
時代の変化を感じさせるに十分な買収劇です。九州を地盤とするディスカウントスーパーのトライアルHDが、老舗大手スーパーの西友を3826億円で買収し、完全子会社とすることを発表しました。
【写真を見る】新興「トライアル」が老舗「西友」を買収、小売業の「主役」変わるか【播摩卓士の経済コラム】
DX駆使、激安の「トライアル」
トライアルHDの発祥は、1974年に福岡市で創業したリサイクル店です。80年代にPOSシステム開発などIT分野に進出し、そのシステムを武器に、1992年に小売業に参入しました。食品スーパーとホームセンターの機能を併せ持つ「スーパーセンター」を中心に、複数の形態の店舗を全国に343店舗展開、そのうち133店舗は九州です。
24時間営業の利便性や、特売なしのエブリデイロープライス(EDLP)を武器に、売上高7179億円を計上、24期連続増収を誇っています。
経営再建に悪戦苦闘の老舗「西友」
一方の西友は、旧セゾングループの中核企業で1946年創業の老舗スーパー。その西友が僅か1年前(24年3月)に東京証券取引所に上場したばかりのトライアルに買収されることになったのです。セゾングループ解体後は、米ウォルマートや、米投資ファンドKKRと楽天などが、経営権を取得し、再建に取り組んできました。
24年には北海道の9店舗をイオンに、、九州69店舗をイズミに売却、現在は本州に242店舗を持っています。売上高は、4835億円にまで縮みました。
規模拡大の狙いは関東
トライアルは完全子会社とした西友の屋号は残し、当面、西友として運営していく考えを明らかにしましたが、店舗によっては、トライアルの「スーパーセンター」などに改装していくと見られます。元々、トライアルは既存の建物を「居抜き」で改装・出店することに長けていますし、出店加速による規模拡大こそが買収の目的だからです。
その最大のターゲットは、関東地方です。西友は、関東に半数以上にあたる133店舗を持ちます。現在、関東のトライアルの店舗は、わずか60に過ぎません。人口が集積し、未だ人口が増えている首都圏での規模拡大は、流通戦国時代の生き残りの必須の条件です。
創業者の子息で、トライアルHDの永田洋幸取締役は、24年11月の私のインタビュー(BS-TBS「Bizスクエア」放送)に、「まだまだ出店できてない地域が沢山あるので、そこにしっかり出店していきたい」と意欲を隠しませんでした。
単純計算で、両社の売上げは、1兆2000億円を超え、小売業では、セブン&アイHD、イオン、ファースト・リテイリング、パン・パシフィックHD、ヤマダHDに次ぐ、第6位に位置します。規模拡大が、激安価格を生み出すバーゲニングパワー(取引力)の強化や、トライアルが得意とするDX戦略に大きなメリット与えることは言うまでもありません。
「リテールテック」で流通革命
トライアルという企業の最大の特徴は、自らをリテールテック、すなわち流通情報企業と規定していることです。商品をかごに入れる際に、会計に必要なバーコードをお客が読み取るという「タブレット付き買い物カート(スマートカート)」は、その代表例です。単にレジ待ちがなくなるだけでなく、店内で何をどういう順番で買ったかといったデータが得られるほか、目の前のタブレットに、店舗内の適切なタイミングで広告を流したり、クーポンを配布したりすることもできるのです。
永田取締役は、店に来る前には決めていなかった「非計画購買」をいかに増やせるかが、リアル店舗の勝負所だ、と強調していました。究極的には、データ解析と効果的な販促を通じて、リアル店舗でのアマゾンをめざすという意気込みなのです。それを、より大規模に実践して磨きをかけることを目指しているのでしょう。
小型店「TRIAL GO」で都市部攻略か
3つめの大きな狙いは「TRIAL GO」の本格展開だと、私は見ています。「TRIAL GO」は都市部で展開する面積1000平米以下の小型店で、顔認証などによる無人レジを始め、徹底的に自動化・省力化した店舗です。近くの大型店から作り立ての総菜や弁当を周辺の小型店に配送する方式を採っており、記者会見では、首都圏の西友の周辺に、こうした「TRIAL GO」を出店する方針を明らかにしました。
福岡では、「TRIAL GO」が出店した近接のコンビニの売り上げが激減する事象も起きたということです。トライアルのロ-スかつ重が299円と聞けば、それもわかる様な気がします。インフレが進む中で、都市部での小型店競争は一気に激しくなりそうです。
小売りの『主役』交代のピッチ早まるか
小売りの主役が総合スーパー(GSM)から、コンビニや専門チェーンに移ったのは、すでに過去の話。安泰と思われた食品分野でも、ディスカウンターや地域密着型新興スーパーが存在感を増しています。
永田取締役は「インフレでも、デフレでも、同じものであれば安いモノを買いたいというのは当たり前。それに応えるのが使命」と語っていました。トライアルによる西友買収の成否は、もちろん今後の取り組み次第でしょうが、小売りの主役が変わりつつあることを予感させています。
播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)
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