
ロシアによるウクライナ侵攻から4年半を迎えます。
ドローンが大きく戦況を変える中、日本企業にも軍事ドローンに参入する動きが相次いでいます。一方で、戦場でドローンは、新たな傷も生み出しています。その実態を取材しました。
【写真を見る】新たな主戦力「ドローン」で変わる“戦争の恐怖”と“見えない傷” 防衛構想で加速する日本企業の「軍事ドローン」事業への参入【報道特集】
「無数に飛んでくる」 激化するドローン攻撃
群馬県桐生市にある、ウクライナ料理店「キッチン ウクライナ」。
鮮やかな赤いビーツに、肉と野菜が煮込まれた郷土料理ボルシチ。この店は、ウクライナから避難してきたナタリヤさんが2024年にオープンした。
母国で40年シェフを続けてきたが、ロシアによる侵攻が始まってまもなく、日本に暮らす長女を頼って避難してきた。
ウクライナから避難 ナタリヤさん
「私は日本が大好き。人が良くて、とても友好的だからです」
仕事の合間、故郷の親族の安否を確かめる日々が続いている。
電話の相手は、ウクライナ西部・テルノーピリに暮らす姪のラディアナさん。ほんの数時間前までサイレンが鳴っていたという。
ナタリヤさん
「サイレンが鳴った時は寝てたのですか」
ナタリヤさんの姪 ラディアナさん
「サイレンで起こされて、ミサイルの音が聞こえてきました。すぐにテレグラム(アプリ)でミサイルがどこへ向かっているのか確認しました」
電話の直後にも、ラディアナさんの自宅周辺ではサイレンが鳴り響いた。前の日から眠れない夜を過ごした。
2025年11月、テルノーピリではロシア軍による攻撃を受け、26人が死亡した。破壊された住宅に住むナタリヤさんの友人も巻き込まれ、命を落とした。
攻撃の中心となったのは、ロシア軍の470機以上のドローンだった。
ラディアナさん
「激しい空爆はいつも夜にあります。明日の事をどうしようか考えられる日なんて、ありません」
2025年6月にラディアナさんが撮影した映像には、自宅上空をドローンとみられる多数の物体が飛び交う様子が映されていた。
――戦争が始まって4年半、現状は?
ラディアナさん
「いま、ドローンがすごく増えています。大規模な攻撃の時は、無数に飛んできます。すごい音と共に落ちてきて、爆発するのです」
“ドローン”が戦場の主力に 4年半で機数が5800倍ほど増加
ロシアによるウクライナ侵攻から4年半。いま、ロシアとウクライナの間でドローンによる攻撃が激化している。
6月、大統領府があるモスクワのクレムリンからわずか16キロ、ロシア最大級の製油所がドローンの攻撃対象に。施設の上部が吹き飛び、立ち上る黒煙は雲の高さまで達した。
撮影者(8月13日)
「あっちからも、こっちからも飛んできている」
ロシアの「Amazon」と言われるネット通販大手「ワイルドベリーズ」の倉庫を破壊したのは、ウクライナのドローンだ。8月15日夜から16日の朝にも、ワイルドベリーズの倉庫がウクライナのドローン攻撃を受けた。
600機のドローンが飛来したといい、ロシア国営のタス通信は過去2年間で最大規模だったと報じた。
ウクライナが標的にしたワイルドベリーズの倉庫は7か所で、ロシアとウクライナ国境から約1800キロ離れた倉庫もあった。これは東京から沖縄宮古島までの距離とほぼ同じだ。
民間企業の倉庫を攻撃した理由について、ゼレンスキー大統領は…
ゼレンスキー大統領
「これらはロシアの戦争のための物資。ドローン製造などのための部品が供給される倉庫なのです」
ウクライナはドローンの生産能力を強化している。
ロシアの侵攻が始まった当初、年1200機程度だったが、2026年は700万機で、実に5800倍になる。
一方、ロシアも大規模な攻撃を繰り返している。
8月5日には、ドローンや弾道ミサイルを使って、首都キーウなどの民間企業の倉庫や商業施設を攻撃したことで、17人が死亡、44人が負傷したという。さらに21日には、ゼレンスキー大統領の出身地でもある中部の町、クリヴィー・リフにあるショッピングモールがドローンの攻撃に遭った。
これまでに15人が死亡し、子供を含む130人が負傷したという。
ロシアによる空からの攻撃のうち、ドローンが占める割合は2022年は約4割だったが、2026年現在は約9割になっているという。
