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地方の“最低賃金引き上げ競争”の背景には何が?一方で「雇用が奪われる」との声も【Bizスクエア】 

経済
2025-09-10 06:30

過去最高の上げ幅となった2025年度の最低賃金。しかし、岩手県では最低賃金を決める審議会で「経営者側が全員退席」という異例の事態も…。


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引き上げ額で「秋田VS岩手」

4日、全国の最低賃金の改定額が出揃い、全ての都道府県で1000円を突破。全国平均は現在より66円上がり、1121円となった。


▼全国平均⇒時給1121円(66円増・伸び率6.3%)
▼最高⇒東京都:1226円
▼最低⇒高知県・宮崎県・沖縄県:1023円


一方で、最低賃金を巡って自治体間で競う傾向もー。


東北地方では、2024年度に最下位だった秋田県が、8月25日に国の目安額の64円を大きく上回る「80円の引き上げ」で、最低賃金を1031円とした。


これに対し、下から2番目だった隣接する岩手県はその3日後、「79円引き上げて」秋田と同じ1031円に。


しかし、岩手県の最低賃金を決める審議会では、「賃上げの上げ幅が急激すぎる」と主張した“経営者側委員全員が採決で退席”という異例の事態が起きた。


途中退席した経営者側の一人は…


『岩手県経営者協会』藤田芳男専務理事:
「地方の中小企業や小規模事業者にとっては“死活問題のような数字”。地方の経済の実態にまず即していない。雇用の受け皿として地域の企業があるわけで、そこがもし事業停止とか最悪倒産ということになれば、“労働力さえも雇用も奪われてしまう”


経営者側が退席したあと決定した1031円という最低賃金。


岩手県内に本社があり、東北地方を中心に400店舗以上で約4000人のパート・アルバイトを雇用しているドラッグストアの受け止めは…


『薬王堂』櫻井慶彦執行役員:
「人件費のインパクトは確かに大きいと考えているので、経営に当然コスト面では大きな影響がある」


一方、そのドラッグストアで働くパート従業員からは…


16年勤務・熊谷百合子さん(44):
「桁がね、3桁から4桁になるわけだから上がるっていうのはすごく嬉しい。外食を1回増やしたりとか、いつも見切り品ばかりじゃなくて、たまにはプチ贅沢も贅沢って言わない、それが普通っていうふうになってくれればいいな」


物価高のなか「値下げ」の店も

5日に発表された7月の「実質賃金」は前年同月比0.5%(速報値)と7か月ぶりのプラスに。厚生労働省は、7月のボーナスの伸びが大きかったことが要因としている。


一方で、同日発表された7月の家計調査では、「食料への支出」が1.8%減。
物価高の影響が一因とみられるが、帝国データバンクによると9月も1422品目の食品が値上げされる。


買い物客:
「1.5倍くらい出費が大きい。今まで3000~4000円で済んでいた会計が、5000~6000円になるので、すごく高くなっているのを感じる」


こうした中あえて値下げに踏み切る企業も出てきている。


ディスカウントストア『ミスターマックス』では、9月限定で日用品や食品など約500品目を値下げ(※全59店舗とオンラインストア実施)。商品を大量に仕入れて陳列数を増やし、補充作業を減らすなどして人件費を削減。その結果、値下げが可能になったという。


牛丼大手の『すき家』も、4日から牛丼並盛を30円値下げし、450円に。


コメも、肉も、人件費も上がる中、11年ぶりの値下げを決断した理由は…


商品企画担当 中島広暁さん:
「物価高の影響で実質賃金の上昇は限定的かなと。より多くの人に牛丼を食べてもらいたい」


最低賃金“引き上げ競争”の背景

依然として物価高の影響が続く中での、最低賃金の引き上げ。


国の目安を上回る引き上げを決めたのは39の道府県で、最大の引き上げ幅となったのは熊本県。ついで大分、秋田、岩手となっている。


【2025年度最低賃金 引き上げ額】
〔1〕熊本県:82円
〔2〕大分県:81円
〔3〕秋田県:80円
〔4〕岩手県:79円


近隣県との“最低賃金の引き上げ競争”のような状況に、経済財政諮問会議民間議員などを歴任した伊藤さんは、「同じような競争は企業でも出てくる」と話す。


『東京大学』名誉教授 伊藤元重さん:
「賃金が全体的に上がっていく時には、上がり方の少ないところと高いところが出てくるので余計にその差が目立つ。なのでこういう競争は地域だけじゃなくて企業間でも出てくる。そうしないと人が流出してしまう。隣接県でもかなり意識すると思う。実際に企業の採用でも広域で人材を探すので、当然最低賃金だけではないが賃金差は注目される」


2024年は、徳島県が「84円の引き上げ」に踏み切り話題となった。当時、番組の取材に対し知事は、ある“危機感”を口にしていた。


徳島県・後藤田正純知事(2024年9月放送)
▼「1人当たりの県民所得は全国で8番目なのに最低賃金が下から2番目は屈辱」
▼「徳島(の賃金)が安いから他の県に行くとなれば結局人手不足倒産になる」


――徳島は特に大阪や神戸と橋で繋がってることもあり、人材流出の危機感をあげていた。徳島の例を見て2025年は各県でも同じような引き上げの動きになったが、最低賃金が賃金全体に与える影響は?


伊藤さん:
「最低賃金は国や自治体が唯一関与できる賃上げ政策なので、インパクトは大きい。また、最低賃金引き上げの動きは日本だけではなく、世界的にも非常に大きい。コンセンサスとして『最低賃金があまり高くない限りは、少しくらい上げても雇用には影響がない』と。そういう研究がノーベル経済学賞を受賞しているぐらいで、世界的に最低賃金引き上げの流れがある」


企業の懸念は「トータルで見て考えるべき」

ただ、岩手県のように「賃上げの上げ幅が急激すぎると地方の中小企業や小規模事業者にとっては死活問題」という声もある。


――価格転嫁ができるのか。例えば「地方でラーメンが1杯1500円になったら食べる人はいない」という議論もある。生産性の向上はそんなに簡単ではない


『東京大学』名誉教授 伊藤元重さん:
「賃金を上げると雇用が厳しくなるから、やはり生産性を上げていく、あるいは利益を上げていくことをしなければというプレッシャーは強くなると思う。だた、VTRの中でパートの女性が言っていたように『賃金が上がったら外食1回増やす』とか、“需要を増やす”という意味では、地域の最低賃金を上げることは非常に大きなインパクトがある。なのでトータルで見てどう考えるかだ」


26年春闘「賃上げの勢い」続く?

では、今回の最低賃金の引き上げが、2026年春闘のモメンタムに繋がるかどうかだが、トランプ関税など企業を巡る環境は厳しい状況になっている。


9月に発表された4月から6月期の法人企業統計では、「製造業」の経常利益が「前年同月比11.5%減」と2四半期連続のマイナスだ。


――すでに11%も減益。通年で決算した時に、例えば自動車メーカーの利益が大きく減って2025年並みの賃上げができるかということ


『東京大学』名誉教授 伊藤元重さん:
「賃上げは流れが非常に大事なので、26年は試金石でもある。特に中小企業が多い地域では厳しいが、ここで弱気になってしまうと過去の30年の繰り返し。企業がどこまで踏ん張って、しっかり賃金に出していくかというのは大きなポイントだろう」


――色んな意味での政策的な支援、経済対策も含めて必要な局面にかなり入っている


伊藤さん:
「必要なんだけど出ていない。そろそろ出してもらわないと大変だと思う」


(BS-TBS『Bizスクエア』 2025年9月6日放送より)


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