
WBCで三度優勝するなど、世界最高峰のレベルを誇る日本のプロ野球。トップレベルの選手だけでなく、その裾野でも興味深い動きが起きています。特に注目されるのが、九州・佐賀に本拠地を置く独立リーグの「佐賀アジアドリームズ」。このチームには、アジアの国々の選手たちが集結しています。なぜ彼らは佐賀に集うのか? チームの狙いは? Creative2メディア事業本部長でスポーツライターである楢崎豊さんに、このチームの挑戦とビジネスの深い関係について伺いました。
<東京ビジネスハブ>
TBSラジオが制作する経済情報Podcast。注目すべきビジネストピックをナビゲーターの野村高文と、週替わりのプレゼンターが語り合います。今回は2025年4月6日の配信「世界最高峰!日本野球の技術輸出は、 どのようにビジネスにつながるのか?(楢崎豊)」を抜粋してお届けします。
異色の独立リーグ球団「佐賀アジアドリームズ」とは?
野村:
日本の野球は世界トップレベルですが、その裾野で面白い動きがあるそうですね。今回取り上げる九州・佐賀の独立リーグ「佐賀アジアドリームズ」の注目ポイントとは?
楢崎:
独立リーグは各地にありますが、佐賀アジアドリームズは九州アジアリーグに現在、準加盟という形で所属している球団です。最大の特徴は、東南アジア出身の選手を中心にチームが構成されている点です。
野村:
その時点で、かなり珍しいですよね。
楢崎:
そうですね。多くの独立リーグ球団は、NPB(日本野球機構、いわゆるプロ野球)を目指す日本人選手、例えば大学や高校を卒業した選手が中心です。北海道から関東、近畿など各地にリーグがあり、特に四国は盛んですが、九州アジアリーグもNPB選手を輩出しています。
そのなかで、佐賀アジアドリームズは異色の存在と言えます。去年までは「佐賀インドネシアドリームズ」という名前で、インドネシア選手が中心でしたが、アジア各国への影響力も考慮し、今年から「佐賀アジアドリームズ」として再スタートしました。
野村:
独立リーグの一般的な位置づけとしては、NPBへの最後のチャンス、という側面もあるのでしょうか?
楢崎:
NPBへの夢を諦めきれない若者が飛び込む世界であり、あるいは「ここでNPBに届かなければ野球を辞める」という、一種の終着駅、踏ん切りをつける場所でもあります。基本的には、まだ夢を追う選手が集まる場だと認識しています。
野村:
高校や大学で指名されなかった選手の最後の砦、というイメージですね。企業チームである社会人野球とはまた違うルートですね。
楢崎:
社会人野球の企業チームやクラブチームとは異なります。独立リーグは、野球をしてお金(給料)を得る、という意味で、メディアはプロ野球として扱っています。佐賀アジアドリームズも選手に給料を支払っています。
野村:
プロとして野球で収入を得られる、貴重な場なのですね。
楢崎:
はい、そうです。主な収入源はスポンサー収入と、手売りなどで販売するチケット収入になります。
なぜ東南アジアの若者が佐賀へ?
野村:
その佐賀アジアドリームズに、東南アジア出身の選手が多く所属しているとのことですが、彼らはどのようなモチベーションで集まっているのでしょうか?
楢崎:
まずひとつには、日本の高い野球レベルを体感し、技術を習得したいという目的があるでしょう。そして、習得した技術を自国に持ち帰り、母国の野球の発展につなげたいという強い思いもあると考えられます。
野村:
もともと母国でも野球をプレイしていた選手たちですか?
楢崎:
はい。しかし、育成システムが未整備であったり、プロリーグが存在しない国も多いのが現状です。特に20歳や21歳を過ぎると、その先で野球を続けられる環境がない、という現実があります。
野村:
そもそもプレイする環境自体が少ないのですね。
楢崎:
そうなんです。ただ、身体能力が非常に高い選手は多くいます。野球を諦めずに続けられるよう、日本のプロ球団として佐賀アジアドリームズのようなチームが彼らをスカウティングし、夢をつなぐ場を提供しているという側面があります。
彼らは佐賀を拠点に、地域貢献や社会貢献活動も行っています。そのため、地元の人たちが各国の選手たちを応援するという、良い流れも生まれています。
野村:
それは面白いですね。インドネシアドリームズからアジアドリームズへ名称変更したということは、この仕組みが機能し、インドネシア以外の国からも選手が集まり、多国籍化が進んでいるということでしょうか?
