
ソフトバンクグループの孫正義社長は、「300年成長を続ける企業」を目指すと豪語する稀代の経営者として知られています。AI関連事業をめぐり巨額の投資や買収を続ける孫氏の思考や行動原理について、日本経済新聞編集委員の杉本貴司氏と深掘りします。
「制約なき思考と行動」
2016年、当時の為替レートで約3兆3000億円を投じてイギリスの半導体設計大手・アームを買収した孫氏。莫大な買収額が話題を呼びましたが、「なければ集めればいい」という“金額に左右されない考え方”が孫氏の意思決定を支えている、と杉本氏は指摘します。
さらに、チャンスと見れば意中の相手の宿泊先を突然訪問したり、アメリカのトランプ大統領にすら会いに行く行動力に触れ、「制約のない思考と行動」こそ孫氏の特徴だと語りました。
「人類史上最大のパラダイムシフト」=AIに「全振り」
杉本氏はまた、孫氏の「才能」について次のようなエピソードを紹介しています。
「孫さんに『最大の才能は何ですか』と聞いたことがあります。すると『パラダイムシフトを種のうちから嗅ぎ分ける能力と、それに対しリスクを持つ覚悟だ』と答えたのです」
時代の転換点をかぎ分ける嗅覚こそ最大の才能。そう語ったという孫氏がいま、全力を傾けているのがAIです。
「AIというパラダイムシフト、孫さんに言わせれば人類史上最大のパラダイムシフトに対して、ここはベットする(賭ける)となれば全力でやる」
世界のあり方を変える、パラダイムシフトを起こす技術に対して全てを賭ける。時代を変える新たな技術へ孫氏の「全振り」は、創業の時からずっと変わらないと杉本氏は話します。
「50手先」を読み、「300年続く企業」を目指す
アームの買収時、孫氏は当時の記者会見で次のように話したといいます。
「分からないと思いますよ。この買収の意味が。囲碁で言うと50手先の手を打ったんだ」
アームが設計を手掛けた半導体はスマートフォンのCPUに広く使われていますが、すでに当時、スマートフォンは世界中に普及していました。それなのになぜ、孫氏は巨額の資金をアーム買収につぎ込んだのか。
杉本氏は、新たな時代をもたらすAIが必要とする2つの重要な技術、「クラウド」と「エッジAI」をアームが持っていることを孫氏が見抜いていたからだ、と説明します。
新たな時代の到来を誰よりも早くつかみ、覚悟を持って全てを賭ける。そんな孫氏が語っていたあるエピソードを杉本氏は紹介します。
「孫さんは面白いことを言っているんです。『宮本武蔵と織田信長、戦ったらどっちが強いと思う?』。それは武蔵ですよね、剣豪ですから。でも孫さんは『織田信長は宮本武蔵のことを一瞬たりとも敵だと思わないだろう。それは何かというと、戦い方が違うからだ』と。『武蔵のような武将を目指すのか、信長のような天下人を目指すのかで、戦い方は全く違うんだ』」
歴史を振り返っても、300年続くビジネスモデルや技術は存在せず、廃れるときが必ず来る。その兆しをとらえ続けなければ、情報産業で生き延びることはできない。ならば、一人で戦い続けるのではなく、豪傑たる武将たちを配下に揃えて世代交代を前提にした戦い方をしていくー。
「300年成長し続ける企業を作る」。孫氏がこだわって言い続けてきたという言葉の背後に、このような壮大な事業ビジョンがあることを杉本氏は指摘します。
「50手先」を読み、「300年成長を続ける」企業へー。
AIが世界を変えつつある現在、孫氏の「天下人」のビジョンが何を生み出していくのか。
「孫正義の物語はまだまだ終わらない」。
孫氏に関する自身の著書を、杉本氏はこう締めくくっています。
・スマホのバッテリーを長持ちさせるコツは?意外と知らない“スマホ充電の落とし穴”を専門家が解説【ひるおび】
・「水道水がおいしい都道府県」全国1位は?“蛇口からミネラルウォーター”の地域も【ひるおび】
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