
障がい者施設で働いていた16歳の少女。身に覚えのない容疑で逮捕され、無実を訴え続けた末、衰弱死しました。
取り調べ内容を記したノートには、自白の強要がうかがわれる記述も。捜査に問題はなかったのか検証しました。
「ずっと一緒にいたかった」16歳の少女が衰弱死 無実訴え続けた末に
かわいいものが大好きだったという16歳のるなさん(仮名)は2025年12月、やせ細った姿で帰らぬ人となった。
るなさんの母親
「変な錯覚で(娘が)いるのではないかと毎日思う。なぜ初盆をしてるのかも気持ちがついていけない」
死因は「るい痩=低栄養状態」。身に覚えのない逮捕に、無実を訴え続けた末の最期だった。
るなさんは、長年障がい者福祉に携わってきた母親に憧れ、中学卒業の直後から母親が経営する障がい者支援施設で働いてきた。施設の利用者らからの信頼も厚かった。
――るなさんはどんな人でした?
施設の利用者
「本当に優しくて明るい子でした。ずっと一緒にいたかったなあ」
利用者の父親
「僕ら障害のある子の親としては、自分たちがいつ亡くなっても、るなさんみたいな子がいてくれれば大丈夫という風に思わせてくれた」
“障がい者をおさえつけた” 突然の逮捕 きっかけはるなさん企画のイベント
逮捕されるきっかけになったのは、バレンタインデーを祝おうと、2025年2月に行われたイベントだった。約40人が集まり、ガトーショコラ作りを楽しんだ。
イベントの参加者
「楽しかった」
イベントの参加者
「みんなで作って楽しかったです。嬉しかった。思い出す」
利用者に楽しんでもらおうと、るなさん自身が企画したイベント。
この4か月後の朝のこと。突然、警察が逮捕状をもって施設に来た。
るなさんの母親
「職員から連絡があって、『警察が来ている』ということで。なぜ、るなが連れて行かれないといけないのかも、素人ながらに本当にわからなくて」
逮捕状に書かれた容疑は暴行。
るなさんと男性職員が、イベントで重度の障害がある利用者に対し、あごのあたりを複数回、手のひらでおさえつけたとして逮捕された。
きっかけは、イベントに参加した知的障害がある女性が市役所に伝えた話だ。
被害者とされたのはAさん。
市役所に話をした女性は、るなさんと男性職員がAさんのあごを抑えつけるなどの虐待をしたと伝えていた。
現場にいた全職員「暴行はなかった」 逮捕の根拠はどこに?
一方、イベントに参加した職員は、暴行にあたるような行為はなかったと話す。
――いちばん近くで見ていた?
施設の職員
「そうですね」
――(るなさんらが)あごを押さえたなどの記憶は?
「ないです。警察の人が2人を逮捕しに来た日も何のことか思い出せなかった」
また、同じテーブルにいた別の職員も。
――あごを押さえつけることは?
施設の職員
「全然、それはなかったです」
Aさんは、この日はじめて施設のイベントに参加した利用者だった。
るなさんの母親によると、Aさんが隣にいる別の利用者に噛みつこうとするなどしたため、るなさんたちが止めにはいったという。
るなさんの母親
「(利用者が)自分の思いが伝わらなくて暴れてしまうことは日常茶飯事にある。その時に彼女(るなさん)は腕にあざができていた。(利用者に)つねられた痕とか」
イベントの数日後に撮影されたるなさんの腕や脚の写真には、紫色のあざがくっきりと残されていた。
しかし、るなさんの姉によると、この時るなさんは病院にいこうとしなかったという。
るなさんの姉
「その時、るなに叱った。『そういうのは写真を撮らないとあかんやろ』って怒ったら、『利用者さんもわざとじゃないし、そんな大げさに言ったら親御さんも利用者さんも傷つくから』と」
兵庫県警は何を根拠に、2人を逮捕したのか。
私たちは、当時イベントにいあわせた職員8人に話を聞いたが、るなさんの逮捕前に、警察から事情を聞かれた人は1人もいなかった。
――警察から事情を聞かれることは?
