3回目の入札が行われた備蓄米ですが、いまだスーパーなどで見かけない状況が続いています。落札された備蓄米はどこにあるのか?東北地方で備蓄米を倉庫で保管する約20の保管業者を取材すると、「いつ出荷するかなど具体的な指示が出されていない」との声が上がりました。
出回らぬ備蓄米…大臣は味に自信も消費者は「早く出せ」
24日、江藤農林水産大臣は記者を集めて、2022年〜2024年産の備蓄米を食べ比べる、クイズ形式の試食会を開催しました。
江藤拓 農林水産大臣
「『安かろう不味かろうではないんだ』ということをわかっていただいたほうが、消費者も安心して手を伸ばしていただけるのではないか」
大臣は、「どれもおいしい」と太鼓判を押しましたが、多くの消費者の関心はそこではありません。
――備蓄米を食べるとなると抵抗感はある?
買い物客
「ないです。だから早く出せよって」
コメの高騰が続く中、消費者はさまざまな方法で家計の負担を減らそうとしています。
大津屋商店 竹内森英 社長
「雑穀類のあわ・きび・もち麦とかを買われる方が増えてきています」
東京・上野にある雑穀などを扱う商店では、コメの価格高騰に比例して売上げが1.7倍ほどになっているといいます。
買い物客
「(白米に)もち麦とか、押し麦を混ぜたりしてる。今は値下げのために有効だよ。コメが高くなったから。昔は麦のほうが高いくらいだったけど、今はコメ(の価格)が倍になっちゃったから、麦のほうが安くなったね」
白米に混ぜて食べるという人が増えたことで、売上げは好調の一途をたどっていますが…
大津屋商店 竹内森英 社長
「お店的には売上は上がっているのはあれなんですけど、私たちもご飯を食べているので、なるべくコメ(の価格)は下がった方がいいなとは思います」
安い韓国産にベトナム産を求める消費者も…なぜ備蓄米が出回らない?
家計を心配する気持ちは、旅行先でも変わらないようです。
韓国・ソウルにある大手スーパーのコメ売り場では、日本の半額以下の10キロあたり3000円〜4500円ほどです。東京から来たという女性も…
東京からの観光客
「せっかく旅行にきたのに、家計の事を考えて…買って帰ろうかなって、本当マジで思って」
実際、韓国でコメを買って帰国する観光客がいま急増しているといいます。
ただ、日本にコメを持って帰る際は、空港などにある検疫所で、検疫証を発行してもらう必要があるほか、コメを海外から個人用として持ち込む場合は、納付金や関税を納める必要があるため、注意が必要です。
一方、日本でも、外国産のコメが店頭に並び始めています。輸入食材店ではベトナム産のコメが人気だといいます。
8000キロ仕入れたベトナム産のジャポニカ米は、2日で残り500キロまで減っていました。
スパイスハウス 林ゆかりさん
「一般のお客さまも『安いコメを買いにきました』ということで、やはり日本米の代わりになるジャポニカ米を買う人が増えている」
こうした中、コメ不足の頼みの綱である備蓄米は、まだ多くが店頭などに並んでいません。その理由について、江藤農水大臣はこのように説明しています。
江藤拓農水大臣(18日)
「3月、4月は特に人事異動の時期であったりですね、なかなかトラックの手配なんか難しかったりする部分もあったんだろうと思います」
備蓄米は、農林水産省が管理を委託した民間会社の倉庫で保管され、全国に約300か所あります。今回の放出では、備蓄米を落札したJAなどの集荷業者が倉庫側に連絡をして、トラックを手配、卸売業者などに運搬するという流れです。
今、倉庫にある備蓄米はどうなっているのでしょうか。倉庫会社を取材すると…
倉庫会社の担当者
「備蓄米を出荷するという連絡はあったが、それ以降、具体的な指示がない」
複数の会社で、いまだに出荷のメドがたっていないことがわかりました。
保管業者「出荷の具体的な指示がない」
藤森祥平キャスター:
備蓄米を保管している東北地方にある業者を取材すると、いろいろわかってきたことがあります。
保管倉庫に置いてある備蓄米は、「全農物流」という集荷業者がトラックを手配し、卸売業者、小売外食などへと流れていくそうです。
保管業者は、全農物流から「3月の入札後、出荷するという連絡はあったものの、それ以降、具体的な指示がない」ということでした。
また別の業者は、備蓄米を落札したJA全農から「『6月から一部出荷が始まる』という情報は入っている」ということでした。また、6月中には落札者分全部出荷を終える、という内容も伝わっているそうですが、具体的な動きはどうなるのか、いまだに疑問です。
さらに別の業者は「備蓄米の搬出は、通常業務+αの業務。どうしても搬出作業が遅れてしまう」と話しています。
こうした声について、JA全農は取材に対して、このようなコメントをしています。
「米穀卸売業者から発注されてから、出庫手配を行うまで、一定の事務日数がかかります。速やかにお届けするように、鋭意努めております」
備蓄米放出で浮き上がる“日本のガタ”
小川彩佳キャスター:
江藤農水大臣は、備蓄米が出回らないことについて、物流の問題を挙げていましたが、「具体的な出荷のタイミングの指示すらない」という保管業者の方の証言を得ました。
東京大学准教授 斎藤幸平さん:
緊急事態用の備蓄米なので、即座に放出して欲しいですよね。
しかし、今回浮かび上がってきているのは、単にコメの量が足りないという問題だけではありません。物流の人手不足もかなり深刻になっている。そういった意味では、日本全体のいろんなガタが現れ始めてきていて、これは今後さらに慢性化していく、構造的な問題だということです。
さらに今後は気候変動とかも加わり、暑さに強くないコシヒカリなどは、生産量がさらに下がっていくこともあります。ベトナムなどから輸入して一時しのぎは出来ても、一次産業がさらに衰退してしまえば本末転倒なので、何とか増産ができる体制を整えてほしいとイチ消費者としても強く願っています。
藤森キャスター:
今回は消費者とセットで生産者も守っていかなければいけないと、はっきりわかりましたよね。
斎藤幸平さん:
ただ、そういう中で農協に対するバッシングや、「投機目的で誰かが溜めているんじゃないか」「運送業がしっかりやってない」など様々なバッシングをして、責任をなすりつけ合う感じになりつつあります。
しかし根本的な問題は、日本人の主食であるコメを減反して生産調整を続け、絶対量が不足しているのであれば価格を上げて需給調整をする、という今のようなやり方では不十分であるという点です。絶対量を増やすという形で、価格を調整していくやり方にぜひ向かってほしいと思います。
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<プロフィール>
斎藤幸平さん
東京大学准教授 専門は経済・社会思想
ドイツ在住
著書『人新世の「資本論」』
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