
小泉農水大臣のもと始まった随意契約での「2000円の備蓄米」が店頭に並び始めた。一方で、すでに流通の現場では“ある変化”が。
【写真を見る】コメ不足が騒がれる中、生産の現場では“ある変化”が
古古米も「精米の技術」で美味しく
5月31日土曜日、午前9時。
千葉・松戸市にあるアイリスオーヤマ傘下のホームセンター『ユニディ松戸ときわ平店』では、長い行列に並んだ人たちが次々に備蓄米を手にしていた。
購入した男性:
「午前5時5分に並んだ。やっと手に入ったなという感じ」
販売価格は5キロで2160円。1人1袋の購入制限をかけたものの、65袋が完売した。
小泉農水大臣のもと始まった随意契約による備蓄米の放出。
29日、宮城・亘理町にある『アイリスオーヤマ』の精米工場には、備蓄米12トンが搬入され、急ピッチで精米・袋詰めが行われていた。
一方で、精米工場を持っている小売業者は限られていることから、埼玉県にあるコメ店『ナカムラ米販』(越谷市)では、1社の精米の依頼を引き受けたという。
代表取締役・中村貞昭さん
「『備蓄米を買ったんだけど精米してもらえますか』という電話があった。精米工賃だけだからおコメ屋さんとしては忙しい時は、たぶん受けたくない仕事。だけどそうは言っていられない。お客さんも待っているだろうし」
6月2日にまず5トン搬入され、その日のうちに納品する予定だという。
今後、続々と店頭に並ぶと予想される「2000円の備蓄米」。やはり気になるのは、味だ。
中村さん:
「通常<古古米>というと、ちょっと油焼けのにおい、古米臭がするが、精米の技術・やり方によって、なるべく通常のおコメの味に戻せるように手間をかける」
『ナカムラ米販』では、オリジナルの精米機を使用。三段階の精米工程で“古米臭が緩和され、甘味も残りやすい”という。
「2000円備蓄米」効果に疑問の声
実際、備蓄米はどれほどの需要があるのかー。
5月1日から備蓄米の販売を開始した福島市の『スーパーいちい 信夫ヶ丘店』。
23日の価格では、2024年産の備蓄米「福島県産ひとめぼれ」が5キロ・3480円と、他のコメよりも500円ほど安く売られていた。
女性客:
「助かるよね。味がどうのこうのなんて言わないほうがいい。古古米だって古古古米だって大丈夫よ」
備蓄米の販売初日にはコメのセールを実施し、5キロ・2980円に。かなりの数を発注していたが、それでも完売するほど客が殺到したという。
今回も「中小スーパー向けの随意契約」を検討していたというが、<年間1000トン以上の取り扱い>という要件を満たさず、卸業者から購入するなど対応を模索しているという。
備蓄米の随意契約について専門家からは、小泉大臣の意欲を評価する一方で“効果に懐疑的”な声も聞かれる。
『東京大学』大学院 特任教授・鈴木宣弘さん:
「備蓄米は量的にもそんなに多くない。それを一気に2000円ぐらいに下げることができても、今の絶対的なコメの不足状況を改善するのに、大きな効果があるとは思えない」
焼肉店が農家に直接「コメを売って」
コメ不足が改善されない場合、懸念されるのが“さらなるコメ価格の高騰”だ。
茨城県では6月中旬まで続くという田植えの最盛期を迎えているが、コメ不足が騒がれる中、生産の現場では“ある変化”が起きている。
『夢田ファーム』海老澤信之代表:
「2024年は飼料米も作っていたけど、それをやめて全面的に主食用米を作ってもいいのではないかと」
2024年までは、60ヘクタールのうち▼43ヘクタール⇒食用コシヒカリ▼残り⇒家畜などの飼料米にしていたが、2025年は全てを主食用にするとのこと。
さらに…
海老澤代表:
「いつも来ない業者が『お米をどうか売ってください』と。うちに来てるのは大体フランチャイズ。焼肉屋さんが多い」
提示されたのは【30トン・約1200万円=60キロ・約2万4000円】。
2024年に「JA全農いばらき」が生産者に払ったコシヒカリ概算金(前払い金)【60キロ・1万8000円】を大きく上回っている。
『東京大学』大学院の鈴木特任教授によると、コメ不足を受けまさに“青田買い”状態で、生産者の段階で【60キロ・3万円ぐらい】で取引されているとのこと。
