ。愛子さまが天皇陛下になるとなったら、結婚する人もいないですよ、皇后さまになる男性はいないと思いますよ。そして愛子さまも男性のお子さんを産まなきゃならないすごいプレッシャーもあるわけです」
翌日、「言葉が適切でなかった」と釈明した。
自民党 憲法改正実現本部長 中曽根弘文氏
「皇統を継ぐためにお子様をもうけなければならないという、大きな精神的重圧、そういうものが生じるんじゃないかと。もうちょっと言葉を適切に選べばよかった」
皇位継承をめぐり、高市総理にも提言を行ってきたという憲法学者・百地章名誉教授。今回の法改正の目的は「皇族数の確保」とされてきたが、百地氏はこう見ている。
日本大学 百地章 名誉教授
「つまり男系男子を守っていくための、その第一歩が今回作られたんだと。そう見るのが、正しい見方であって、しかし政府はそこまで言い切るとなんですから」
──今回の改正案というのは、どうしてもこの養子案を入れるため?
「旧宮家から何とかまず男系男子を確保するというのが一番の目的です」
日下部正樹キャスター
「この男系男子については、総理から特に何か問い合わせなどは」
日本大学 百地章 名誉教授
「個別にメールをお送りしたり、提言をさせていただいたりとかはあります。当然、総理自身が、男系男子というのは皇室の我が国のあり方に関わる問題であり、自ら信念としてお持ちですから」
JNNが2026年5月に実施した世論調査では、旧宮家の男系男子を養子として、皇室に迎える案について、賛成41%、反対35%、どちらともいえない25%と賛否が割れている。
2024年、国連の委員会は皇室典範を「皇位継承における男女平等を保障するよう改正すべき」と日本政府に勧告したが…
日本大学 百地章 名誉教授
「内政干渉そのもの。その国の独自の歴史文化伝統、これに対して干渉してくるってことは絶対あってはいけないことです。現代の感覚、あるいは価値観である男女平等とか、もちろん大切です。2000年の伝統を現代の価値観で割り切ってしまうと、そして現代の価値観に合わないから否定するというのは、私は歴史や伝統に対する冒涜だと思います」
王位継承を「長子優先」に 「女王」誕生見込まれる欧州の国も
2026年6月、ベルギーを公式訪問された天皇皇后両陛下。
迎えたのは、エリザベート王女だ。愛子さまと同じ24歳、王位継承順位は1位だ。
かつて、王位継承は男性に限られていたベルギー。だが、王室維持や男女平等の観点などから、1991年、憲法改正で性別を問わない「長子(第一子)優先」とした。
20年前に愛子さまと交流し、6月、両陛下と再会したオランダのカタリナ=アマリア王女(22)も、王位継承順位1位。
1980年前後から「長子優先」への法改正が進んだヨーロッパ。ベルギー、オランダ、スウェーデンでは次の代に女王が誕生する見込みだ。
日本では、皇族の将来について議論されているが、街の声は…
男性
「外国のまねをしていてもしょうがない。日本は日本で。だって(男系男子は)伝統」
女性
「次に天皇の位に就く人は、若い世代。その人たちに合った天皇家をつくっていかないと」
JNNが2026年4月に実施した世論調査では、「男系か女系かを問わず女性が天皇になることについて」という質問に対し、賛成61%、反対8%、どちらともいえない30%と男性に限らなくてもよいという意見が多かった。
6月、皇族数の確保に向けた立法府の総意が取りまとめられた後、陛下はこう述べられている。
天皇陛下
「皇室の在り方や活動の基本は、国民の幸福を常に願い、国民と苦楽を共にすることだと考えており、こうした皇族数の確保の在り方についての議論においても、国民の皆さんの理解が得られるものとなることを望んでおります」
「血さえあればいい 前近代的な論理」国民の総意はどこへ?
名古屋大学 日本近現代史 河西秀哉教授
「『国民の理解を』と言われたことは、よほど思うことがあったのだと思う」
こう推し量るのは、天皇制を研究する河西秀哉教授。
名古屋大学 日本近現代史 河西秀哉教授
「象徴天皇というのは、日本国憲法にも書いてあるように、国民の総意に基づくと。国民に全然開かれてないままに、なし崩し的に議論が進んでいる」
男系男子の血統を重んじる制度設計は、今後も男子を産むことや、養子に入ることなど、当事者に極めて重い精神的な負担を与えかねないと危惧する。
名古屋大学 河西秀哉教授
「今回の政府与党が出した案は、非常に非人間的。皇室の人たちのことをどこまで考えているのかイデオロギー先行で、頭の中で考えた話になっている」
天皇を神とまつり上げ、戦争に突き進んだ時代のあと、新しい憲法では第一章第一条で、天皇の地位をこう定めた。
「天皇は、日本国の象徴であり、日本国民統合の象徴であって、この地位は主権の存する日本国民の総意に基く」
戦後の皇室は、「国民と苦楽を共にする」という在り方を模索してきた。
日下部キャスター
「今回の議論の中で、何か大切なことが抜け落ちている?」
名古屋大学 河西秀哉教授
「“私たちにとって天皇とは何なのか”ということが一番抜けていると思う。被災地訪問や、いろんなことも含めて公務をされてきて、国民がこういうふうに自分たちを受け入れてくれている、こういうふうに理解してくれていると見ながら今までやってきた。
今の政府のあり方というのは、もうそんなものはどうでもいいと、とにかく“血”さえあればいいという、その論理は非常に前近代的」
「国民を幸せにする結果に」皇室典範めぐる議論に旧宮家の男性は
旧宮家の男系男子で、かつて皇位継承順位18位だった久邇朝宏さん。
山本キャスター
「天皇家や皇族が尊敬を集めているのはどうしてだと思いますか」
久邇朝宏さん
「日本国民を不幸にしないでほしい、そういう生き方をしているからだと思う」
仮に、男系男子ではない天皇が誕生すると天皇と国民の関係はどうなると考えているのか。
久邇朝宏さん
「日本国民は千年以上前から天皇を慕ってまとまってきた。それが女系になろうと何だろうと、変わりようがないんじゃないか。日本人の生き方ってそんなにちょこちょこ変わるものではないと思う」
皇室を巡る議論に望むことは...
久邇朝宏さん
「みんなの意見ももう一度聞いた方がいい、国民に問うのかな。政治力だけで突き通していって、それで本当によかったかなと疑問がわいたら大変ですから、国民を、みんなを幸せにするような結果にしてほしい」
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