高市総理の台湾有事をめぐる発言に反発した中国側が日本への渡航を自粛するよう呼びかける事態となっています。さらに、今週末のG20サミットで李強首相が高市総理に「会う予定はない」と明言。日中両国の思い描く“落としどころ”はどこにあるのでしょうか。
【写真で見る】「日本では、中国人を標的にした犯罪事件が多発」注意喚起の内容
事態収束に 日本外務省幹部が訪中
事態の収束に、日本政府が動き始めました。17日午後、北京の空港に到着したのは外務省の金井アジア大洋州局長。
政府関係者によりますと、金井氏は中国外務省の劉勁松アジア局長らと18日に会談する見通しだということです。
11月7日、台湾有事をめぐり、答弁した高市総理。
高市総理
「戦艦を使ってですね、そして武力の行使も伴うものであれば、これはどう考えても存立危機事態になりうるケースであると私は考えます」
会談で金井氏は、“高市総理の答弁は、これまでの日本政府の立場を変えるものではない”と伝えるなど、事態の沈静化を図るものとみられます。
中国側は強く反発 訪日旅行のキャンセル相次ぐ
しかし、高市総理の答弁に中国側は強く反発しています。
中国の外務省は14日、日本への渡航自粛を呼びかけたのに続き、文化観光省も16日夜、日本への旅行を控えるよう注意喚起を行いました。
こうした中国政府の対応を受け、日本向け団体ツアーのキャンセルが相次いでいます。
中国メディアは、上海のある旅行会社への取材として「日本向けツアーのキャンセル率は6割を超えた」「航空券の払い戻しも多数発生している」と報じています。
また、近く公開される予定だった映画「クレヨンしんちゃん」と「はたらく細胞」の公開が延期されたと報じました。
中国人にとって、日本は人気の観光地です。2025年1月から9月の間に日本を訪れた外国人客のうち、中国が最多を占めています。
先週来日した家族には、友人などからこんな注意喚起のニュースが届いたそうです。
「今年に入ってから日本の治安は不安定な状況で、中国人を標的にした犯罪事件が多発している」
中国人観光客
「中国国内の世論や雰囲気を心配して、(友人は)送ってきたかもしれません」
中国人の間でも、受け止め方は様々です。
中国人観光客
「(中国は)ちょっとやりすぎだと思います。わざわざ国民に気をつけてと注意喚起する必要はないと思います。日本は安全な場所だから何の心配もいりません」
「彼女(高市総理)は、自分の言った言葉を撤回してほしいです」
ーー中国政府の反応をどう思う?
中国人観光客
「中国政府にとても賛成です」
「僕も賛成です」
日中関係これまでも… 観光地「影響少なからずある」
これまでも、たびたび緊張の高まりを見せてきた日中関係。2001年から2006年まで、当時の小泉総理は毎年1回、靖国神社を参拝。
2005年には中国で反日デモが広がり、大使館の建物にも被害が出ました。
2010年には沖縄県・尖閣諸島沖で、海上保安庁の巡視船と中国漁船が衝突。緊張の高まりから、中国はレアアースの対日輸出を停止し、日本の産業界は大きな打撃を受けました。
中国の対応を受けて、日本の観光地、岐阜・高山市では…
煎餅堂 橋本正明さん
「日曜日くらいまでは、ほぼ影響はなかった。きょう月曜日で、朝から(中国人観光客が)ちょっと減っているかな」
別の店は…
谷松 谷元揮さん
「そこまで減ったというのは、まだ感じていない。中国系のお客さんが占める割合も多いので、減ってくると影響は少なからずあるかなと」
「一線を越えた火遊びやめて」強硬な姿勢崩さず
中国側の一連の対応について、木原官房長官は…
木原稔 官房長官
「留学や観光を含む二国間の人的交流を萎縮させるかのような今回の発表は、首脳間で確認した戦略的互恵関係の推進、あるいは建設的かつ安定的な関係の構築、そういった大きな方向性とも相容れない」
「日中間では日常的に様々なレベルでやり取りを行っている」とした上で、「適切な対応を強く求めている」と強調しました。
ただ、中国側は強硬な姿勢を崩していません。
中国外務省 毛寧 報道官
「関係部門の勧告は、完全に理にかなったものだ」
中国外務省の毛寧報道官は17日の会見で、「日本で中国国民を対象とした犯罪事件が多発している」などと主張し、渡航自粛の呼びかけを正当化しています。その上で、改めて発言の撤回を求めました。
中国外務省 毛寧 報道官
「我々は日本側が歴史と二国間関係に対し責任のある態度を持ち、一線を越えて火遊びをすることをやめ、誤った言動を撤回するよう促す」
「台湾統一」への“介入”に強く反発か 落としどころは?
