国内
2026-10-30 08:10
味噌汁にご飯を入れる“ねこまんま”は、行儀が悪い――。子どもの頃にそう言われた人も多いだろう。その“タブー”を、大手食品メーカーが正面から商品化した。永谷園が発売した『カップ入り あさげのごはん』だ。ロングセラーの即席味噌汁「あさげ」にご飯を合わせたカップご飯に、SNSでは「ねこまんま…?」「お行儀が悪い気がしてしまう」と戸惑う声も上がった。だが同社によると、否定的な意見はわずか0.07%にとどまったという。長年タブー視されてきた“ねこまんま”は、なぜあっさりと受け入れられたのか。同社マーケティング本部の担当者に聞いた。
【写真】トレードマークは変わらず? 発売当初約50年前の「あさげ」パッケージ
■否定はごくわずか “隠れ味噌汁ごはん派”に与えた「免罪符」
『カップ入り あさげのごはん』は、即席みそ汁「あさげ」の味わいと安心感を活かしながら、国産米のごはんを組み合わせたカップ入りの「御味噌汁ごはん」だ。
商品発表時にはSNS上で、「あさげは米に合う」「朝ごはんにもぴったり」といった声が寄せられた一方、「お行儀が悪い気が…」「大手メーカーがやっていいんだ」など、商品の意外性も指摘されていた。
味噌汁にごはんを入れる食べ方は昔から「ねこまんま」と呼ばれ、マナーの観点から半ばタブー視されてきた。同じように汁とごはんを合わせる雑炊やお茶づけは批判されないにもかかわらず、なぜ“ねこまんま”だけが行儀が悪いとされるのか。
理由の一つは、ねこまんまが「別々に出された料理を混ぜた食べ物」だという点にあるだろう。本来は分けて出される味噌汁とごはんを、残り物のときや、別々に食べるのが面倒なときに一緒にしてしまう。その“手抜き”のような行為が、行儀の悪さとして受け取られてきた。さらに、混ぜてしばらくするとごはんが汁を吸ってふやけてしまったり、見た目も崩れる。永谷園も、発売後の反応には懸念を抱いていたという。しかし、ふたを開けてみると、反応は予想とまるで違った。同社マーケティング本部の小田友紀子さんはこう語る。
「発売してから、否定的な意見も覚悟はしておりましたが、実際のところ思ったより少なく、『最近食べてないけど、美味しいよね』とか、『こんな商品欲しかった』と嬉しいお声をいただいています」
同社の事前調査では、「御味噌汁ごはんを食べたことがある」と答えた人が約8割にのぼる。SNSで「実はいつも自分でやってる味」という声が上がったように、表向きは“行儀が悪い”とされながら、多くの人がそのおいしさをひそかに知っていたわけだ。そこへ大手メーカーが手軽なカップごはんとして商品を出したことは、むしろ「食べてもいい」という“免罪符”として歓迎されたのではないか。小田さんは、ブランドの力をこう語る。
「商談の際には『永谷園だから作れる商品。あさげというブランドだから成り立っている』と言われました。『あさげ』のブランドを広く認知していただいているため、単なる御味噌汁ごはんのイメージにとらわれない商品になっていると思います」
■“ねこまんま”にしない設計 水っぽくならない米と、すくいやすい具
そもそも開発の出発点は、「あさげ」の新商品を作ることではなかった。目指したのは「疲れたときにパッと食べられる、身体にやさしい商品」。そこから、昔から食べられてきた“日本のホッとするもの”として味噌汁に着目し、だしのうまみでひと息つける『あさげのごはん』にたどり着いたという。
ただし、そのままでは“ねこまんま”のイメージを背負うことになる。そこで開発陣は、御味噌汁ごはんを「本来別々に食べるものを混ぜたもの」ではなく、単体で成立する「一品の食事」として設計し直した。『あさげのごはん』を一品としておいしく味わえるよう、みそ・だし・ごはん・具材のバランスを整えていったという。
米は水分を吸い過ぎないように加工し、最後までサラサラと食べられるようにした。ねこまんまにありがちな水っぽさは出ない。具材にも“行儀”への配慮がある。わかめが大きいと、すくって食べる際にきれいに口へ運べず、だらしない印象になる。そのため、わかめはスプーンですくいやすいサイズにした。一方で、ねぎは大きめにカットし、お麩には厚みを持たせて、食感の満足度を高めている。
2010年代以降、各社から様々な商品が発売され、カップごはんは市場に定着してきた。では、なぜ『あさげのごはん』は今このタイミングでの発売となったのか。
同社はこれ以前にも、無菌米飯を使った「あさげ」の雑炊タイプを開発するなど、試行錯誤を重ねてきた。最近では「お茶づけ」ブランドでもカップごはんタイプを発売しているが、壁になったのは“米の加工”だった。汁の味がシンプルなお茶づけや味噌汁では、米そのものの品質や香り、甘み、食感がおいしさを直接左右する。そこで同社は、米のフリーズドライ技術を磨いた。フリーズドライを中心にして米の風味を保ち、独自製法のエアドライのごはんを組み合わせて食感を豊かにする。こうした技術と味わいの追求の積み重ねが、『あさげのごはん』の実現につながった。
■お茶づけも“困りごと”から生まれた 和食の会社が変えるもの、守るもの