施設の職員
「全然なかったです。いきなり明石署(の警察官)が来て『逮捕状が出てます』って。それがおかしいのではないかと。強引すぎる」
施設の職員
「その日の朝に急に来て『逮捕状が出てるから』と。この日何があったのかという話も、もちろん聞かれてない」
逮捕後の取り調べは過酷を極めた。
「言ったら楽になるぞ」と自白迫るような記述も 被疑者ノートに残る捜査の実態
るなさんに接見した2人の弁護士に話を聞くことができた。
るなさんが逮捕後に留置場で書いた「被疑者ノート」。取り調べの内容を記録するためのものだ。
逮捕された当日の記述には…
るなさんの被疑者ノート(2025年6月17日)
「本当はやったんだろう 正直に言え」
さらに…
被疑者ノート(2025年6月17日)
「今言ったら楽になるぞ。山田は言ったぞ」
「なんで山田と言ってることが違うんやろな(こわかった)」
「山田(仮名)」とは“共犯者”として逮捕された施設の男性職員。
被疑者ノートからは、警察は山田さんが容疑を認めたと言い、るなさんに自白を迫った様子がうかがえる。
私たちは山田さんにも話を聞くことができた。
取り調べに容疑を認めたことはないという。
――暴行にあたる行為は?
“共犯者”として逮捕された山田さん(仮名)
「してないですね。警察に言われたのは、 『僕が押さえて、るながその利用者の口を押さえた』と。 『そんなこと、一切してません』と」
警察はこう持ちかけ、自白を迫ったという。
“共犯者”として逮捕された山田さん(仮名)
「『るなが僕が全部やったと言ってるぞ』と言われたけど、彼女はそんなこと言う子じゃないと分かってたので、カマかけてきてるんだろうなと思ったので。『見たことと聞いたことしか話せない』と言って。それで警察官は引いたんですけど」
「ママ、あいたい。ごめんね」“涙”でインクが滲んだノート
るなさんの逮捕から4日目。この日は朝から夕方まで、のべ4時間、取り調べが行われた。
被疑者ノート(2025年6月20日)
「少年(院)に行きたいんか?いつまでがんばるん?」
「みんなと言っている事とあなたが言っている事がちがうのはなんでやろうな」
「バイバイできひんぞ(こわかった)」
向井義博 弁護士
「16歳の少女ですから、警察官に『少年院行きたいんか』『自白しなかったら少年院行きやぞ』と言われているようなものですよね。ものすごく怖かったと思うんです」
ノートの自由記入欄には…
被疑者ノート
「もういやです、こんな生活、早くみんなにあいたいです」
「何にもしてないのに、こんなんになるんですか」
「ママ、あいたい。ごめんね…」
涙をこらえきれなかったのか、インクがにじんだ跡がところどころ残されていた。
逮捕から7日目の6月23日には、健康状態について「悪い」にチェックがつけられていた。
被疑者ノート(2025年6月23日)
「フラフラする、息苦しい」
それでもるなさんは一貫して容疑を否認し続けた。
逮捕後になって警察の聴取を受けた施設の職員も、一様に「暴行はなかった」と否定した。
逮捕後に聴取を受けた施設の職員
「私は見ているんで『るなさんはそんなこと一切ないです』と答えました」
――そんなふうに言ったにもかかわらず?
「しつこくきいてきた。何度もしつこくしつこく『そんなことないやろ』と」
逮捕後に聴取を受けた施設の職員
「(警察から)『バレンタインで何があったか覚えていますか?』『虐待とか何かあったか聞いていますか?』(と聞かれた)」
――どのように答えました?
「『虐待はないです』と言いました」
留置場で倒れ救急搬送 その後不起訴も…検察は“理由”開示せず
るなさんの母親は、娘の無実を証明するため、警察にイベント当日の写真や記録を提出したという。
るなさんの母親
「なぜ虐待と言われてるのかよくわからなかったので、その時のすべての証拠を持って行って。(イベントに)出席していた人たちの記録も全部持って行ったんですけれども、(警察からは)『関係ない』という形でしたね」
逮捕から16日目。裁判所は、一度は釈放を認める決定をした。しかし、検察側の準抗告を受けて、勾留の延長を認めた。
釈放されなかったるなさんの健康状態は悪くなる一方だった。そして…
向井弁護士
「留置場内で倒れて救急搬送された。十何日間も食事もきちんととれていない状態でしたので」
7月4日、搬送された翌日になって兵庫県警ははるなさんを釈放した。拘束は18日間に及んだ。
その3日後の7日、共犯とされた山田さんも釈放された。2人は不起訴となり、罪に問われることはなかった。
“共犯者”として逮捕された山田さん(仮名)
「(勾留)延長されてからはさすがにきつくて。最後のほうは本当しんどかったですね」
――きつかったというのは?
