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イチロー「(強豪校は)全く眼中にない、相手とも思ってない」超激戦区に挑む大阪の球児に強烈助言「僕は本気だから」再びイチ流指導

総合
2024-11-11 10:36

51歳になったイチローさん(マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクター)による高校球児への指導が9日、10日の2日間に渡って行われた。この取り組みは2020年の智弁和歌山から始まり、21年は国学院久我山(東京)、千葉明徳、高松商(香川)、22年に新宿(東京)、富士(静岡)、23年の旭川東(北海道)、宮古(沖縄)に次いで通算9校目。今回の舞台は、大阪の府立大冠高校。


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大阪は履正社、大阪桐蔭といった甲子園常連の名門校が顔を揃え、たった1枚の夏の甲子園切符を目指し、今年は155チームが予選を戦う激戦区だ。大冠高校は、春夏ともに甲子園出場経験はないが、17年には東海大仰星、大阪偕星、上宮といった強豪私学を撃破して決勝に進んだ。しかし、大阪桐蔭に8-10で惜敗、あと一歩の所で甲子園出場を逃した。今年も2回戦で涙を飲んだ。


そんな大冠高校野球部からイチローさんのもとへ手紙が届いた。強豪私立がひしめき合う大阪で“本気で甲子園を目指す”選手全員から。監督は高校野球指導歴41年、公立校での甲子園出場に挑み続けている。


手紙から情熱は伝わってきた。しかし、自分たちの現在地や強豪私立を倒して勝ち上がることの難しさをどこまで理解しているのか。聞こえのいい目標を持つことで満足してしまっていないだろうか。彼らの覚悟と正しいアプローチができているのか、そこを確かめたかった。『強豪私立を倒す』という目標を掲げる公立校の本気度を厳しい目で見てみたい、その思いでイチローさんは訪問を決めた。


9日正午過ぎ、大冠高校のグラウンドに姿を現したイチローさん。その第一声は「鍛えられてる感じがするね。初めまして、イチローです」


選手たちから送られた手紙を手にして、部員たちの前に立った。


イチロー:大阪の大会も見てます。やはり大阪桐蔭、履正社、この2強なんだろうなって思う。みんなが、そこを目指してるのはよく伝わってきました。強烈に意識してる。でも、もう一方で、相手がどう考えているのかを考えてほしい。それ考えたことある?


部員たち:・・・・・(無言)


イチロー:僕は愛工大名電で、当時愛知で私学4強と言われてた。その立場から言うとベスト16以下のチームは意識してない。だから履正社、大阪桐蔭は大冠のことは全く眼中にない、相手とも思ってない。そこに挑む。目指してる所が、次元が違う。現時点で、大冠は一番遠い所にいると思う。


初っ端から強烈な言葉を投げかける。それでも・・・


イチロー:その差は広がってる可能性すらある。でも、みんなの情熱を持ってしたら、何とかなるかもしれない。これをきっかけにしたい。厳しいこと言うけど、みんなに伝えなきゃと。僕は本気だから。情熱を持ってやってても、距離があるんだっていうのを自覚しながらやっていきましょう!僕も2日間、僕のできることを全力でやりますから、お願いします!


部員全員:お願いします!


イチ流指導!重要なのは「股関節」

ウォーミングアップが始まった。走塁練習を見ていたイチローさんが駆け寄っていく。


イチロー:すごくいい練習してる。今やってるのは打球判断だね。しっかり足で土をつかんで止まるのが大事。僕の場合は股関節を割って、そこに上半身を入れる。守備にも応用できる。


身振り手振りで、実際に動いて見せるイチローさん。真剣なまなざしで聞く部員たち。


イチロー:投げる時も打つ時も股関節を割って。判断が劇的に変わる。冷静に判断できるようになる。止まる動きを目指して。ニュートラルに止まっている状態を目指して、そこから動く。


ベンチ前で、2年生の山崎寛吾選手に話しかけた。


イチロー:ムードメーカー!


山崎:聞いてますか?


イチロー:ハハハハハ(笑)オーラ出てる。


山崎:ありがとうございます!


イチロー:ちなみに僕の好きなカレーは、ビーフ抜きのビーフカレーです


山崎:ホンマですか。ビーフ抜き。


イチロー:つまりルーしか見えてない状態。


山崎:僕はお母さんのカレーが好きです。


イチロー:聞いてないけどね。頼むよ、ムードメーカー(笑)


山崎:すみません(笑)


イチロー:いいよ!


山崎:ありがとうございます!