『あさげのごはん』が受け入れられた背景には、食卓の変化もある。若い世代を中心に炊飯率は年々下がっており、そもそもごはんを炊かない家庭も多い。即席食品に求められる手軽さの水準も上がっていると、同社は感じていた。「カップ内の小袋の開封すら省きたいと感じる人もいて、即席の食品においても『お湯を注ぐだけ』などの簡便さが求められている」と小田さんは言う。
とはいえ、日本の食事といえば、味噌汁があり、ごはんがあり、主菜がある――というイメージは根強い。味噌汁とごはんを一緒にしてしまう食べ方は、その“型”を崩すものにも映る。まして同社は「お茶づけ」「味噌汁」「ふりかけ」と、和食を大切にしてきた会社だ。炊飯率が下がり、“きちんとした和食”から離れる人が増えていることを、どう受け止めているのか。小田さんは、同社のロングセラー「お茶づけ」も、もともとは食卓で生まれる困りごとを助ける食べ物だったと話す。
「実はそもそもお茶づけという食べ物は、かたくなってしまったごはんを、おいしく食べる手段として使われていたこともあります。同社の『お茶づけ』も、元をたどれば食事の中で生まれるニーズに応えてきた食べ物ともいえます。今の時代で言えば、『働いていて時間がない』などのニーズに応える商品を出すことが求められています。長年親しまれたブランドで新しい形態を試したり、幅を持たせることで、さらに長く愛されることが重要だと考えています。一方で、守るべき部分もあります。味やパッケージなどは、ブランドの根幹でもあるため、長く変えずに保っている部分です。『お茶づけ』などは、味やおなじみのパッケージは、発売当初からほぼ変わっていません」(小田さん/以下同)
ロングセラーブランドの情緒や本質を守りつつ、変化する食生活に応えていく。カップごはんという新しい形態だからこそ、届いた声もあったという。
「お客様からの声として、妊婦さんから開発担当者宛てにお手紙をいただいたことが印象的です。つわりで全く食べられなかった時期に、『あさげのごはん』を食べられたというエピソードが書かれてあり、『私とおなかの赤ちゃんにとって、なくてはならない貴重な栄養源となりました』という言葉をいただきました。こうした感謝をいただけたことはとてもうれしかったです」
即席味噌汁の枠を越え、広がりを見せる「あさげ」ブランド。今後の展開について、小田さんはこう語る。
「疲れている時、時間をかけたくない時など、『カップ』への需要は多いと感じており、今後もしっかりとラインアップを揃えていく予定です。一方で、『あさげ』の持つ世界観、お客様が求めているイメージを崩さず、時代が変わってもライフスタイルに合わせて進化させていきたいと考えています」
朝ごはんを食べない人、「ちょこちょこ食べ」をする人、家でごはんを炊かない人――食事のスタイルは確実に変わりつつある。“行儀が悪い”とされてきた一杯は、和食の型を崩したのではない。和食が今の食卓に残り続けるための、ひとつの答えなのかもしれない。
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『カップ入り あさげのごはん』は、即席みそ汁「あさげ」の味わいと安心感を活かしながら、国産米のごはんを組み合わせたカップ入りの「御味噌汁ごはん」だ。
商品発表時にはSNS上で、「あさげは米に合う」「朝ごはんにもぴったり」といった声が寄せられた一方、「お行儀が悪い気が…」「大手メーカーがやっていいんだ」など、商品の意外性も指摘されていた。
味噌汁にごはんを入れる食べ方は昔から「ねこまんま」と呼ばれ、マナーの観点から半ばタブー視されてきた。同じように汁とごはんを合わせる雑炊やお茶づけは批判されないにもかかわらず、なぜ“ねこまんま”だけが行儀が悪いとされるのか。
理由の一つは、ねこまんまが「別々に出された料理を混ぜた食べ物」だという点にあるだろう。本来は分けて出される味噌汁とごはんを、残り物のときや、別々に食べるのが面倒なときに一緒にしてしまう。その“手抜き”のような行為が、行儀の悪さとして受け取られてきた。さらに、混ぜてしばらくするとごはんが汁を吸ってふやけてしまったり、見た目も崩れる。永谷園も、発売後の反応には懸念を抱いていたという。しかし、ふたを開けてみると、反応は予想とまるで違った。同社マーケティング本部の小田友紀子さんはこう語る。
「発売してから、否定的な意見も覚悟はしておりましたが、実際のところ思ったより少なく、『最近食べてないけど、美味しいよね』とか、『こんな商品欲しかった』と嬉しいお声をいただいています」
同社の事前調査では、「御味噌汁ごはんを食べたことがある」と答えた人が約8割にのぼる。SNSで「実はいつも自分でやってる味」という声が上がったように、表向きは“行儀が悪い”とされながら、多くの人がそのおいしさをひそかに知っていたわけだ。そこへ大手メーカーが手軽なカップごはんとして商品を出したことは、むしろ「食べてもいい」という“免罪符”として歓迎されたのではないか。小田さんは、ブランドの力をこう語る。
