
原油価格が高止まりするなか、「インフレ加速」と「景気の悪化」という二つの心配に、日米の中央銀行のトップは?そして日米首脳会談の成果は?
【写真を見る】中東情勢に揺れる日米金融政策…「インフレ加速」と「景気悪化」2つのリスクにどう対処?【Bizスクエア】最終回
日本では「トリプル安」
エネルギー施設への攻撃の応酬が激しさを増している。
18日、イスラエルはイラン南部にある世界最大規模のガス田の関連施設を攻撃。
イランは報復としてカタールのLNG(液化天然ガス)の関連施設を攻撃した。
イラン情勢の緊迫化を受けアメリカのWTI原油先物価格は18日、一時1バレル=100ドルを突破。
日本では19日、株・円・債券がそろって売られるトリプル安の展開となった。
▼日経平均株価⇒一時2000円以上値下がり
▼円相場⇒1ドル160円に迫る円安水準に
▼新発10年物国債利回り⇒2.260%(前日比+0.055%)
また、18日に発表されたレギュラーガソリンの全国の平均小売価格(消費税込み)は「1リットル=190円80銭」と、前の週と比べ29円値上がりし“過去最高を更新”した。
米パウエル議長の“インフレへの警戒感”
インフレリスクの懸念が高まるなか日米の中央銀行が決めたのは、「政策金利の現状維持」だ。
18日、アメリカの中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)は政策金利を3.5~3.75%に据え置くことを決定。
原油高が経済・物価に与える影響についてパウエル議長は「中東情勢が米経済に与える影響は不確実だ」とし、年内あと1回とされている利下げについてだけでなく、“利上げの可能性”についても言及した。
<FRBパウエル議長発言>18日
▼インフレ鎮静に進展が見られなければ“利下げは実施しない”
▼“利上げ”を実施する可能性についても議論した。“選択肢としては排除していない”
▼“高インフレが常態化する”という見方が広がることを非常に懸念している
パウエル議長の発言には「インフレへの警戒感」が強く表れていると話すのは、金融・財政政策が専門の矢嶋さんだ。
『ニッセイ基礎研究所』エグゼクティブ・フェロー 矢嶋康次さん:
「景気の面も心配だけど、インフレが起こってしまうと長期金利が上がる。今のアメリカ経済は株でもっている。その株のど真ん中がAIで、金利上昇などで弱くなると結局景気後退になってしまうのでインフレには非常に強い警戒感がある。でもどうしたらいいのかよくわからないという状況だと思う」
米FRB「利下げは難しいのでは」
FRBが発表した最新の経済見通しでは、2026年と27年のインフレ率を上方修正している。
<米国 物価上昇見通し>
【2026年】2.7%(2025年12月比+0.3%)
【2027年】2.2%(2025年12月比+0.1%)
FOMCメンバーによる政策金利の見通しを示すドットチャートを見ると中央値は3.4%。25年12月の発表と同じで「年内の利下げは1回」というシナリオは変わっていないものの、19人のメンバーそれぞれの予想をみると、「年内利下げなし」とした人が7人もいる。
――決定会合の参加者たちの中では、今までよりインフレ警戒的な人が増えてるということか
『第一生命経済研究所』首席エコノミスト 熊野英生さん:
「2026年末の物価上昇率の見通しが2.7%。2%が基準であればそれを0.7%も上回る。まだ消費者物価などのデータは出てきていないが、まずアメリカでは車社会の中でガソリンが上がっている。さらに色々なアンケート調査では、インフレ圧力がすごく高まるというシグナルが出ているので、ちょっと利下げしにくいのではと思う」
日銀は景気と物価どちらを重視?