場が一気に和み、部員たちもイチローさんを質問責めに。「バッティングのタイミングはどう取っていますか?」「バッティングの時に体が開いてしまうんですが?」「下半身を使うっていう感覚が分からないんですが?」一つ一つの質問に身振り手振りを交え答えるイチローさん。


イチ流アドバイス「平常心では向かえない」

技術的な質問が多かったが、2年生の岩崎大悟選手は精神面を聞いた。
 


岩崎:WBCとか絶対逃げることのできない絶対大事な場面に直面してきたと思うんですけど。


イチロー:逃げたいけどね(笑)逃げたいんだよ、俺も。でも、やるしかないからさ。


岩崎:そういう時って最高のパフォーマンスをしなきゃいけないと思うんですけど、そういう時に成功するために考えていることがあれば教えて頂きたい。


イチロー:平常心で向かえないってことは知っておいてほしい。そこ目指す人、すごく多いんだよね、練習と同じようにって。できない、残念ながら。練習をゲームに見立ててってことは大事なことなんだけど、実際には限界があるでしょ。


岩崎:はい。


イチロー:ゲームを練習の一部って見立てられたら、それを克服できるかもしれない。ゲームが練習とはなかなかなれない。でも練習の一部だという考え方があれば、実際の本番でそれがいきるかもね。練習をいくらゲームで見立ててやっても、それは難しいと思う。練習には限界があると思う。実際のゲームでそういう気持ちになったら、まずそれで向かってほしい。


岩崎:はい。


イチロー:してほしくないのは、自分のリズムを壊すこと。プレッシャーがかかって緊張する。動揺する。で、いつもやってるリズム、打席までの歩数とか決まってると思うんだよ。自分のリズムを壊さない。それを絶対に守ってほしい。それを崩しちゃうと、打席に入った時にワケ分からなくなっちゃうんで。相手がいて、難しい状況があって。見た目は、平常心に見えるような動きを目指してほしい。そうすると打席に入った時に(ピッチャーは)、『あれ、なんか妙に落ち着いてるぞ』そういうことが出てくる。いつもの動きができないと、動きが違っちゃうと、全部が崩れるから。それは守って、自分のリズムを。


岩崎:それはやっぱりイチローさんがいつもやってるルーティンを。


イチロー:すごく大事。あとはベンチにいる時から難しい状況になることをイメージすることも大事。そうすると『あ、これ来たな、想定内だな』っていう風になれるから。『これ難しい場面になりそうだな』って、そういう気持ちで行くとネガティブな感じになる。難しい状況で自分が回ってくる。そういうイメージトレーニングはとても大事だと思う。そこで結果を出す、で、自信をつけていく。僕はそうやってやってきました。


岩崎:はい。


イチロー:最初からできたわけじゃない。いい場面で何回もやられてきたから。ほとんどやられてきたから。平常心で向かうっていうのは捨ててほしい。最終的にそれを繰り返してたら、そこに近づけるっていう話。怖くなくなる、その状況が。『よし、来いって』ゲームの中の一部が練習だって、その感覚が持てたらいい。その感覚を持てたらレベルが上がると思う。


トスバッティングでは「みんなのバッティングを見てたら、手でコントロールしてる人がすごく多い。僕は下半身を使ってる。足を使う」と言って、実際に自分のスイングをしてみせる。フリーバッティングでも、イチローさんは校舎越えの当たりを連発。「えぐっ!打球の上がり方が全然違う」打球の速さに目を見開く部員たち。


イチロー:大阪の強いチームとやるとさ、レフト前ヒット、ちょっとライン際で二塁打いかれるでしょ。それやられると、一気に自分たちとはレベルが違うって思わない?メンタルがやられるよんだよね。甲子園見てても多いよね、強いチームは狙ってくるし。一瞬でセーフになるって彼らは分かってる、肌感覚で。それくらいの差がある、現在地は。最初に話したことと繋がるけど。それは知っておいてほしい。何だったら大冠にそれをやってほしいんだけど、現状だと難しいと思う。


練習の最後も厳しい言葉で締めたイチローさん。「気になったのは上半身を使う選手が多い。今日家に帰って整理して、また明日やりましょう」と話し、部員たちは「ありがとうございました!」と一礼し1日目を終えた。


2日目は「お好み焼き」からスタート

2日目。グラウンドにいた1年生の酒井唯仁選手に取材スタッフが声をかけた。「憧れてた人だったので、初めて会えたのがとてもうれしくて、あんまり寝つけなかったです」と、目を輝かせて答えてくれた。


酒井君は、大阪の強豪私立から声がかかっていたにも関わらず、あえて公立の大冠に進学したという。「公立校っていうハンデがある中で、『私学強豪から眼中にない』っていうのは分かっていましたが、それをひっくり返すのも高校野球の醍醐味で面白さでもあるので、ひっくり返せるように力をつけたい」と、その思いを明かし「イチローさんとは今日が最後なので、盗めるものは全部盗みたい」と、力強く語ってくれた。


学校内のテントに鉄板が用意され、イチローさんが姿を現した。ムードメーカーの山崎君が、あるお願いをした。

山崎:イチローさん、お好み焼きを1枚焼いてもらっていいですか?


