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半導体銘柄の中でも個人投資家から大きな注目を浴びているのが半導体テスト装置の「アドバンテスト」。世界シェアトップを誇り、株価は2年で4倍と急成長している。津久井社長に話を伺う。
【写真を見る】半導体テスト装置「アドバンテスト」個人投資家にとって人気銘柄 背景にあるのは抜群の成長力 津久井幸一社長に成長の秘密と課題を聞く【Bizスクエア】
半導体試験「アドバンテスト」 急成長の背景は「複雑化」
不良品を世に出さないため、半導体には設計通りに機能するかどうかをテストする工程がある。アドバンテストは半導体テスト装置で世界シェア58% 電気信号によるテストシステムで世界最大手。
微細な加工技術で製造される半導体は、製造段階で一定程度の不良が発生する。早い段階で不良を見つけ歩留まりを上げるのがテストの目的。
テストの原理は半導体に電気信号を入力した際に、出力信号が、期待した結果と
一致しているかを照合し不良かどうかを判定する仕組みだ。
出荷される半導体は全てテストするため、アドバンテストの業績も半導体の出荷額の伸びにほぼ沿う形で上昇してきた。
この傾向に新たな変化が起き始めたのが2024年秋(第2四半期)以降。アドバンテストは業績の見通しを上方修正し、通期の売上高を前年より1000億円多い7400億円 営業利益は2260億円として過去最高を見込んでいる。
アドバンテスト社長の津久井幸一さんは今、半導体業界は経験したことがない大きな変化に見舞われているという。長らく業界の常識となってきたある法則が当てはまらないというのだ。
アドバンテスト 津久井幸一社長:
「ムーアの法則」が減速傾向にある。一方でコンピューティングパワーはAIの時代にもっともっと必要。一方でエネルギーの課題も見えてきていて両方の課題を解決するために新しい技術が必要だ。
半導体の性能に直結する「集積密度」は1年半で2倍になるとする「ムーアの法則」。それは「微細化」という技術を前提にしている。ところが…
アドバンテスト 津久井幸一社長:
(半導体は)微細化の歴史から今後はいろいろな技術を融合していく必要があるという時代に入った。
異なる種類の複数の集積回路を1つのチップとしてパッケージに集約した「システムオンチップ」。これよりも、高度化・複雑化したのがメーカーが異なり、機能も違う複数のチップを繋ぎあわせ、大規模な1つのパッケージに組み立てる「チップレット」。「テスト」もこのような半導体の進化に適合する必要がある。
半導体試験「アドバンテスト」 最新の試験システムとは
開発拠点のひとつ「群馬R&Dセンター」を訪ねた。アドバンテスト入社以来25年
テスト装置の開発一筋のエンジニア渡辺大輔さん。
アドバンテスト テクノロジー開発本部 渡辺大輔本部長:
「V93000エクサスケール」と言い、最新機種です。AIに必要なハードウェアのテストとしては、おそらく最も一番適している装置の構成になっている。
「カード」と呼ばれる拡張モジュールを差し替えることで、様々な種類の半導体のテストに適応できる設計となっている。渡辺さんは半導体が最終的に1つのパッケージに組み立てられる前の段階で、それぞれのチップなどをテストすることが重要だと言う。
アドバンテスト テクノロジー開発本部 渡辺大輔本部長:
