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「中国がパナマ運河を支配している。我々は運河を取り戻す」
【写真を見る】 アメリカと中国どっちが大切? パナマの大統領に直接聞くと…
米トランプ大統領が1月の就任時に放った“宣言”に中米パナマが揺れています。歴史的にアメリカと深いつながりがありますが、中国は2017年にパナマと国交を結ぶなど関係の強化を急速に進めています。
“米中の覇権争いの最前線”パナマはどちらの国を選ぶのか?大統領に直撃しました。
「中国が運河を運営している」トランプ大統領の発言に反発の声も
中米・パナマ。北海道よりやや小さい広さで、人口は450万人ほどの小さな国です。
日本とは長い外交関係があり、パナマ市内の観光名所でもある魚市場は、日本が資金協力を行ってつくられました。
パナマを有名にしているのは、大西洋と太平洋を結ぶ全長80キロの運河です。
記者
「パナマ運河の狭い水路を大型のコンテナ船が進み、反対側、太平洋の港に出ようとしています」
私達は特別に、運河の太平洋側の要衝「ココリ閘門」の取材を許されました。需要の増加に対応するため、2016年に開通し、横幅は55mで大型船が通行できます。
パナマ運河の歴史に詳しいトロヤノさん
「運河の基本的な仕組みは、片方の海から来た船が通る水位を段階的に上げ、もう片方の海に出るまでに水位を下げることです。船が運河を通行するには約10時間かかります。
同じ船が別の航路、例えば南米航路を利用する場合、2週間ほどかかり、料金も10倍以上になるでしょう。つまり、パナマ運河は多くの、あるいは全ての顧客にとって時間とお金の節約になっています」
世界の海上貿易の5%を占め、日本も世界で3位の使用国となるなど、経済を支えているこの大動脈を巡って、今大きな問題が起きています。
トランプ大統領(2月2日)
「中国が運河を運営している。我々は運河を取り戻す。さもないと大変なことが起こる」
アメリカのトランプ大統領は、1月の就任前からパナマ運河の運賃が不当に高いと批判。
さらに、トランプ政権が問題視しているのは、運河の両端にある二つの港「バルボア港」と「クリストバル港」です。いずれも香港企業が管理していて、有事の際に中国政府が企業を通じて運河を封鎖するおそれがあると強い警戒と不満を訴えています。
トランプ政権誕生後、ルビオ国務長官が真っ先に向かったのはパナマで、運河の現状を正さなければ、必要な措置を講じると迫りました。
これに、パナマ政府や市民からは、運河の管理運営権はパナマに属していて、中国は一切関与していないと反発の声が上がっています。
パナマ市民
「トランプ大統領はうそを言っていて、国民はみな怒っています」
パナマ ムリーノ大統領
「運河の管理は、いまもこれからもパナマが行う」
昨年まで運河担当大臣のロヨ氏「中国は運河を支配していない」
パナマ運河が開通したのは、今から100年以上前の1914年。その直前のパナマのコロンビアからの独立と、運河開通を支援したのがアメリカでした。
アメリカは運河の管理権と運河周辺の主権を握ります。一方、パナマ側には当初から不満が溜まり、反米感情の高まりとともに、暴動が度々発生。
ついに1977年に就任したアメリカのカーター大統領が運河の返還に向けた条約に署名し、1999年にパナマに返還されたのです。
パナマの元大統領で、条約の署名にパナマ側で携わったロヨ氏は…
パナマ元大統領 アリスティデス・ロヨ氏
「パナマが運河を管理しています。アメリカは1999年12月31日に運河を返還しました。その際、カーター元米大統領は、当時のモスコソ元パナマ大統領に『運河はあなたのものです』と英語で伝えました。個人ではなく、パナマ共和国に属するものだという意味です。アメリカはその点を尊重しています。
アメリカとパナマの友好関係はそれ以来非常に良好でしたが、トランプ大統領はいま『運河を取り戻す』と言っていて、懸念が広がっています。アメリカが運河奪還のために軍事行動を起こさないよう私たちは心から望んでいます」
ロヨ氏は去年まで運河担当大臣を務めました。トランプ大統領の中国が運河を支配しているという主張については…
パナマ元大統領 アリスティデス・ロヨ氏
「トランプ大統領の発言は全く正しくありません。中国は運河を支配してなどいないからです。ハッチソン社はイギリス領香港時代に2つの港を落札しました。1997年はまだアメリカが運河を管理していた最中です。
そして、非常に優れた業績を残しました。中国の影響は一つもありません。非常にプロフェッショナルな仕事を行っています」
トランプ氏の主張の背景に…存在感増す中国への警戒か?