そうなると、「秋に出てくるコメの値段も5キロ・4000円を超える値段になる」(鈴木特任教授)という。
しばらくは、▼通常の4000円台のコメ▼3000円台の備蓄米▼2000円ぐらいの備蓄米が併存するような形になるというが、一方で『夢田ファーム』の海老澤代表は、農家として「2000円の備蓄米」に理解を示しつつも、葛藤もあると話す。
海老澤代表:
「例えば2025年に導入した田植えの機械は560万円。我々みたいに広い面積をやればやるほど機械が傷んでくるから、設備投資はするしかない。全ての資材の価格が上がっているので、いまの単価で我々農家は高いとは思わない。おコメというのは決して安いものじゃない。苗を作るだけでも手間がかかる。田植えまでも手間や経費がかかっている。店頭に並んでいるのが当たり前じゃない」
「違い感じない」飲食店で広がる“輸入米”
⻑引くコメ価格の高騰を背景に、小売や外食の現場では、「輸入米」を扱う動きが広がっている。
ランチタイムで賑わっていたのは、東京・千代田区にある『食堂 新(あらた)』。
看板メニューの「鯖の黒煮定食」(950円)は、継ぎ足しのタレで2日間煮込んだサバとご飯の相性が抜群だ。
『食堂 新』平野 新さん:
「定食メニューを1000円を切れるか、1000円に近い価格で出せるように、たぶんしばらくは“カルローズ米”でいくのかなと思う」
店で使っているのは、仕入れ値「5キロ・2900円」と国産米に比べ割安のアメリカ産カルローズ米。コメの価格が上がりだした1年半前に国産米から変更したという。
男性客:
「劇的に違うという感じはしない。むしろ外国産でもいいのかもしれない」
関税上乗せしても「国産米より割安」
日本政府は、国際的な取り決めにより、アメリカやタイなどから年間約77万トンのコメを「ミニマムアクセス米」として“関税をかけず”に輸入している。
食品を中心に、鉄鋼、化学品など手広く扱う総合商社『兼松』(東京本社・千代田区)では、2024年まではこの「非関税」の輸入米を扱っていたが、2025年からは関税がかかる輸入米を扱い始めた。
1キロあたり341円の関税を上乗せしても、店頭での販売価格は5キロ・3000円台前半と割安だと言う。
穀物部原料課⻑・嶋崎英彦さん:
「このような関税が設定されている状況であれば、海外から枠外でコメが輸入されることはほぼ起こらない。想定外の逆転現象が起こってしまっている」
『兼松』では、備蓄米放出の影響は限定的だとみていて、予定通りの数量を輸入するとのことだ。
求められる“コメ余り時代”からの転換
今後 コメの価格は、いくらに落ち着いていくのだろうかー。
『東京大学』大学院 特任教授・鈴木宣弘さん:
「店頭価格は5キロで3500円とか3000円ぐらいのレベル。ただ消費者はまだそれでも高いと思うかもしれない。生産者にとっての適正米価と消費者にとっての適正米価に乖離がある」
そして、適正米価を維持するために必要なのは「政府の介入」だという。
鈴木特任教授:
「増産しないとコメ不足は解消しない。しかし増産して米価が下がったら作れなくなる。増産してもらって価格が下がったら、その分“生産者も継続できるような手取りになるように”支援するお金を払うことで、生産者も消費者もWin-Winになるような仕組みが必要」
番組コメンテーターの細川昌彦さんも、これまでの“コメ余り時代の政策”からの転換が必要だと話す。
『明星大学』経営学部教授 細川昌彦さん:
「一時的にコメが足らず高騰しているのではなく、構造的にコメ不足があることを前提に考えなければならなくなってきた。かつては農水省が生産量をきちんと把握し管理することができた時代だったが今はそういう実態ではない。抜本的に生産を拡大していき、いかにして生産者の所得を保障していくかという仕組みに変えていく必要がある」
(BS-TBS『Bizスクエア』 2025年5月31日放送より)
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