特に複雑なデバイスになるほど、一番最後にフェール(不良)になったら、それは捨てるしかないので、誰が悪かったのかも分からずにという状況になってしまう。一つ一つのテストで合格したものが確実に最終形まで持っていく。そうすると自分の責任が明らかになるので、そこは非常にテストという観点では重要だと思っている。
アドバンテストの前身は1954年創業の電気計測会社。トランジスタの普及が進んだ60年代微弱な電流の計測技術から製品化した電流計の大ヒットが会社の黎明期を支えた。転機はIC=大規模集積回路が広く家電製品に使われ始めた70年代。参入した半導体テスター事業が現在の地位を築いている。
2024年12月。半導体の見本市「セミコン・ジャパン」で最新の検査装置の説明に
熱心に聞き入る一団がいた。聞けば機関投資家のアナリスト達。成長力の強さに投資家の関心は年々高まる一方だ。
グループの経営戦略を所管するダグラス・ラフィーバCEOは2025年の見通しについて…
アドバンテスト Group CEO ダグラス・ラフィーバ氏:
2025年は引き続き市場が成長するとポジティブに見ている。データセンター事業が引き続き非常に力強い。さらに、2026年のどこかで、エッジコンピューティング、ハンドセット、PC市場など、消費者向けデバイスも伸びてくると期待している。
半導体試験「アドバンテスト」 株価4倍 市場が高評価の理由
新聞の証券欄を見てアドバンテストの文字がない日はないぐらい株式市場では話題になっているという株価。2年で4倍という。
――すごい勢いだ。
アドバンテスト 津久井幸一社長:
期待をいただいてるのはすごく嬉しく、気合も入る。経営としては、中長期の視点に立ってしっかりとやっていきたい。
その背後にあるのが業績だ。ここ10年ほどで急成長しており、2024年度の売上高は過去最高7400億円、営業利益は2260億円を見込んでいる。
――今年度の決算(2025年3月期)の見通しを3回も上方修正したとか。
アドバンテスト 津久井幸一社長:
はい3回した。当初の見通しからですね、さらにいろいろなテストの需要があり、決算、各四半期ごとに増えていった。
――元々電流計の会社。昔、理科の時間に使った電流計か。
アドバンテスト 津久井幸一社長:
高精度で、すごく非常に微小な電流を、角度よく測れるというのが、最初に発売した製品だった。
――生え抜きだそうだが、入社した頃、こういう半導体絡みの会社になると思ったか。
アドバンテスト 津久井幸一社長:
思わなかった。どちらかというとその電流計の方のビジネスの開発に携わり、こういう想像はできなかった。
――半導体は、全て1個1個テストしなければいけないものか。
アドバンテスト 津久井幸一社長:
はい。基本的には、全数テストがベースになっている。なぜかというとその中にあるトランジスタを試験して、品質を高めるということが非常に重要なデバイスだから。
――普通、部品は抜き取り検査だけやっているが、そういうわけにはいかない?
アドバンテスト 津久井幸一社長:
すごく製造工程も複雑で長いんですね。そのためにいろんなところでテストの工程を入れて、何か問題があったときには、早め早めに改善をしていくというプロセスに、試験自体が組み込まれている。
――小さい半導体。後からだと悪いところを見つけ出すことは不可能に近いのか。
アドバンテスト 津久井幸一社長:
そうです。それと、最後不良になっても、捨てるしかなくなるので、できるだけ前の段階で品質を保つことが重要になっている。
半導体試験「アドバンテスト」 「複雑化」は更なる成長の好機
――量により増えていくという時代から、「複雑化の時代」というのはどういう意味か?