「精神的に『いつ出られるのかな』となってたので」
るなさんの弁護士は、検察に不起訴の理由を問い合わせたが…
佐々木正博 弁護士
「検察官に不起訴理由の書面の開示を求めたんですけど、見事に拒否された。なぜ開示しないんだと尋ねたら、『諸般の事情を考慮して』という一点張り。それ以上のこと全く教えていただけませんでした」
半月あまりで約10キロ減少 「もう警察は嫌」眠れず叫び声も
るなさんが釈放された直後の音声が残されている。
るなさん「(泣き声)」
母親「大丈夫。大丈夫。ごめんな、待たせたな」
るなさん「(泣きながら)ごめん。みんなごめん」
釈放された時のるなさんの体重は27.7キロ。逮捕から半月あまりで約10キロ減少していた。
この時の様子について、るなさんの姉は。
るなさんの姉
「もう細くて。真夏の中、ダボダボな服で。ずっと『寒かった』と言ってて」
「何食べたい?と言ったら『チョコレート食べたい』『アイス食べたい』と。帰りの車内で『食べよう』って言ったけど、るなは口に運べていませんでした」
母親が釈放直後にるなさんを病院につれていくと、急性ストレス障害などと診断された。
るなさんの母親
「夜中は叫び声で起きてました。ぐっすり寝られていることはなかった。『怖い、やめて』『もう警察の人は嫌や』」
懸命に治療を続けたものの、るなさんの体重は減少の一途をたどった。
「吸収不良症候群」状態だったか 逮捕から6か月 体重は19キロに
るなさんが亡くなる間際に診察をした水野宅郎医師。
18日間の拘束の中で、強いストレスを受けたるなさんは「吸収不良症候群」の状態になっていたのではと説明する。
水野宅郎 医師
「食べられなくて痩せていく状態ではなくて、一生懸命頑張って食べようとして食べてはいたが、食べても吸収されないで下痢になって出ていくような状況」
水野医師は、警察が少しでも配慮をしていれば、るなさんが命を失うことはなかったのではないかと話す。
水野医師
「(勾留中に)体重が10キロとか落ちてきてたら、病院で入院しながら色々できたとは思うので。普通の大人なら、子どもがご飯食べないで痩せていたら『すぐ病院連れてこう』となると思うので。その普通の対応を、なぜ警察がやらなかったのかなと」
栄養を吸収できない状態になっても、るなさんは生きることを決してあきらめなかった。
るなさんの母親
「一生懸命努力して『今日は何カロリー取ったよ』 『今日は何カロリー取ったら大丈夫』」
しかし、るなさんは2025年12月に意識を失い、運ばれた病院で息を引き取った。
逮捕から約6か月後。体重は19キロにまで減少していた。
「すいませんでした」遺族への手紙 “虐待”と伝えた利用者から
るなさんの死から3か月が経った2026年3月。遺族のもとに、手紙が届いた。
差出人は「虐待があった」と市役所に話した利用者だった。
利用者の手紙
「あごをおさえてたと言ってしまったが、実際はあごに手をそえていた。自分が言ったことの振り返りをすると虐待ではないと思った。オーバーに言ってしまってすいませんでした」
るなさんの姉
「なぜ1人の利用者の話しか聞かなかったのか。その利用者のことを知る他の支援者に聞き込みをしなかったのか」
大阪地検で検事も務めた亀井正貴弁護士は、「警察がなぜ逮捕したのか疑問が残る」と話す。
亀井正貴 弁護士
「犯罪にならない可能性もある事案で、身柄拘束をしていくのは違和感はありました」
そのうえで、捜査が尽くされていれば長期間の拘束は防げたのではないかと指摘する。
亀井弁護士
「16歳ということを考えると、本当に勾留する必要があるかどうかは、関係者を洗って捜査して取り調べして、実態の事実はどういうものかを検証すべきだった」
“違法捜査の末に死亡”母親が提訴 兵庫県警は争う姿勢
るなさんの突然の逮捕から1年にあたる2026年6月17日。
るなさんの母親は、違法な捜査の末に娘が死亡したとして、県や国に約1億1000万円の損害賠償を求め提訴した。
10月21日の第一回口頭弁論で兵庫県警は争う姿勢だ。
兵庫県警
「訴状の内容には我々が認識している事実とは異なる点がある。その点は裁判で明らかにしていきたい」
るなさんの母親が、いま、願うことは。
るなさんの母親
「ここでしっかり真実を明らかにして、信用信頼できる司法行政であってほしい。娘1人の問題だけではなくて、国民の皆さんが同じ苦しみを抱えて、これから生きていくことがないように。何が悪くて、何が正しかったのかっていうことは、記憶と記録に残したい」
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