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「関税とコメ高騰で二重苦」老舗酒蔵の嘆き…“トランプ関税”に翻弄される国内企業【Bizスクエア】

経済
2025-04-16 07:00

相互関税の「上乗せ分」は延期になったが、「自動車などへの追加関税」と「一律10%の相互関税」は発動されたまま。理不尽なトランプ関税に苦悩する現場を取材した。


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対中国「145%関税」も大きな痛手

「乗り心地を良くしたい、走りを良くしたい、見た目を良くしたいという車好きの客が全世界にいる」


設立40周年を迎えた自動車部品メーカーの『テイン』(神奈川・横浜市)では、車のサスペンションを専門に扱っている。
売り上げの半分以上が国外への輸出で、アメリカがそのうちの4分の1を占めるという。


工場は日本と中国にあるが、アメリカ向けの製品は全て中国で生産し直接輸出しているため、アメリカの【中国への関税率145%】は大きな痛手となる。


『テイン』執行役員・渡邊宏尚さん:
「客に売るための販売価格にどうしても影響が出てくる。アメリカの客は非常に価格に敏感で、おそらく売り上げ自体は厳しくなる


今後の対応策としては、
▼アメリカ向けの製品⇒日本での生産に切り替え
▼中国で作った製品⇒東南アジアなど他の国に輸出する予定だという。


渡邊さん:
「中国の工場は生産キャパに余剰が出るので、もっと付加価値の高い製品の生産もできる。なので高付加価値の製品の生産を増やすなど、全体のバランスはとっていける」


「アメリカでの生産拡大」に残る問題

一方、アメリカでの生産拡大を模索し始めたのは自動車部品メーカーの『ユニバンス』(静岡・湖西市)だ。


変速機などの部品を生産し、国内では「日産」・海外ではアメリカの「フォード」との取引が多いという。


2023年度の売り上げ約530億円のうち約4割が北米向け。そのうち1割はアメリカの工場で生産、残りの3割は日本やタイの工場で生産し、自動車メーカーを通じてアメリカへ輸出されている。
まだ関税による影響は出ていないものの、懸念は広がっている。


『ユニバンス』執行役員・大石哲司さん: 
「取引先の自動車メーカーから原価低減・コスト削減の依頼がおそらく来るのではと想定している」


関税がかからない「アメリカでの生産拡大」も検討し始め、
▼アメリカ国内で仕事の範囲を広げたり、高度なものを生産できるようにする
日本で作っている製品をアメリカでの製造に移管するなど、様々なプランを考えているというが、問題もあるという。


大石さん:
サプライチェーンがうまく成り立つかという問題は残る。明日からできるというものではないので、4~5年くらいかけてということになる」


朝令暮改の“トランプ関税”「正しい情報がわからない」

ジェトロ(日本貿易振興機構)では、関税の影響を懸念する日本企業などを対象に2月から相談窓口を設置しているが、相談件数が急増。4月頭までは約400件だったが、相互関税の発表から約10日間で1000件を超えたという。


『ジェトロ』調査部 米州課長・伊藤実佐子さん:
日本の主幹産業である自動車・同部品業界からの問い合わせが多くなっている。不安も大きいが、まず正しい情報がわからないと。正確な情報を提供することにより、海外ビジネスがうまく動くようにするのがジェトロの一義的な使命となっているので、そこに注力をしていきたい」


関税とコメ高騰で「まさに二重苦」

湯気が立ち上る大きな蒸米機。そこから職人たちが手作業で蒸し上がったコメを掘り出していく。


「今やっているのは蒸上った酒米を放冷機に入れる作業。コメの量は1トン弱ぐらいで、結構体力がいる」


創業123年の歴史を誇る酒蔵『南部美人』(岩手県・二戸市)も苦悩を抱えている。


5日から発動された【一律10%の相互関税】の対象には日用品や食品なども含まれ、日本酒もその対象になっているからだ。


日本の「伝統的酒造り」は2024年12月にユネスコ無形文化遺産に登録され、日本酒業界には大きな追い風となっていたが、“トランプ関税”という逆風が吹いた形だ。


『南部美人』五代目蔵元・久慈浩介さん:
「実際輸出量も増えてきて、これからだというところだったのに、え?みたいな感じ。自動車とか鉄鋼はアメリカの国内産業を脅かすのは分からなくもないが、日本酒は日本でしか造れない。ここにも関税がかかってきてどうするんだろう、アメリカがそれで何か発展するのかなというのはちょっと不思議」


看板商品の「南部美人」は現在63の国と地域に輸出していて、その中でも最も多いのがアメリカだ。


久慈さん:
「一番最初に輸出をした国がアメリカで、30年近く徹底してやってきていることもありアメリカはすごく大事な場所。関税が高くなると、買い控えが起きたり、そもそもレストランで日本酒を飲む人も減ってしまうのではないか」


アメリカで人気の「南部美人 特別純米酒」(720ml)は日本で2134円だが、現在アメリカのレストランでは70~90ドル(約1万~1万2800円)で販売されている。


一律10%の相互関税による値上げは「今のところ考えていない」と言うが、もし上乗せ分も含め24%の関税となると、現地では最低でも100ドル(約1万4200円)ほどに価格が上がる可能性があるという。


さらに、頭を悩ませるのが原材料のコメの高騰だ。


久慈さん:
「コメが高いから今日はパン、今日はパスタと逃げることができるが、我々日本酒業界は日本産のコメを使わないと日本酒とGI(地理的表示)で言えない。日本中の全ての蔵が負っているダメージで、輸出の関税も含めてまさに二重苦。今一番苦しんでるのは日本酒業界ではないかと思う」


「トランプ氏を責めて」と“値上げ”も必要

すでに自動車などに発動されている“トランプ関税”は、今後もさらに増える予定だ。


【鉄鋼・アルミニウム】(3月12日発動)⇒25%
【自動車】(4月3日)⇒25%(これまでの2.5%とあわせて27.5%)
【相互関税】(4月5日)⇒全ての国・地域が対象の一律10%(上乗せ分は90日間の猶予)

▼自動車部品⇒5月3日までに25%の追加関税を発動予定
▼医薬品・半導体・銅・木材⇒時期未定


企業の対応策としては「値上げ」か「コストで吸収」のどちらかだが、値上げは現地での販売減に繋がるジレンマがある。それでも経済ジャーナリストの磯山友幸さんは、値上げも必要ではと話す。


磯山さん:
「コストで吸収となると人件費や原材料費を削るということで、また『従業員の人件費を削るのか』とか『下請けをいじめて価格を下げるのか』という話になる。今ちょうど価格転嫁をして給料を上げましょうと言ってるのに、それと真逆のことになる」


ーー自動車メーカーでは当面価格を上げず、コストで何とか調整と言っている社もあるが、そうなると下請け業者も同じようにせざるを得なくなる。


磯山さん:
「結局しわ寄せは中小企業に行く。なので、むしろ良いものを売っているという自信があるのなら、値段を上げる。ましてや関税はこっちが決めたことじゃなくてアメリカが決めたことなので、『トランプ氏を責めてください』と言うのが正しい交渉術だと思う」


(BS-TBS『Bizスクエア』 2025年4月12日放送より)


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情報提供元:TBS NEWS DIG Powered by JNN

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