イチロー:いや、だからそのために来たから。知ってるよ、もう(笑)


部員たち:(爆笑)


笑顔を見せお好み焼きを焼き始めるイチローさん。なかなかのレアショットに・・・


イチロー:こういうの、メディアの人って喜ぶよね。昔から好きだよね。ハハハハ・・・。


2枚のコテでお好み焼きをひっくり返そうとするイチローさんに合わせて、部員たちが「ウォー!」と掛け声。するとイチローさんはコテを交差させて「タイム!」


部員たち:(爆笑)


見事にひっくり返したイチローさんに大歓声が上がる。和やかな雰囲気の中、2日目の練習がスタートした。


イチロー:野球は、投げるのも打つのも、ガチガチに力入れて力強い動きというよりは、スムーズな動き、軽く見えるけど、力は実際に伝わっていて、いいボールがいくし、いい打球がいくし、という所を目指してほしい。走るのも一緒。軽く走ってるように見えて速いね、バタバタ回転速いのに進まないな、ではいい動きとは言えない。そういうイメージを持ってもらいたい。大事だけどすごく難しい。


レジェンドの金言で一気に場の雰囲気が引き締まる。走塁練習に始まり素振りにキャッチボール、距離を取ってのスローイング練習。イチローさんはまず自分がやってみせて、その後、選手たちに投げさせる。晴天に恵まれ、額に汗を浮かべたイチローさんの丁寧な指導が続く。


イチ流アドバイス「ちょっとした光を求めてほしい」

そんな中、午前中にインタビューに答えてくれたショートを守る酒井選手が質問をぶつける。


酒井:僕、調子悪い時に沈んだ気持ちのまま次の打席に立っちゃうんですけど。


イチロー:よくありますね、それは。


酒井:イチローさんが調子悪い時、どういった気持ちで次の打席に向かっていきましたか?


イチロー:そんなこといくらでもあるし、普通のことだよね。結果出てなくて感触も良くなくて。次も順番回ってくるから。いっぱい経験するしかない。でもそこで『今日いいわ』ってなっちゃうと、何もない。結果出るはずもないし。ただ、その1打席で何かつかめる時もあるの。追い込まれた状況って、結果が出なくても『あ、この感触、ちょっと何かあるかも』って、つかめることがあるの。


酒井:(うなずく)


イチロー:そのきっかけは打席に入らないと獲得できないでしょ。逃げたら打席はないわけだから。そのちょっとした光を求めてほしい。無駄にしてほしくない。それは紅白戦であっても、公式戦でも、そういう気持ちで向かっていってほしい。


酒井:(うなずく)


イチロー:そうすると『何とかそのうちなるわ』って思ってる人の所には降ってこないから。苦しんで、そこに立つ人にしか、そういうものって降ってこない。苦しいけど頑張ってそれは。ちょっとしたきっかけをつかめるかもしれないって希望を持ってやってほしい。実際そういうことあるから。


酒井:(うなずく)


イチロー:僕は1番バッターだったので、多い時6、7打席回ることがある。5打席凡退して6打席目、立ちたくない。けど行かなきゃしょうがないから。


イチローさんから贈る言葉

そして2日間の練習を終え、イチローさんは部員たちに語りかけた。


イチロー:みんなポテンシャルは高い。努力もできる。体力もある。でも、格下もしくは同等の相手とやるイメージで練習してるように見えるんだよね。違うからね、みんなが目指してる所は。その気迫がなかなか伝わってこない。みんな勉強もしっかりやらなきゃいけない。野球やる時間も限られてる。場所も限られる。いやそんなことを知ったこっちゃないでしょ。だって目指してんでしょ。


公立校が強豪私学に挑むということ。イチローさんは生半可な気持ちでは、かなうわけがないと、厳しい言葉を述べた。


イチロー:この2日は刺激になった?どう?この空気を覚えておいて。1か月経って年が明けたら忘れてしまう。そういうことあると思う。それをチームメイト同士で『お前ちょっと違うんじゃないか』って、それできますか?みんなそれは約束してほしい。重要なのはみんなが目標に向かって頑張って、自分の限界、毎日限界を迎えるっていうのはなかなか難しいことなんだけど、それを重ねていったら、今日のみんなと夏を迎えた時のみんなは、今とはレベルが違う選手になって、人としてもすごく強く優しい子にもなれる、そういう経験を経て、結果が出たら最高だよね。


最後に、加藤日向主将(2年)が感謝の言葉を述べた。


加藤:強豪校からの目線というか、イチローさんの目線を僕らは知らなくて、そういう視点も知れたのが一番の収穫かな思います。イチローさんの貴重な2日間を預けてくださったことにしっかり感謝して、明日からの練習や日頃の行動にも活かして、結果として恩返しできたらいいなと思います。


イチローさんは「しっかり見ておくから。これからはしっかり大冠高校をフォローさせてもらう。そういう気持ちでいます」と言い残してグラウンドを後にした。


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