楢崎:
その通りです。先日発表された情報では、インドネシア4名、スリランカ4名、フィリピン4名、パキスタン2名、カンボジア2名に加え、ベネズエラやドイツといったアジア以外の国の選手も加入したようです。日本人選手も7名在籍しています。
選手を通して世界に訴求、ユニフォームのビジネスチャンス
野村:
チーム側の狙い、つまり佐賀アジアドリームズがなぜこのような活動をしているのかという点も気になります。どのような戦略や狙いがあるのでしょうか?
楢崎:
まず、この活動の中心となっている方々が、もともと野球関係者である点が大きいです。監督は元ロッテの香月良仁さんが務めていますし、GMや球団代表なども、アジアの野球に対する強い思い入れ、深い愛情を持っています。野球を続けたいアジアの選手たちに場を提供したい、そして日本の野球を世界に届けたいという思いが根底にあると考えられます。
野村:
やはり、根底には野球への情熱があるのですね。
楢崎:
若者が夢を追いかける場所を提供することが、結果的に日本の野球の価値向上にも繋がるという考えもあるでしょう。そして、ビジネス的な側面で言えば、人口規模が大きく、若い世代が多い東南アジア市場への影響力は無視できません。
野村:
東南アジア市場への影響力、ですか。
楢崎:
現在はSNSが普及し、個人がメディアを持つ時代です。選手たちがSNSで母国の人々に発信すれば、佐賀での活動が彼らの国々に伝わります。実際に、スタッフが現地を訪れると「(SNSで)見ているよ」と人気者のように声をかけられることもあるそうで、その影響力の大きさを感じます。
ここにビジネスチャンスを見出すことも可能だと私は考えています。
野村:
なるほど。
楢崎:
独立リーグではスポンサー収入が非常に重要です。ユニフォームの胸など目立つ位置に企業ロゴを入れることでスポンサー料を得るわけですが、佐賀アジアドリームズの場合、その露出効果は国内に留まりません。選手の母国のテレビ局などが取材に来ることもあります。
野村:
母国のメディアも注目しているのですね。
楢崎:
昨年も母国で放送されたと聞いています。その影響力は非常に大きいため、スポンサーとしての価値は高いはずです。
東南アジアへの進出を考えている企業や、既に進出している企業にとっては、スポンサーになることで企業価値の向上にも繋がるのではないでしょうか。
野村:
つまり、佐賀アジアドリームズのユニフォームの構造は、非常に露出効果の高い広告媒体になっている可能性がある、ということですね。
楢崎:
ただ、根底にあるのは日本野球の魅力の発信や、選手たちが野球に打ち込める環境を整えることだと考えられます。長期的なビジョンとして、こうしたビジネス展開も視野に入れているとは思いますが、第一は野球を愛し、野球ができる環境を提供するという点でしょう。
チームの現状と今後の展望
野村:
佐賀アジアドリームズのチームとしての強さ、成績はどうなのでしょうか?
楢崎:
成績については、正直なところ、まずは勝利を目指している段階です。
(編集注:佐賀アジアドリームズはこの収録後の3月31日に初勝利を挙げました)
野村:
なるほど。まずは1勝を目指して頑張っている、と。
楢崎:
はい。ただ、昨年から在籍し、今年もプレイする選手もおり、彼らの実力はかなり向上しているという情報も入っています。ですので、今年は良い試合を見せ、複数回の勝利を挙げることも期待できるのではないでしょうか。チームとして成長、成熟していく中で、状況も変わっていくのではないかと考えています。
野村:
アジアの若者たちの夢と、日本の野球、そして地域が交差する佐賀アジアドリームズの挑戦、今後も注目していきたいですね。楢崎さん、ありがとうございました。
楢崎:
ありがとうございました。
<聞き手・野村高文>
Podcastプロデューサー・編集者。PHP研究所、ボストン・コンサルティング・グループ、NewsPicksを経て独立し、現在はPodcast Studio Chronicle代表。毎週月曜日の朝6時に配信しているTBS Podcast「東京ビジネスハブ」のパーソナリティを務める。
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