中国・江蘇省の専門学校で16日、男に刃物で切り付けられ8人が死亡しました。
ここ最近、中国では無差別殺傷事件が相次いでいますが、背景には何があるのでしょうか?
「私の死で労働法の改善を」 インターネット上に男の遺書か
南波雅俊キャスター:
中国で無差別殺傷事件が相次いでいます。
今回、事件があったのは、中国の江蘇省無錫市という場所です。職業専門学校で事件は起きました。
11月16日、21歳の男が構内にいた複数の学生らを刃物で切り付けました。8人が亡くなり、17人がけがをしました。男は、その日のうちに拘束されています。
香港メディア「朗報」によると、インターネット上に…
男(21)が書いたとみられる遺書
「毎日16時間働いているのに、給与を滞納されている。私の死で労働法の改善を進める」
動機について、中国当局は▼専門学校で卒業証書をもらえなかったこと、▼実習中の職場に不満をもっていたことなどがあるとみています。
9月18日以降、様々な事件が相次いでいます。
9月18日には深圳市で、男(44)が日本人学校で男子児童を刺し、男児児童が亡くなった事件がありました。9月30日には上海市で、男(37)がスーパーで客らを刃物で襲い、3人が死亡し、15人がけがをしました。
10月8日には広東省広州市で、男(60)が通行人3人を切りつけました。10月22日には浙江省寧波市で、男(50)が登校中の女児・母親を切りつけるということも起きました。
10月28日には北京市で、男(50)が小学校近くで子どもら5人を切りつけ。11月11日には広東省珠海市で、男(62)が車で暴走。35人が死亡し、43人がけがをしました。
3つの“失”が中国で社会問題に
南波キャスター:
相次いでいる背景に、東京大学大学院の阿古智子教授は「経済の悪化などで“閉塞感”が蔓延している」といい、3つの“失”が社会問題になっていると指摘します。
▼失業、▼精神の失調、▼人間関係の失敗が大きな要因ではないかとみています。
ホラン千秋キャスター:
いつ頃から、3つの“失”に対する不満みたいなものが大きくなり始めたのでしょうか。
東京大学大学院 阿古智子 教授:
コロナのときのロックダウンが長く続き、経済活動が停滞していって、その後も回復しない中で、徐々に深刻化していったと思います。
井上貴博キャスター:
基本的には中国共産党は、国内を締めつけると言われています。超がつくような監視社会で、徹底的に押さえつけるということだと思いますが、その分、暴発するリスクが高まると感じます。
しかも、人口は14億人います。北風と太陽だと、強い北風で押さえつけるしかないですよね。中国共産党が続く限り、その状況も続いてしまう気がします。
東京大学大学院 阿古智子 教授:
今までは、経済が良くなっていけば、そういう不安も徐々に解消されていったのですが、今はずっと引き締める一方なんです。
緩めてしまうと不満が出てきてしまうのでは、という気持ちはあるでしょう。悪い情報が出ても削除していきます。ナイフや車の暴走などでは、警察も間に合わないということで、そういう意味で社会的なメッセージを発する人が増えていると思います。
ホランキャスター:
その不満を抱えていても、それをどう表すか、どう解消していくかは、人それぞれだと思います。こういう事件が起きると、社会への報復の気持ちが連鎖していく部分はあるのでしょうか。
東京大学大学院 阿古智子 教授:
日本でも、連続した事件が起こったこともありますが、中国では日本みたいにメディアは自由に報道できません。消していますが、消しても消しても、どんどん不満が出てきてしまう状況があると考えられます。
数時間後、献花も撤去
南波キャスター:
中国での情報統制についてです。
東京大学大学院の阿古教授によると、「情報が拡散し、政権批判につながる恐れがあるため、中国では厳しく情報統制されている」ということです。
国営メディアは、現場の映像を報道しませんでした。一方、SNSに関連する動画などが投稿されていましたが、削除されていました。
ただ、中国のSNSのみならず、日本のSNSでも、事件現場の動画などはかなり拡散されていて、なかなか収拾もつかないような状況になっていると言えると思います。
政府として、より厳しくしようということで、事件現場の献花は、数時間で撤去されて、なかったことにしようとするような動きも見られています。
東京大学大学院の阿古教授は「中国政府が根本的な解決をしない限り、今後も同様の事件が発生する可能性はある」とみています。
中国の失業率(全国平均)は5.2%ですが、肌感覚でいうと、また違った声もあるそうです。
東京大学大学院 阿古智子 教授:
若年層の失業率はもっと高いです。政府系のメディアが非常に宣伝を重視するので、「データがおかしいのでは」という声も出てきてしまっています。
井上キャスター:
GDPもそうですが、中国が発表する国際的なデータは眉唾で見るべきだという声もありますが、いかがでしょうか。
東京大学大学院 阿古智子 教授:
そういうふうに疑われやすくなるんです。統制するということは、何か都合が悪いことを隠しているのでは、と思わせてしまいます。
信頼されたいのであれば、情報統制はやめるべきだと思います。
ホランキャスター:
根本的な解決のためには、どうすればいいんでしょうか。
東京大学大学院 阿古智子 教授:
やはり弱者の方々、景気の悪化で非常に苦しんでいる方々をサポートするセーフティーネットをもっと整備するべきです。
そのためには政府だけではなく、NGOや市民団体も自由に活動できるようにしなければいけません。ですが、そういった団体も統制されていて、一つ一つ閉鎖に追い込まれています。弱い人が相談できる窓口がないんです。
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<プロフィール>
阿古智子 さん
東京大学大学院教授
現代中国の市民社会・教育などを研究
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