一方日銀も19日、政策金利を現在の0.75%で据え置き、利上げを見送った。
植田総裁は「原油価格上昇に伴う“リスクシナリオが新たに登場した”」とし、原油高が物価にもたらす影響については上振れと下振れ、両方のリスクを指摘した。
植田和男総裁:(19日)
「原油高で景気に下押し圧力がかかり需給ギャップが悪化すれば、基調的な物価上昇率を下押しする要因となる。一方で、原油価格の上昇・円安が人々の中長期的な予想物価上昇に繋がれば、基調的な物価上昇率の押し上げに作用する」
その上で今回の会合では“上振れを警戒する委員が多かった”と述べた。
<日銀 植田総裁発言>
▼見通しが実現する可能性の確度が少し低下し、シナリオリスクが高まった
▼基調的な物価上昇率への影響は“上下双方向に変動しうる”
▼“上方リスクを重視したい”という方が多かった印象だ
――要は今の原油高が続くと景気を下押しする圧力もあるし、物価が上昇して基調物価を上げるという両方があり得ると。景気下押しと物価上昇のどちらを重視するかは『一概に言えない』と答えている。パウエル議長がインフレ警戒的なのに対し、植田総裁は両方見ている感じか
『ニッセイ基礎研究所』矢嶋康次さん:
「アメリカの場合はガソリン価格が問題だが、日本の場合は原油が入ってこないという問題が現実的に起こる。もう一つは、日本はアジアの中でサプライチェーンをものすごく組んでいるが、アジアも今同じ状況。部材が入ってこないことも考えられ、景気が下押しされる可能性をすごく警戒しているのではないか。そういう意味では、アメリカ以上に“価格+量の問題”というのをニュアンスとして出しているのだと思う」
『第一生命経済研究所』熊野英生さん:
「高市総理が利上げに慎重なので、日銀としても物価の上昇よりは景気が悪化する方に視点を置きながらと。私は4月末の決定会合では利上げすると思うが、そのためには高市さんという壁を突破しないといけない。『景気悪化について十分配慮しながら、でも円安が進みすぎないように行動する』ということをこれから伝えていくのだと思うが、日銀がここで物価上昇を抑える盾にならなければいけない。そういう局面だ」
――『物価上昇の上方リスクを重視したいという人が多かった印象だ』というのは、何かにじみ出したかったのだろう。日本の場合は原油価格の影響がアメリカよりも大きく出るだろうし、世界経済が悪くなったときも日本はダメージが大きい
矢嶋さん:
「ダメージが大きいが、一番の問題は誰に聞いても原油がいつ下がるかわからない。そうすると政策担当者は何もできない。ここが今最大の課題になっていると思う」
日米首脳会談
外交面でも難しい舵取りが迫られる中、19日日米首脳会談が行われた。
<日米首脳会談>
▼中東地域の平和と安定に向け“日米間で緊密に意思疎通”
▼“対米投資第2弾 約11兆円の投資”(小型モジュール炉、天然ガス発電施設の建設)
▼南鳥島周辺海域の“レアアース開発協力”
▼米国産エネルギーの生産拡大協力
▼中国をめぐる諸課題について“日米で緊密に連携”
――ホルムズ海峡への艦船の派遣問題。高市総理は「法律上できることとできないことをきちんと説明した」というが、米側は何か求めてきたのか?あるいは今後何かを求められるのか?
ワシントン支局・涌井文晶支局長:
「会談非公開の部分でもトランプ大統領からすぐに艦船を出してくれというような直接的な言及はなかったようだ。またトランプ大統領は一夜明けた20日にFOXニュースの取材に対し『日本は憲法上の制約がある』と話していて、高市総理の発言にも耳を傾けた様子はうかがえる。ただその後、日本・中国・韓国・ヨーロッパを再び名指しして『ホルムズ海峡の警備にあたる必要がある』と強調した。トランプ政権は日本の海上自衛隊が機雷の掃海に非常に高い能力を持っていると認識していて、今後も機雷の掃海について日本への期待は引き続き高い」
――経済関連では対米投資80兆円枠の第2弾が決まった。今回もエネルギーと経済安保に焦点を当てたものが多かったようだ
涌井支局長:
「レアアース関連のサプライチェーン強化などは、もともと中国への対抗で今回の会談でのメインテーマになるはずだった。中国と向き合う上でレアアースの問題はアメリカ最大の弱点の一つ。中国依存度を下げる取り組みは日本がかなり先行しているので、日本と協力体制を作れるというのはアメリカ政府にとっても大きな成果だと捉えられている」
また、エネルギー関連の投資案件では「AIにより増大するアメリカの電力需要に対応する」という方向性で、需要はある一方で課題もあるという。
涌井支局長:
「今回案件に入ったSMR(小型モジュール炉:小型の核分裂炉で一般的な原子力発電所の出力が1基100万キロワット程度であるのに対し、SMRは30万キロワット以下で熱出力が1000MWth未満の炉。三菱重工が開発中)は、現在実用化されているものがない。日本の民間金融機関からは『普通に考えると融資できる案件ではない。これを前に進めるのか』という慎重論も出ていた。また投資の規模は第1・第2弾合わせて1000億ドルになったが、アメリカ企業が中心で日本企業はあまり前面には出てきていない。日本政府はかなり前のめりに進めているが、日本企業は少し引いているように見受けられ、官民の温度差が大きくなっていると感じる」
――アメリカの二転三転する関税政策については、高市総理は何も話さなかったようだが、その理由は?
涌井支局長:
「会談を終えた後の日本政府の説明でも、首脳間では関税については話題にしなかったということだ。既に赤沢大臣がラトニック商務長官に『去年の日米合意よりは不利にならないようにしてくれ』と申し入れていることもあり、日本としてはその反応を待っている状況。またトランプ大統領は相互関税の最高裁による違法判決に非常に強い怒りを持っている。話題を持ち出すだけで不機嫌になってしまって会談全体の流れに影響する懸念もあり『首脳間でわざわざ持ち出さなくてもいいのでは』という判断がされたようだ」
(BS-TBS『Bizスクエア』 2026年3月21日放送より)
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