
アメリカのトランプ政権が鉄鋼アルミニウムに対する25%の追加関税を発動し、例外は一切認めなかった。EUとカナダが報復関税を発表し、貿易戦争の様相も呈してきている。市場も、景気後退とインフレが同時に進む「トランプ・スタグフレーション」を懸念している。
【画像でみる】アメリカが鉄鋼・アルミに関税発動 市場は「トランプ・スタグフレーション」を懸念
アメリカ 鉄・アルミに追加関税発動 貿易戦争激化?日本どう対応?
トランプ政権は3月12日、鉄鋼・アルミニウムへの25%の関税を発動した。日本も追加関税の対象となった。
林芳正官房長官:
我が国を除外するように申し入れてきたにもかかわらず、日本が除外されない形で追加関税の賦課が開始されたことは、遺憾。一方、追加関税に対し、カナダは…
メラニー・ジョリー外相:
ヨーロッパの同僚よ。我々も協力して関税撤廃に向けて圧力をかけていく。
3月13日からおよそ3兆1000億円相当のアメリカからの輸入品に25%の関税を課すと発表。EUもウイスキーなどアメリカからの輸入品4兆円相当に4月から報復関税を課すと表明した。これに対し、トランプ大統領は翌日、EUから輸入するワインなどに200%の関税を課す考えを明らかにした。
これに先立ち、11日にはホワイトハウスのレビット報道官が高関税をかけている国を批判。
ホワイトハウス・レビット報道官:
カナダを見てみると、アメリカ製のチーズとバターの関税は300%に近い。インドを見ると、アルコール類に対する関税は150%だ。
さらに日本についても…
ホワイトハウス・レビット報道官:
日本を見てください。コメに700%の関税をかけている。
トランプ政権が、日本について言及したのは、これだけではない。
トランプ大統領:
「(日本からの自動車輸入の規模)はあまりに大き過ぎる。しかし、日本は私たちが作っている素晴らしい車は受け入れていない。
13日には、トランプ大統領が次期駐日大使に指名したジョージ・グラス氏が議会の公聴会で…
ジョージ・グラス駐日大使候補:
大使に承認されれば、関税と貿易赤字削減について、日本と厳しい対話をするだろう。
番組コメンテーターで日米の通商交渉に詳しい、明星大学経営学部教授の細川昌彦氏にトランプ大統領の本気度を聞いた。
明星大学経営学部教授 細川昌彦氏:
このトランプ第2期政権は必ず僕はやると思っている。こういうのを脅しではなく、空脅しにならないということを見せつけるためにまずやる。とりわけ自動車(への関税)は打ち出される可能性が高いが、アメリカに自動車を輸出しているシェアの高い順に言えば、日本がトップ。対象になってくる可能性は極めて高いと思わなければならない。最終的にはこれが価格転嫁していったら、アメリカの自動車のユーザーが高いのを買わざるを得ないということになる。そうするとインフレになっていき、マイナス効果になる。そうするとアメリカの国内の株価も下がっていく。そうやって景気に対する悪影響が出てきて、初めてこの政権は動く。日本から除外をしてくれと言うことで動く政権ではない。
日本が取るべき対応は…
明星大学経営学部教授 細川昌彦氏:
今トランプ大統領が何を欲しがってるかが大事。彼は来年2026年11月の中間選挙、これに勝つことで頭の中がいっぱい。中間選挙に向けた戦略として、どういった成果を取ってきたと言って選挙民にアピールするか。自動車を脅しで何かを得ようとするならば、トランプ大統領が選挙対策で、何を欲しがっているのかを見極める。これから日本政府にとっても大事なポイントだ。
アメリカ 鉄・アルミに追加関税発動 貿易戦争激化?日本どう対応?
こうした中、今週のアメリカの株式市場は、トランプ関税による経済への影響が懸念され、荒れ模様だった。
9日のFOXニュースのインタビューで「今年は景気後退を予想しているか?」という質問に対して、トランプ大統領は、「そのようなことを予測するのは嫌だ。我々は非常に大きなことをやろうとしており、移行期間がある」と述べ、景気後退の可能性を否定しなかった。
これを受け、翌日のニューヨーク株式市場ではダウ平均株価が急落。先週末より終値で890ドル値を下げた。この日から4営業日連続で値下がりとなったが、金曜日は反発。それでも先週末と比べ、1300ドル以上下落している。
市場はトランプ関税と今後の株価をどう見ているのか。ニッセイ基礎研究所の井出真吾氏は…
ニッセイ基礎研究所 井出真吾氏:
一番はスタグフレーションに陥ってしまうのではないかという心配。インフレが残る一方で、景気の減速もしくは景気後退が同時に起きてしまう。これをマーケットは一番怖がっているのだと思う。
株価急落は去年2024年の8月にもあった。その時期と比べると状況は今の方が良くないと思っている。今の状況としては、FRBはそんなに利下げに積極的ではないと。むしろ忍耐強く、高い金利を続けるべきだということを言っている。世界中が政治面では左右に揺さぶられ、マーケットも上下に揺さぶられるということが追加されている。そう考えると、目先もう一段の株価下落の可能性ももちろん残っている。仮に投資家心理がある程度和らいだとしても、株価の戻りは去年の夏と比べると鈍いと思う。
今週のトランプ政権は、新たに品目別の関税を発動した。アメリカが輸入する全ての鉄鋼とアルミニウムに25%の関税をかける措置を発動した。これを受けてEUとカナダは報復関税を発表している。
アメリカの鉄鋼の輸入先の割合を見ると、1位からカナダ、ブラジル、メキシコで、日本は6番目。日本の輸出額はそれほど大きくないので直ちに影響があるとは見られていないようだ。日本は自動車に関税をかけられる影響が大きい。
ホワイトハウスのレビット報道官が各国の高関税を批判した内容をまとめた。8品目あり、そのうち3つが日本ということで、珍しく日本がターゲットになった。あとは、カナダ、インド、EUだ。しかも日本の場合は、米700%、乳製品40%、牛39%という農産品を問題にしていて、これを口実に自動車に関税かけてくるのではないかと推測できる。
米の関税700%は嘘。そういう時代もあったが、無税で輸入しているものが77万トンあり、それを超えても1キログラムあたり341円の関税なので700%はない。現在200%だと言われている。
中国とアメリカの貿易戦争はどうなるか。米中の関税合戦を見ると、トランプ政権が中国からの全ての輸入品に対して10%の追加関税をかけると、中国は報復関税としてエネルギーなどに10%から15%。さらにトランプ政権が追加関税を20%に引き上げると、中国もアメリカ産の農作物などに10%から15%の報復関税をかけると言うやりとりがあった。
アメリカ・中国 関税合戦の行方 世界経済への影響懸念
――米中は今、どんな段階か?