「商談の際には『永谷園だから作れる商品。あさげというブランドだから成り立っている』と言われました。『あさげ』のブランドを広く認知していただいているため、単なる御味噌汁ごはんのイメージにとらわれない商品になっていると思います」
■“ねこまんま”にしない設計 水っぽくならない米と、すくいやすい具
そもそも開発の出発点は、「あさげ」の新商品を作ることではなかった。目指したのは「疲れたときにパッと食べられる、身体にやさしい商品」。そこから、昔から食べられてきた“日本のホッとするもの”として味噌汁に着目し、だしのうまみでひと息つける『あさげのごはん』にたどり着いたという。
ただし、そのままでは“ねこまんま”のイメージを背負うことになる。そこで開発陣は、御味噌汁ごはんを「本来別々に食べるものを混ぜたもの」ではなく、単体で成立する「一品の食事」として設計し直した。『あさげのごはん』を一品としておいしく味わえるよう、みそ・だし・ごはん・具材のバランスを整えていったという。
米は水分を吸い過ぎないように加工し、最後までサラサラと食べられるようにした。ねこまんまにありがちな水っぽさは出ない。具材にも“行儀”への配慮がある。わかめが大きいと、すくって食べる際にきれいに口へ運べず、だらしない印象になる。そのため、わかめはスプーンですくいやすいサイズにした。一方で、ねぎは大きめにカットし、お麩には厚みを持たせて、食感の満足度を高めている。
2010年代以降、各社から様々な商品が発売され、カップごはんは市場に定着してきた。では、なぜ『あさげのごはん』は今このタイミングでの発売となったのか。
同社はこれ以前にも、無菌米飯を使った「あさげ」の雑炊タイプを開発するなど、試行錯誤を重ねてきた。最近では「お茶づけ」ブランドでもカップごはんタイプを発売しているが、壁になったのは“米の加工”だった。汁の味がシンプルなお茶づけや味噌汁では、米そのものの品質や香り、甘み、食感がおいしさを直接左右する。そこで同社は、米のフリーズドライ技術を磨いた。フリーズドライを中心にして米の風味を保ち、独自製法のエアドライのごはんを組み合わせて食感を豊かにする。こうした技術と味わいの追求の積み重ねが、『あさげのごはん』の実現につながった。
■お茶づけも“困りごと”から生まれた 和食の会社が変えるもの、守るもの
『あさげのごはん』が受け入れられた背景には、食卓の変化もある。若い世代を中心に炊飯率は年々下がっており、そもそもごはんを炊かない家庭も多い。即席食品に求められる手軽さの水準も上がっていると、同社は感じていた。「カップ内の小袋の開封すら省きたいと感じる人もいて、即席の食品においても『お湯を注ぐだけ』などの簡便さが求められている」と小田さんは言う。
とはいえ、日本の食事といえば、味噌汁があり、ごはんがあり、主菜がある――というイメージは根強い。味噌汁とごはんを一緒にしてしまう食べ方は、その“型”を崩すものにも映る。まして同社は「お茶づけ」「味噌汁」「ふりかけ」と、和食を大切にしてきた会社だ。炊飯率が下がり、“きちんとした和食”から離れる人が増えていることを、どう受け止めているのか。小田さんは、同社のロングセラー「お茶づけ」も、もともとは食卓で生まれる困りごとを助ける食べ物だったと話す。
「実はそもそもお茶づけという食べ物は、かたくなってしまったごはんを、おいしく食べる手段として使われていたこともあります。同社の『お茶づけ』も、元をたどれば食事の中で生まれるニーズに応えてきた食べ物ともいえます。今の時代で言えば、『働いていて時間がない』などのニーズに応える商品を出すことが求められています。長年親しまれたブランドで新しい形態を試したり、幅を持たせることで、さらに長く愛されることが重要だと考えています。一方で、守るべき部分もあります。味やパッケージなどは、ブランドの根幹でもあるため、長く変えずに保っている部分です。『お茶づけ』などは、味やおなじみのパッケージは、発売当初からほぼ変わっていません」(小田さん/以下同)
ロングセラーブランドの情緒や本質を守りつつ、変化する食生活に応えていく。カップごはんという新しい形態だからこそ、届いた声もあったという。
「お客様からの声として、妊婦さんから開発担当者宛てにお手紙をいただいたことが印象的です。つわりで全く食べられなかった時期に、『あさげのごはん』を食べられたというエピソードが書かれてあり、『私とおなかの赤ちゃんにとって、なくてはならない貴重な栄養源となりました』という言葉をいただきました。こうした感謝をいただけたことはとてもうれしかったです」
即席味噌汁の枠を越え、広がりを見せる「あさげ」ブランド。今後の展開について、小田さんはこう語る。
「疲れている時、時間をかけたくない時など、『カップ』への需要は多いと感じており、今後もしっかりとラインアップを揃えていく予定です。一方で、『あさげ』の持つ世界観、お客様が求めているイメージを崩さず、時代が変わってもライフスタイルに合わせて進化させていきたいと考えています」
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