トランプ大統領は今、なぜ運河問題を繰り返し主張するのか。その背景には、パナマで存在感を増す中国への警戒があるとの見方があります。
パナマ市内の国立公園で開かれた春節を祝う祭り。祝賀の踊りの見物や出店には大勢の人が集まります。
パナマ市民
「ここ数年で中国カルチャーはとても盛り上がっているよ」
パナマは2017年に台湾との外交関係を断ち、中国との国交を樹立。前後して中国の国有企業が港湾や橋の事業を落札しました。また、大手企業も相次いで進出しています。
さらに地元の大学と提携し、中国語や中国文化に関する教育機関を設置するなど、文化面でも関係を深めています。
こうした中国の動きについて専門家は…
パナマ大学 タピア教授
「まず中国がパナマと国交を結んだ際に直面した大きな障害は、パナマと台湾との長きにわたる関係でした。パナマ国民が台湾に対して持っていた非常に好意的なイメージを、どうやって中国に向けさせるかが彼らの重要な課題でした。
中国はさまざまな方法を駆使してパナマ社会に浸透し、協力関係を発展させてきました。中国はパナマを中南米全体の要所としているからです」
さらに、中国の関与をアメリカが強硬に非難する背景について、次のように分析しています。
パナマ大学 タピア教授
「アメリカはパナマに中国との関係を断ち切らせたいのです。なぜなら、中国はラテンアメリカをはじめ、全世界でアメリカの存在感を消そうとしているからです。パナマはアメリカが神経質になる地点なので、中国のプレゼンスについて交渉したくないのです。
私たちはいま岐路に立たされています。なぜならアメリカからの圧力に屈すれば、国際世論で、パナマはアメリカの植民地としてみなされることになるからです」
一方、拡大する中国の影響力について、パナマの経営者団体のトップは懸念も持っています。
パナマ経営者協会 デ・サンクティス会長
「パナマには1000社もの外国企業が進出しています。一方、中国企業は40社です。重要ですが必須ではありません。そこは区別する必要があります。パナマでの中国からの投資や影響は増加しています。なお影響力を拡大しようと一生懸命ですが、それはパナマに限ったことではなく、世界中どこでも同じです。
アフリカでも中国は大きな影響力を持っています。そこでは、中国はよいビジネスパートナーではないと聞いています。なぜなら、ビジネスの仕方がそれほど公正ではないからです。民主主義を守るパナマ国民として、中国の影響について本当に懸念しています。なぜなら中国は民主主義国ではないからです」
アメリカと中国どっちが大切?パナマの大統領に直接聞く
対立する米中の最前線となっているパナマ。私達はムリーノ大統領にアメリカと中国、果たしてどちらとの関係が大切かを直接たずねました。
パナマ ムリーノ大統領
「パナマとアメリカは歴史的に特別な関係があります。地球上に私たちほど円滑な関係の国はないです。浮き沈みがありますが、両国の関係が難しい時期でさえ連携は絶えなかったのです。一方、中国とは互いにどう向き合うべきか分かっていません。それが事実です。
しかし両国の関係はあり、中国は運河の重要な利用者です。そして、重要で活気ある中国系コミュニティは建国前からパナマに存在しているのです。だから中国系コミュニティへの尊敬の念があります。
しかし、それがパナマ建国の日から続く、アメリカとの関係の重要性を忘れさせるわけではありません。ですから、大切なのはアメリカとの関係で、中国ではありません」
パナマ政府は二つの港を管理する香港企業の監査を開始。さらに2月2日には中国の巨大経済圏構想「一帯一路」から離脱する方針を表明するなど、中国との関係を大きく見直そうとしています。
パナマ市民も、トランプ大統領の発言には憤りを感じながらも、アメリカとの関係性を重視する人が多くいました。
パナマ市民
「中国は素晴らしい国で、多くの文化がパナマに伝わっています。米中ともに良い国です。でも、パナマにとってはアメリカが大事です」
「間違いなくアメリカが大切です。パナマのビジネスのパートナーであり同盟国です。私たちは米ドルを使用していて、文化的なつながりや、さらには家族の結びつきもあります。アメリカとはこれまで難しい時期もありましたが、常に外交を通じて解決してきましたよ」
パナマに問題を突きつけたトランプ氏は…
トランプ大統領
「交渉中だが、パナマの政権とは良い話し合いができた」
トランプ政権は強気な交渉を続ける構えで、パナマ政府にとって難しい対応が続きます。
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