アドバンテスト 津久井幸一社長:
パソコン・スマートフォンに代表される時代。どちらかというと規模・量を作ってコストを下げていく。技術的には微細化を進め、2次元でできるだけ機能を詰めて、大量に作っていくという時代だった。「ムーアの法則」という法則があり、少し減速してきて、技術的な限界も近いのではないかと言われている。
――2ナノまでいくと、細かくするのもコストが高くなるだけという話か。
アドバンテスト 津久井幸一社長:
研究段階ではその先、1ナノとかオングストロームといわれる時代もプランしているので、そこは進むと思うが、その微細化以上に、このAIの時代になると、コンピューティングパワーがもっと必要だということで、技術的には3次元に積層したり、いろいろな半導体を組み合わせて最適化したり、一方でエネルギーの問題も非常に大きな問題があるので、消費電力も抑えて、環境にも優しくなど、いろんな要求に応えるという半導体産業界の課題が大きいと思っている。
――半導体の構造が複雑化してくると、テストの工程がより複雑になってくるし、より回数も増えてくるのか。
アドバンテスト 津久井幸一社長:
そういうことです。基本的には、このように複雑になればなるほど、1個1個の半導体を検証していく重要性が高まる。なぜかというと、5個のチップがあるが、一つでも不良になると動かない。
今までは1個の半導体に対して、最後に1回やればテストが良かったというものが、たくさんやらなくてはならない。さらに、チップレットの場合、いろんな会社からサプライチェーンがあって最後に一つにするということになると、プロセス・プロセスでもやっていかなければならなくなった。
アドバンテスト 津久井幸一社長:
例えばこの5社で組み合わせて行くとなると、どの会社がどこまでの責任か、または不良があったときに、どこを改善すれば全体として一番良くなるか。また不良を発見するだけではなくて、改善するためにも、テスターとテストデータが非常に重要になってきている。
――量が増え、複雑化するからテストももっと必要になってくる。いいことずくめだ。
アドバンテスト 津久井幸一社長:
もちろんお客様とは、いかにそのテストの回数を減らせるかとか、効率を高めるかという議論をしているが、やはり今、AI自体が求めているコンピューティングパワーは遥かに今までの経験を超えるぐらいのハードルを超えなくては実現できない。「テストはコスト」と言われていた時代があったが、今は「品質を上げたり、歩留まりを上げるために必須なものだ」と言ってくれる客が増えた。
――世界シェアトップで58%だが、競合は?
アドバンテスト 津久井幸一社長:
競合はアメリカに1社、大きな競合がある。各地域でもいろんなテスターの開発は進んでいる。
半導体試験「アドバンテスト」 不確実な時代の「必勝戦略」
――世界でこれだけ優位性を持っているという強みはどこにある?
アドバンテスト 津久井幸一社長:
たくさんある。まず技術力、ちょうど去年70周年を迎えたが、電流計から始めた計測一筋で培ってきた技術力にあると思っている。今、我々が提供している製品は、SOCもあれば、メモリーもある。ほぼ全ての半導体が図れるような製品ポートフォリオ。
――もう一つは「テスト」に絞った領域に新たに入ってくる参入障壁がある。
アドバンテスト 津久井幸一社長:
やはり企業文化もある。計測とか世の中に標準軌を収めることに、すごく真面目に一生懸命働く文化もあるので、ビジネス的に儲かるからということだけではなく、世の中を支えるという気持ちもお客様の信頼を得ているところだと思う。
今後のアドバンテスト。地域別の売上高を見ると、半導体を作ってる台湾・韓国・中国の売上高が高い。とはいえ、今中国へは経済安全保障の関係で出しにくいという状況になりつつある。トランプ政権の発足でアメリカは自分に囲い込みたいと思っているという状況。
――このあたりは不安材料としてはどうか。
アドバンテスト 津久井幸一社長:
いろんな規制や、各国の半導体戦略、半導体が非常に国家戦略の重要なポイントにもなってきていて、非常に注視しているところ。ただ、生産拠点が多いところに販売が多いが、設計をしている会社は、アメリカであったり、ヨーロッパであったり、「ファブレス」という会社だが、そういうところも大事なお客様。非常に幅広くビジネスやっているっていうことが強みでもあると思っており、それを大事にしている。
――最近のアドバンテストの株価について。ここはあまり心配しなくても大丈夫か。
アドバンテスト 津久井幸一社長:
我々はポジティブに捉えている。AIの時代にまだ入ったばかりで、新しいテクノロジーはこれからもどんどん出てくると思っている。でもそれでイノベーションが進んで、もっと我々の身近なところにAIが浸透してくるのではなると、もっとテストが必要になり、より貢献できると思う。
(BS-TBS『Bizスクエア』 2月15日放送より)
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