トランプ新大統領の政策は、世界経済にどのように与える影響を与えるのか。輸入関税引き上げのタイミングが鍵となる一方、日本やアジアにとって米中貿易戦争は「隙間」を埋めるチャンスにもなり得る、と専門家は指摘する。
トランプ関税は“フル発動”か、“小出し”かが問題
なぜトランプ大統領は、最重要公約と目されていた関税引き上げを就任初日に発動させず、その後も発動の時期を明言していないのか。
「トランプ大統領は関税を、他国から有利な条件を獲得する最も重要なツールと考えている節がある。『この日に確実に関税を引き上げる』ということはせずに相手との交渉を進めていくことが有利な場面もあると考えているのでは」と伊藤忠総研上席主任研究員の髙橋尚太郎氏は見る。
「引き上げの対象品目を絞ったり、いつ発動するかわからない状況で相手国を揺さぶったりといったことを続けるのではないか」
一方、関税引き上げの副作用として懸念されているインフレについても髙橋氏は警鐘を鳴らす。「引き上げられれば確実にインフレ圧力となる。衣服などの消費財は輸入業者が価格に転嫁せざるを得ず、早い段階で上昇する。それ以外にも一旦は企業がコストを引き受ける部品などの中間財も、中期的なインフレ圧力になっていく」
トランプ政権はカナダとメキシコからの輸入品に25%、中国からの輸入品に10%の追加関税を課すとしており、発動タイミングを示唆する発言などですでにマーケットを振り回している。
「どういう形で“小出し“に使っていくかが大事なのだろう」
注目はFRBのトランプ派理事、日本では電子・電機に追い風?
移民への規制を強化するというトランプ大統領の公約も労働供給力を細らせることになり、アメリカ経済にマイナスだ。そのとき米政権はどう対応するだろうか。
「移民への強硬政策は止めないだろう。関税の発動度合いや、タイミング、相手国とのディールを通じた関税引き下げに加え、減税による景気浮揚でコントロールしていくことになる」
「(アメリカの中央銀行に当たる)FRBへの利下げのプレッシャーもあり得る。トランプ氏が前回の政権時に承認したボウマン理事、ウォラー理事は彼と距離が近いと言われている。パウエル総裁の来年5月の任期満了が近づくにつれ、トランプ氏の利下げのプレッシャーに負けずにこの2人がタカ派を維持するのかは、気になるところだ」
一方で髙橋氏は、米中貿易戦争が再燃すれば日本やアジアにとってチャンスにもなり得るとして、アジア経済研究所の試算を挙げる。
「米中が(貿易戦争で)落ち込むマイナス面は大きいが、一方で米中間の貿易が細ると、短期的にはどこかの国が埋めることになる。埋める一役を日本が担い、両国に対する輸出が増えるなどで、むしろGDPがプラスになる試算だ」
「電子・電気機械のプラス面が目立っており、引き続き高付加価値の国である日本が他の国に奪われたシェアを巻き戻すチャンスになると見ている」
起こり得る貿易戦争の予想シナリオは、第1次政権トランプ政権時(2017年発足)の米中貿易戦争を振り返ることである程度見えてくるという。
アメリカの関税攻勢は2018年から始まり、応酬は2019年の第4弾の引き上げが途中で打ち止めになるまで続いた。「2019年になると、貿易摩擦で日本も含めて景気が悪化してきた。中国との間でディールが進み、19年に大筋合意、20年に正式合意するという形となった」
「その間、日本は米中の景気減速に振り回されるような展開だったが、おそらく今回もこのような枠組みでアメリカは中国に対してプレッシャーをかけるのではないか」として、少しずつ対象品目を広げて双方が落としどころを探っていくと予想する。
では、日本がディールの標的になった場合はどうするべきか。
トランプ氏をうまく“軌道修正”させるコミュニケーション
「トランプ氏にとって日本がどういう位置づけかをまず日本として把握しないといけない。貿易面から始まり、それを受け止めつつ安全保障面、外交面で日本が貢献するところをいつでも打ち返せるようにしていく」ことが必要だと髙橋氏は説く。
日本がトランプ政権と交渉するにあたっては、ソフトバンクの孫正義会長の例が参考になるかもしれない。1月21日に孫会長はトランプ大統領らと記者会見を行い、AI開発のための共同出資の新会社スターゲートに最大5000億ドル(約78兆円)を投資すると発表した。
「孫氏自身のアメリカでの留学生活のバックグラウンドもありながら、トランプ氏が望むアメリカファーストに全面的に乗っかり、アメリカへの貢献をうまく打ち出せているところは学べるのではないか」
「昨年12月に1000億ドルの対米投資を孫会長が発表すると、トランプ氏はその場で2000億ドルでどうだとジョークを言い、孫会長は今回、他社も巻き込みながら5000億ドルを提示した。孫会長の“アメリカ人”としての返し方、アピールはポジティブに受け止められていて、信頼性が醸成されている」
孫会長の手法は外交や安全保障に応用可能だろうか。
「100日以内にトランプ氏は訪中すると意欲を示していて、その前後で何らかの“火ぶた”が切って落とされ、台湾や北朝鮮の話も出てくるかもしれない。そのとき外交、安全保障および経済についてもう1回、日本の重要性をアピールすることも大事になってくるのではないか」
なかなか孫会長のようにはいかないと思うが、と前置きしつつ、髙橋氏は「メリットを説いてうまくトランプ氏を軌道修正させる」ようなコミュニケーションが肝要だと指摘するのだった。
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