上場を記念し、鐘を高らかに鳴らす…東京証券取引所の“上場セレモニー”のあのシーン。鐘を打つ木槌や参加者の胸に付けるバラなど…約30分の式典に密着すると、知らなかった東証のおもてなしが見えてきた。
【写真をみる】東証でのセレモニーの様子 社員たちの胸には赤いバラ 会社名入りの木槌も
“上場セレモニー”に密着 企業の門出を祝う演出
11月のある日、東京・日本橋の東京証券取引所のロビーに集まったのは、お揃いのパーカーを着た男女約30人。彼らはこの日、東証の特定投資家向けの株式市場「TOKYO PRO Market」に上場する会社の社員だ。どこかそわそわした様子ながら、ロビーは次第に熱気に包まれる。これから行われるのが“上場セレモニー”、取引を開始する日に行われるイベントだ。
セレモニーが行われる会場は、株価などの情報がぐるぐる流れる、あの“輪っか”=東証名物「チッカー」の目の前。ちなみにチッカーは1周約50mあるそうだ。
社長らはエスカレーターで2階から登場し、拍手で迎えられていた。社員たちの胸には赤いバラが添えられている。
「それでは式典を開催いたします」
司会のアナウンスと共に、チッカーが赤く点灯!「祝上場」の文字に拍手が上がる。上場通知書が社長に手渡されると、なんとも嬉しそうに社員の顔には笑みがこぼれた。
あの鐘を鳴らすのは…豪快な鐘の音に参加者びっくり
記念撮影が終わると、いよいよ“あの”鐘を鳴らす場面に…。鐘を鳴らすことに憧れを抱いている経営者もいるのではなかろうか。
司会
「5回鳴らして頂きます。市場が栄えますようにという願いと、本日上場された企業様のますますの発展をお祈りするものでございます」
さあ!いよいよ、鐘を豪快に鳴らして頂こう!
と、ぶっつけ本番かと思いきや、始まったのは司会の女性によるリハーサルである。
「御社のお名前が木槌に入っております。カメラマンに見える角度でお持ちください。写真が終わりましたら、1回打鐘をしていただきます。このカーブのあたりがいい音が鳴ると言われております」
アナウンサーさながらの滑らかな語り口で、木槌の向きや打つコツを解説する司会者。普段は見学ツアーを担当している東証の職員だという。
丁寧な解説も終わり、いざ本番。まずは社長から木槌を手に取り…カーン!
そのあとも、代わる代わる鐘を鳴らしていく。中には、あまりに大きな鐘の音にのけぞる人も。
鐘を鳴らした参加者
「感激しちゃいました。結構音が大きい」
上場に至るまでの苦労を噛みしめた参加者たち。短い時間ながらも濃密なセレモニーの裏には、東証のおもてなしへのこだわりがあった。
セレモニーの裏で…東証のおもてなしの数々
まずはセレモニーで使用された、会社名入りの木槌だ。
実はこれ、東証が上場企業のために特別に用意しているもの。セレモニーに使われた後は、記念品として企業にプレゼントされる。見学者用に展示されている木槌を持ってみたが、かなりずっしり。立派な木槌である。(担当者の方にダメ元で値段を伺ったが…ダメでした。そりゃそうです)
この粋なプレゼントは、企業にも大好評。ネットで「東証 上場 木槌」と検索してみると、様々な上場企業がセレモニー後も社内で大切に飾っている写真が出てくる。
ほかにも、記念撮影時に社員たちの胸元を彩った赤いバラ。木槌のようにプレゼント、というわけにはいかないが、これも東証側が貸出用に用意したものだ。
上場セレモニー 担当者
「”セレモニーらしさ” を演出させていただいている。赤いバラをつけていただいた方が『セレモニーが始まるな』って感じていただけるのかなと」
ちなみに東証の職員の胸にも白いバラがつけられているが、参加者がつけている赤いバラのほうが“本物らしく”見えるよう、高級感を大事に作っているという。雰囲気にもこだわって作ったというバラのコサージュはたしかに、この祝いの場を美しく引き締めてくれていたように感じた。
”ひとつひとつ丁寧に” こだわりのおもてなしのワケ
司会にカメラマン、通知書に加え、立派な木槌やコサージュも…。東証側の気合が伝わるセレモニーだが、実はすべて無償でやっているという。
上場セレモニー 担当者
「思い出に残るようなセレモニーにするために、ひとつひとつ丁寧におもてなしさせていただいています。みなさま色々ご苦労があって上場されていると思いますので、その記念すべき日に鐘を叩いていただき、みなさまで上場の喜びを分かち合っていただけたら」
「閉館後にこっそり鐘を叩いたことは…?」と聞いてみたが…
「とんでもない。上場するからこそ叩けるものなので」
たくさんの苦労を乗り越えた先にある、会社関係者全員にとっての記念すべき日。そんな1日を演出すべく、きょうも東証では鐘が鳴る。
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