なぜ、中国はこれほど反発を強めているのでしょうか。
JNN北京支局長 立山芽以子
「武力であれ平和的にであれ『台湾統一』という問題に、日本やアメリカが介入してくるのが中国にとっては最も嫌な展開。強くけん制することで、中国の意思を示す必要があったのではないか」
「台湾統一」は、習近平指導部が掲げる最も重要な目標。国家主権に直結する問題だけに、強い姿勢で出ざるを得ないという背景があります。
日本側の対応次第では、今後さらに強い措置をとる可能性もありますが、関係修復に向けた“落としどころ”はまだ見つかっていません。
JNN北京支局長 立山芽以子
「中国側は高市総理の答弁の撤回を求めているが、日本側は受け入れられないので、このまま平行線が続き、日中関係筋の間では、関係修復には『時間がかかるだろう』という悲観的な見方が広がっている」
中国在住の日本人に「安全確保に努めて」と注意喚起
北京にある日本大使館は17日夜、中国にいる日本人を対象に安全確保に努めるよう呼びかけるメールを出しました。
具体的には「現地の習慣を尊重し、言動や態度に注意する」「多くの日本人が集まる場所は避ける」よう呼びかけています。
日本大使館は「具体的な被害があったわけではないが、日中関係をめぐる報道が増えていることを踏まえて注意喚起した」としています。
「収拾に数か月かかる」日中の応酬“着地点”は?
藤森祥平キャスター:
日ごとにじわじわと緊張が高まっていますが、事態の収束に向かうのでしょうか。
TBSスペシャルコメンテーター 星浩氏:
まず、それぞれの外務省の局長同士が18日に接触しますが、この段階では進展はほぼ無理だということです。
17日に取材した日本側の政府高官は、「(問題の収拾には)数か月かかる可能性がある。粘り強く理解を求めていくしかない」と話していましたが、これが本音だと思います。
小川彩佳キャスター:
両者ともに平行線といいますか、引くに引けないような状況になっているようにも感じます。やはり日本側も発言を撤回できない理由があるわけですよね。
TBSスペシャルコメンテーター 星浩氏:
台湾の問題が中国にとって内政の問題だから引けないのと同じように、今回、問題になっている「存立危機事態」というのは日本の安全保障政策の根幹です。
“台湾有事の際には自衛隊が出動するかもしれない”と高市総理が言ったわけですが、高市総理の発言は、安全保障政策の非常に重要な部分・ピースなので、ここを撤回すると、日本の安全保障政策の根幹に関わるため、撤回できないというのが政策的・政治的な本音だと思います。
長引けば…最悪の場合、日米関係にも影響か
藤森祥平キャスター:
22日~23日に南アフリカで開催されるG20サミットで、高市総理と李強首相の会談があるのではないかと見られていましたが、中国側から「会う予定はない」と発表されました。
小川彩佳キャスター:
「対話のテーブルにも着かない」という強いメッセージなのでしょうか。
TBSスペシャルコメンテーター 星浩氏:
しばらくは、日中双方、特に中国は国内の世論や日本の反応を見定める時間になると思います。
最良のケースとして、話し合いが進展して、水面下で沈静化して、ヒトの交流再開に向かうということであれば良いと思います。
しかし、最悪のケースを考えると、中国側がさらにモノも規制対象にしたり、場合によっては中国が持っているレアアース の輸出規制をしたりする可能性もあります。
こうした状況が続くと、2026年4月にトランプ大統領が訪中することになっていますから、トランプ大統領が「日中関係が悪いので、米中で仲良くしよう」となり、日本が置いてけぼりにされることまで考えられます。そういう意味では、今は岐路に立っていると言っていいと思います。
小川彩佳キャスター:
最悪の展開を避けるためには、やはり水面下の交渉ということですか?
TBSスペシャルコメンテーター 星浩氏:
とりあえずは、お互いの接触を重ねていくしかないと思います。
最終的に、日本は今までの防衛政策と変わりないと言い続けることで矛を収める。日本側は米軍と自衛隊の訓練をしていますが、そこは曖昧にしておく。
中国側もそこは深入りしないというところで手が打てるかどうか。時間はかかるでしょう。
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<プロフィール>
星浩さん
TBSスペシャルコメンテーター
政治記者歴30年 福島県出身
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