まさにドローンが戦場の主力になっているのだ。
“防衛戦略の見直し”迫られる日本 ドローンで国を守る「シールド構想」とは
新しい戦い方が広がる中、日本も防衛戦略の見直しを迫られている。
8月に公表された「防衛白書」。ロシア・中国・北朝鮮などを念頭に、大量のドローンを使って国を守る「SHIELD(シールド)」構想を打ち出した。
空中や水上・水中でドローンを使い、敵の艦艇や無人機を迎え撃つという。
政府は2026年度、シールド構想に約1000億円の予算を計上。異例の早さで2027年度中には、数千機規模の無人機を日本の沿岸に配備する計画だ。
小泉進次郎 防衛大臣
「新しい守り方という観点からも、国産ドローンをいかに持てるかということは重要で、その国産ドローンを大量に運用していく」
政府が導入を推し進める軍事ドローンの分野には、いま、国内企業の参入が相次いでいる。防衛装備庁の迎撃ドローン計画には38社の応募があり、4社が実証試験に進んだ。
そのうちの1社が報道特集の取材に応じた。
防衛分野に初参入の民間企業 日本のドローン開発の“遅れ”指摘
都内にあるスタートアップ企業「エアモビリティ」。空飛ぶクルマや、産業用ドローンの輸入販売などを手がけてきたが、今回初めて防衛分野に参入した。
エアモビリティ 浅井尚 社長
「防衛省のOBは1人もいないし、過去に防衛省との取引もない。こんなスタートアップとかベンチャーが行ってもしょうがないだろうと思い、あまり本気にしてなかったが、今年1月ぐらいから防衛省から、『迎撃ドローンが作れるようなところはどんどん提案してくれないか』と」
エアモビリティが提携する海外ドローンメーカーの一つ、ポルトガルのビヨンドビジョン社。軍事ドローンはすでにポルトガル軍に採用されていて、NATO経由でウクライナの戦場にも投入されているという。
今回、実証試験に使われたのは、ビヨンドビジョン社が新たに開発したAI搭載の迎撃ドローンだ。
エアモビリティ 浅井社長
「カメラがついてて、カメラ認識をして。(敵を)ロックオンしたらあとは追っかけていく。ドローン攻撃が来たときに『お前はここに(迎撃に)行け』という指示は、人が出さなきゃだめ。行った先は(ドローンが)自分で迎撃する」
こうした軍事ドローンは、驚くほどのスピードで進化しているという。
エアモビリティ 浅井社長
「一番有名なのが『シャヘド136』という、イランが開発してロシアに輸出して、ウクライナに打ち込んでいるやつ。あれがついこの間までは時速200キロだった。8月になったら時速500キロの攻撃ドローンが出てきている」
「アメリカ、ウクライナ、イラン、イスラエルが本気で開発している。ヨーロッパもNATO経由でやっている。日本がかなり置いていかれている」
――今回は“迎撃用ドローン”だが、“攻撃用ドローン”事業をやるつもりは?
「そこは慎重な判断をしたい。攻められてきたら守るというのは、社会的な意義があるかなと思う。撃たれてきちゃったら、迎撃しない限りはどこかが被害を受ける」
日本にも押し寄せる軍事ドローン開発の波。今週、あの楽天グループが動きを見せた。
ドイツのヘルシング社と提携して、自衛隊への軍事ドローン導入を目指し、国内での量産化も検討しているという。
楽天のコメント
「ドローンは社会の防衛に寄与する。今後も防衛産業のイノベーション促進に貢献してまいりたい」
これに対して、「通販生活」を運営するカタログハウスは、「『憲法九条』に託した非戦の誓いを守る」という企業理念に相いれないとして、楽天市場への出店中止を発表している。
国内企業の軍事参入「日本は岐路に」専門家が指摘 “許容できる倫理的な基準”とは
安全保障が専門の拓殖大学の佐藤丙午教授は、防衛産業への民間企業の関わりについて、日本はいま岐路に立たされていると指摘する。
拓殖大学 佐藤丙午 教授
「民間企業が兵器生産に関与することについては、これまでの日本国憲法の平和主義の考え方の下で、抵抗感を持つのはすごく理解できるんですけれども、これまでの伝統的な防衛産業だけでいいのか、それとも情報テクノロジー企業を含めた広範な民間企業に依存していく形に転換していくのか、いま大きく分かれ道として示されている」
――軍事ドローンが日々進化していく中で、今後の問題点はどうお考えですか?