東京財団政策研究所 主席研究員 柯隆氏:
中国は、やられたら必ずやり返すという戦法だが、日本はやられたら、じっと耐える。遺憾の表明だけ。中国は1回目の「10%」の追加関税を課されたときに、実はそれほど痛くなかったが、2回目もやられて、痛さもあるが、中国国内で批判があり、やり返さなければいけないだろうとなった。今中国国内でナショナリズムが高まっているので、最終的に考えられたのが「農産物。トウモロコシ、大豆、牛肉に焦点を当てて報復するぞ」と。これは賢かったと思う。なぜかというと、中国は、輸入できなくなった場合、あるいは値段が上がった場合、ブラジルなどから代替輸入ができる。(ブラジルからトウモロコシや大豆が買える)特に大豆を中国人はよく食べる。あとは家畜のえさとして使う。フィリピンなどで農地を借りて生産もしている。だから中国にとってあまり痛みがない中で、逆にトランプにとって困ることが農家の票を失う可能性があるので、来年の中間選挙へのダメージを中国は今見ている。圧力になっている。
――アメリカは合成麻薬への対策が不十分という理由でこの20%をかけている。
まだ本丸の貿易や輸出補助金などの話にいっていない?
東京財団政策研究所 主席研究員 柯隆氏:
トランプ大統領は選挙の時、60%を課すと言っていたが、本当の一撃はまだ来ていないが、米中のビッグディールが今予定されている。それは何かというと、ウクライナ和平。それを実現するには習近平に「プーチンに圧力をかけてくれ」となれば、関税を課さなくて済む。そのビッグディールが近いうちに実現されるのではないかという期待がある。
――アメリカの関税はまだ序の口。中国側は、ウクライナ問題への対応でアメリカの関税が止まってくれることを期待してるのか。
東京財団政策研究所 主席研究員 柯隆氏:
トランプ大統領は何が一番欲しいかというと、ノーベル平和賞のノミネート。それを手に入れるには中国の協力が必要。もしビッグディールが成立しなかった場合、容赦なく第3弾、第4弾が来る。そうなった場合、逆に習近平が困ることになる。要するにカードがもうないので、中国はアメリカとの貿易で巨大な貿易黒字を実現しているので、やり返すのがしんどいと思う。
――中国の貿易黒字貿易赤字のグラフをみると、黒字のほとんどをアメリカで稼いでる。
東京財団政策研究所 主席研究員 柯隆氏:
GDPの伸び率を計算するときに、輸出ではなくて貿易収支。黒字がどれだけ経済に寄与するかだが、中国経済がどれだけアメリカとの貿易黒字で貢献してもらっているか、一目瞭然。だからこのままトランプと戦い続けるのは習近平政権にとっては得策ではない。
――アメリカからどんどん関税を課せられて、本当に50%、60%の関税になれば、中国経済は相当袋小路になる。
東京財団政策研究所 主席研究員 柯隆氏:
マイナス成長に陥る可能性すらある。だから早く終わらせたい。トランプ氏の別の思惑はウクライナ和平の実現なので、それぞれどうディールするか。習近平氏とトランプ氏の誕生日は1日違いで6月にある。米中の事務方で「誕生日サミット」を計画していると言われている。
――もしそこでディールが成立すれば、一旦米中の関税戦争は小休止か。
東京財団政策研究所 主席研究員 柯隆氏:
少なくとも握手できるので、そうなったときに日本にとって困ることもある。この複雑な合従連衡の国際ゲームで、日本はまだ慣れてないというのが残念なところ。
貿易戦争でターゲットっているのはEU、カナダ、メキシコ、日本という同盟国。25%関税だと言っていて、米中でビッグディールが成立したら、中国は20%で、他国より5%低い関税で止まってしまうという、奇妙なことが起こる。
東京財団政策研究所 主席研究員 柯隆氏:
特に習近平政権にとってトランプの今のやり方が実はとてもやりやすい。なぜかというと2国間の戦争だと北京がもう耐えられないが、今多国間の戦争をやっている。中国の産業構造はフルセット型。世界の工場だから何でもそろっている。やられた場合、国内で生産はできるので、あとは内需が弱いので、それをどうクリアするかだ。諸外国にとってはやりやすい。
――今のところ中国がトランプに負けるという感じにはなっていないのか?
東京財団政策研究所 主席研究員 柯隆氏:
逆にトランプ大統領が負ける可能性すらある。
(BS-TBS『Bizスクエア』 3月15日放送より)
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