拓殖大学 佐藤教授
「兵器システムにおける倫理的な側面というのは、常に兵器システム開発の中核にあることは間違いない。作戦の仕方・運用の仕方によって、倫理的にもなるし、倫理的にもならないとなったときに、どこまでが許容できる倫理的な基準なのか十分に考えておくべき」
人々を脅かす新たな兵器 ドローン攻撃が残す“見えない傷”
ドローンという新たな兵器の登場は、人々の体や心を新たな脅威にさらしている。
訪ねたのは、ウクライナの国立リハビリテーションセンター。現在、戦闘で心身に傷を負った兵士や民間人300人以上が入院・通院している。
この施設に通う兵士のミコラさん(33)は、神経を損傷した左足の治療とPTSD(心的外傷後ストレス障害)のリハビリを続けている。
激戦地の南部ザポリージャ州で前線に配置されたが、2024年3月にドローン攻撃を受けて負傷した。
――何が起きた?
ウクライナ兵 ミコラさん
「私が走って移動していたとき、敵のドローンが追いかけてきて、左足から70センチほどのところで爆発したのです」
左足に重傷を負い、捕虜となったミコラさん。治療は一切受けられなかった。2025年6月、捕虜交換で解放された後に、医師からPTSDと診断された。
原因のひとつにドローンの影響があると話す。
ミコラさん
「ウクライナに戻ってから半年ほどは(ドローンが襲ってくるのではという)緊張が消えず、様々な音に反応しては、(ドローンではないかと)周りを確認していた」
――どんな感情になる?
「攻撃的になる。腹が立って、“どこだ、なぜドローンが飛んでいるんだ”、“誰が許可したんだ”と反応してしまうんです」
こうした精神疾患について、薬物療法で治療できるのは2割程度。残りの8割は、心理療法や最新の神経科学的治療が必要になるという。
このセンターで、ドローン攻撃などの要因でPTSDとなった患者たちに行われるリハビリのひとつが「ニューロフィードバック療法」。脳波をリアルタイムで測定しながら、脳の働きを整えるトレーニングだ。
治療開始前の男性の脳の活動状態のマップ。緑は正常で健康的な状態、黄色や赤は脳活動が過剰になっていることを示す。
トレーニングでは、黄色や赤を減らし、緑の部分を増やしていくことを目指す。
画面に意識を集中させ、黒い枠の外側に緑の円を安定的に出すことが望ましいが、リハビリを受けている男性は、黄色の円が現れることが多い。集中力が途切れた状態になるのだ。
――疲れましたか?
治療を受けている男性
「ええ、それなりに。集中するのはとても難しい」
爆風の衝撃などでダメージを受けた脳の神経回路を構築し直し、不安やストレスの軽減につながると期待されている。
戦闘の長期化で悪化する心の傷 軍人・民間人の自殺未遂が増加
ドローン攻撃による、民間人への被害も拡大している。
8月、ウクライナ国家警察が公開したのは、ドローンが野菜売りの男性を追い回した末に、爆発する瞬間の映像。
野菜を売っていた男性
「持っていた2つのニンニクをドローンに見せました。『ここには野菜しかない』と知らせたのに追いかけてきたんです」
男性は脳震とうを起こし、足や背中も負傷した。
ウクライナの発表によると、侵攻開始以来、ロシアによるドローン攻撃で民間人967人が死亡、約7000人が負傷している。
ロシアの侵攻開始から4年半が経ち、いまだに出口の見えない戦争。
国立リハビリテーションセンターで治療に携わる医師は、7月から軍人や民間人の自殺未遂が増え始め、人々の心の傷が悪化していると指摘する。
国立リハビリテーションセンター オレフ・ベレズク医師
「過去の戦争では、開戦から5年6年と経つにつれ、自殺未遂や死にたい思いを抱える軍人や民間人が著しく増えることがわかっています。継続的な緊張と、アドレナリンなどの過剰分泌による疲労が心身のエネルギーを枯渇させてしまうのでしょう。私たちにとって、これは新たに大きな課題になりつつあります」
「故郷に帰りたい」「ウクライナに安らぎ戻って」 避難者の思い
戦火を逃れ、ウクライナから避難してきたナタリヤさん。2023年、一度ふるさとへ戻ったことがあった。しかし、そこで待っていたのは…
ウクライナから避難 ナタリヤさん
「あのサイレンの音、本当に恐ろしいです。あちこちで鳴って、おかしくなりそうでした。明かりを消して、光が漏れないようにしなければならないんです。本当に大変です。うんざりして、とにかく早く、明日にでも日本に戻りたいと思っていました」
自宅から5分ほどの所にあった町の墓地には、戦場で命を落とした多くの兵士たちが眠っている。
ナタリヤさん
「若い人たちが死んでいっています。ただ単に殺されてしまうのです。戦争が早く終わり、ウクライナに安らぎが戻ってほしいです。みんな自分の故郷に帰りたいんです」
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